第18話 気づかない選択
朝、目が覚めたときから、
ひかりは少しだけ調子が悪かった。
体が重い。
頭が、はっきりしない。
熱はない。
痛みもない。
ただ、
うまく力が入らない感じが続いている。
「……まあ、いいか」
そう言って、
制服に袖を通した。
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学校では、
いつも通りに振る舞った。
委員長の仕事。
連絡事項。
提出物の確認。
やることは分かっている。
体が覚えている。
だから、問題はない。
——はずだった。
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昼前、
急に立ちくらみがした。
ほんの一瞬。
机に手をついて、
深呼吸をすれば収まる程度。
周りには、気づかれていない。
「大丈夫」
誰かに聞かれても、
そう答える準備はできている。
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ひよりの席を見る。
いる。
前を向いている。
声をかけようとして、
やめた。
理由は、分からない。
ただ、
今はやめた方がいい、
そんな気がした。
踏み込んだら、
壊れるものがある気がして。
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放課後。
委員長の仕事で、
少し残る。
書類をまとめながら、
ひかりは何度か、
息を整えた。
胸の奥が、
むずむずする。
気持ち悪い、というほどじゃない。
でも、
無視できるほど軽くもない。
「……あとで、保健室行こうかな」
そう思って、
そのまま帰った。
結局、行かなかった。
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夜。
夕飯を前に、
箸が止まる。
「食べないの?」
しずくの声に、
ひかりは一瞬遅れて顔を上げた。
「……食べる」
口に運ぶ。
味はする。
でも、
途中で気分が悪くなって、
席を立った。
洗面所で、
水を飲む。
鏡に映った自分は、
少しだけ顔色が悪かった。
「疲れてるだけ」
そう言って、
目を逸らす。
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布団に入っても、
すぐには眠れなかった。
天井を見ながら、
ひよりのことを考える。
最近、
あまり話していない。
避けているわけじゃない。
嫌いになったわけでもない。
ただ、
触れない方がいい、
そんな距離がある気がして。
——守るって、
何だったっけ。
その答えを考える前に、
ひかりは眠りに落ちた。
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翌朝。
起き上がろうとして、
少しだけ、
気分が悪くなった。
「……あれ?」
その感覚に、
ひかりは初めて、
小さな違和感を覚える。
でも、
その違和感を、
すぐに「気のせい」にした。
今は、
考えなくていい。
今は、
普通でいればいい。
そうやって、
ひかりは今日も、
学校へ向かう。




