第19話 何も起きていない顔
それから、時間は進んだ。
季節が一つ、
静かにずれた。
朝は少し寒くなり、
教室では上着を羽織る生徒が増える。
テストの話。
行事の準備。
学校は、
いつも通りに動いている。
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ひよりは、
今日も席に座っていた。
ノートを開き、
ペンを持つ。
文字は書ける。
提出物も出せる。
だから、
問題はない。
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スマホが震える。
ひよりは、
画面を確認してから、
すぐに伏せた。
今日も、呼び出しがあった。
理由は、
もう読まない。
場所も、
聞かない。
ひよりは、
その時間に合わせて、
行動を組み替える。
授業。
用事。
帰り道。
生活の中に、
自然に組み込まれていく。
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ひかりは、
教室に来ない日が増えた。
理由は、
誰も詳しく知らない。
体調不良。
用事。
それで十分だった。
来ている日は、
以前と同じ席に座る。
声をかければ、
返事はある。
「大丈夫?」
「うん」
それ以上、
続かない。
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一緒に帰らなくなって、
どれくらい経ったか。
正確な日数は、
ひよりも覚えていない。
覚える必要が、
なかった。
連絡は、
用事があるときだけ。
それも、
短く。
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夜。
ひよりは、
ベッドに横になりながら、
今日を思い返す。
呼び出しがあった。
学校にも行った。
それだけだ。
学校でも、
部屋でも、
もう区別はなかった。
どこで起きたかを、
思い出さないようにしていた。
思い出す必要が、
もうなかった。
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ひかりも、
同じように夜を迎えている。
眠れない日が増え、
朝が重くなる。
それでも、
理由を探さない。
探せば、
立ち止まってしまいそうだから。
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ふたりは、
同じ時間を生きている。
同じ場所に、
いることもある。
でも、
同じ出来事を、
共有しなくなった。
それだけで、
十分に距離は開いていく。
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何も起きていない。
少なくとも、
そう見える日々が続く。
その裏で、
確実に、
何かが削れている。
誰にも見えないところで。




