第16話 夜を越えて
夜だった。
ひよりは、
部屋の灯りを消したまま、
ベッドの上で動かなかった。
昼間、学校を休んだことを、
後悔しているわけじゃない。
ただ、
静かにしていたかった。
ノックは、なかった。
代わりに、
鍵の音がした。
ドアが開く音。
足音が、
部屋の中に入ってくる。
ひよりは、
起き上がらなかった。
起き上がる理由が、
もう分からなかった。
何か言われた気がする。
でも、
言葉は頭に残らない。
時間の感覚が、
そこで曖昧になる。
⸻
次に意識がはっきりしたとき、
外はもう明るくなりかけていた。
カーテンの隙間から、
朝の光が差し込んでいる。
体が、重い。
どこが、というより、
全体が。
ベッドの上で、
ひよりはしばらく動けなかった。
「休んだら、分かってるよな」
低い声が、
耳に残っている。
それだけで、
十分だった。
——行くしかない。
学校に。
ひよりは、
ゆっくりと起き上がった。
鏡は、見なかった。
⸻
学校へ向かう道。
足取りは、
昨日よりも重い。
それでも、
止まらない。
止まる選択肢が、
もう残っていなかった。
校舎に入る。
廊下の音。
教室のざわめき。
全部、
昨日までと同じだ。
席に着いて、
ひよりは隣を見る。
——いない。
ひかりの席が、空いていた。
遅刻、という時間でもない。
休んでいる。
その事実に気づいた瞬間、
胸の奥が、わずかに緩む。
——今の顔、見られなくてよかった。
そう思ってしまったことに、
少しだけ驚く。
でも、
否定はしなかった。
今は、
それでよかった。
チャイムが鳴る。
授業が始まる。
ひよりは、
ノートを開いた。
文字は、見える。
意味は、遠い。
それでも、
席に座っている。
来ている。
それだけで、
今日をやり過ごせる気がした。
隣の席は、
最後まで埋まらなかった。
ひよりは、
前を向いたまま、
何も考えないようにしていた。
夜のことも。
朝の言葉も。
ただ、
今日を終わらせるために。




