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第13話 更新

寮の部屋に戻っても、

ひよりはすぐに鞄を下ろせなかった。


ベッドの横に立ったまま、

しばらく動かない。


部屋の中は静かで、

昨日と同じはずなのに、

空気だけが少し重い。


ポケットの中で、

スマホの存在だけがはっきりしていた。


——まだ、見てない。


そう思ったところで、

思考はそれ以上進まなかった。


ひよりは、

ベッドに腰を下ろしてから、

ゆっくりとスマホを取り出した。


画面を点ける。


通知は、

一つじゃなかった。


名前を見るだけで、

指先が冷える。


読む前から、

体が反応してしまう。


ひよりは、

一つ目のメッセージを開いた。


「ちゃんと来たな」


短い文。


それだけで、

胸の奥がきゅっと縮む。


次。


「約束、忘れてないよな」


約束。


そう呼ばれた瞬間、

否定する言葉が消える。


画面をスクロールすると、

写真が表示された。


一瞬、何が写っているのか分からない。

次の瞬間、理解してしまう。


——ああ。


息が止まる。


ひよりは、

慌てて画面を伏せた。


でも、

もう遅かった。


「誰にも言うな」


それだけ。


理由も、説明も、

それ以上の言葉もない。


それでも、

十分だった。


ひよりは、

何も考えられなくなる。


どうすればいいか。

どうしたいか。


そういう順序が、

すべて抜け落ちる。


ただ、


——言わない。


それだけが、

体に残った。


怖い、という感情は、

少し遅れてやってくる。


でも、

それを処理する余裕はなかった。


ひよりは、

スマホを伏せたまま、

布団に潜り込む。


体を丸める。


涙は、出なかった。


震えも、

しばらくすると止まった。


代わりに、

何も感じなくなる。


——これでいい。


そう思ったわけでもない。


ただ、

それ以外の動き方を

思い出せなかった。



夜は、

ほとんど進まなかった。


眠れないまま、

時間だけがずれていく。


カーテンの隙間が、

少しずつ明るくなる。


ポケットの中で、

スマホが震えた。


一度。


間を置いて、

もう一度。


ひよりは、

布団の中で身動きもせず、

画面を点けた。


短い文。


「明日」


続けて。


「放課後、あの教室に来い」


名前は、書かれていない。

でも、分かる。


前に連れて行かれた場所。


使われていない。

人の通らない。

あの部屋。


理由は、書かれていなかった。


脅しも、説明もない。


それでも、

行かない、という選択肢は浮かばなかった。


「来なかったらどうなるかは分かってるよな」


最後の一文。


それで、十分だった。


ひよりは、

スマホを伏せる。


通知を切ることもしなかった。


切ったところで、

明日が消えるわけじゃない。


布団の中で、

息を吸って、吐く。


心臓の音が、

やけに大きい。


——学校には、行く。

——放課後も、残る。

——あの部屋に、行く。


順番に並べると、

ただの予定みたいだった。


そこに、

感情は入らなかった。


怖いとか、

嫌だとか、

そういう言葉は、今は遠い。


ひよりは、

天井を見たまま、

朝が来るのを待った。


行くしかない朝が、

もう決まっている。

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