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選ばれる資格がない平民ですが、貴族の彼が世界ごと選び直しました ~婚姻制度に拒まれた私を、彼は最後まで手放さなかった~  作者: 水城ルナ


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第4話 資格のない者

 翌朝、王都は異様な静けさに包まれていた。


 噂は、確実に形を持ち始めている。

 それを、記録院に入った瞬間、肌で感じた。


 同僚たちの視線が、私に集まっては逸れる。

 ひそひそとした声が、背後で交わされる。


「……あの人、まだ辞めてないの?」

「さすがに居づらいでしょうに」

「公爵家の問題に、平民が関わるなんてね……」


 胸が、ひりつく。


 ――分かっていたことだ。


 制度は、感情を排除する。

 そこに属さない存在は、自然と“異物”になる。


 私は机に向かい、淡々と仕事をこなした。

 記録を取り、確認し、署名を回す。いつも通りの作業。


 なのに、手が震えていた。


「リナ、院長がお呼びよ」


 マリアの声に、心臓が跳ねる。


「……分かりました」


 逃げ場はない。

 私は書類を置き、院長室へ向かった。


「単刀直入に言おう」


 院長は、私を椅子に座らせるなり、そう切り出した。


「君は、アルヴェイン公爵家の婚姻案件から外れてもらう」


 一瞬、意味が理解できなかった。


「……外れる、とは」


「記録補助官としての関与を禁ずる、ということだ」


 冷静な声だった。感情はない。

 ただ、“処理”されているだけ。


「これは懲罰ではない。むしろ、配慮だ」


 配慮。

 その言葉が、妙に重く響く。


「平民が関わり続ければ、君自身が傷つく。噂も、圧力も、これからもっと酷くなる」


「……分かっています」


 分かっている。

 だからこそ――


「では、なぜ?」


 院長の視線が、鋭くなる。


「なぜ、距離を置かない。なぜ、まだ彼のそばにいる」


 言葉に、棘はなかった。

 ただ、理解できないものを見る目だった。


「……選ばれる資格がないから、ですか」


 自分の口から出たその言葉に、胸が痛む。


「そうだ」


 院長は、はっきりと頷いた。


「君は、制度上“存在しない”」


 それが、この世界の答えだった。


「彼がどれほど想っていようと、関係ない。未来を決めるのは、個人ではなく国だ」


 私は、ゆっくりと立ち上がった。


「……分かりました」


 拒む理由は、ない。


「本日付で、異動となる。地方記録庫だ」


 事実上の左遷。

 でも、これは――逃げ道でもある。


「ありがとうございます」


 頭を下げると、院長は少しだけ目を伏せた。


「君は、よくやった」


 それだけが、救いだった。


 院長室を出た瞬間、廊下の向こうに、彼がいた。


 レオン様。


 なぜ、ここに――


「話は聞いた」


 低い声だった。


「異動だな」


 胸が、ぎゅっと締め付けられる。


「……ご迷惑をおかけしました」


「誰が、誰に?」


 彼の視線は、鋭い。


「俺は、何も頼んでいない」


「それでも……」


 私は、言葉を続けられなかった。


「これは、制度が君を排除しただけだ」


 彼は、私の前に立つ。


「だが、それを受け入れるかどうかは、俺が決める」


「レオン様、お願いします」


 必死に、声を絞り出す。


「これ以上、事を荒立てないでください。これは……正しい判断です」


「正しい?」


 彼は、静かに問い返した。


「君が追い出されるのが?」


 言葉に詰まる。


「……平民だから、です」


 それが、唯一の理由。


「やはり、そこに行き着くか」


 彼は、ゆっくりと息を吐いた。


「なら、確認しよう」


 一歩、前へ。


「平民は、選ばれてはいけないのか」


 その問いに、私は答えられない。


「資格がない、というだけで」


 さらに一歩。


「想いも、功績も、すべて無視されるのか」


 胸が、苦しい。


「……それが、この国のやり方です」


 やっと、言えた。


 彼は、少しだけ目を細めた。


「なら、この国は間違っている」


 あまりにも、はっきりとした断言だった。


「レオン様……!」


「君は、地方へ行く必要はない」


 彼は、断言する。


「俺が、止める」


「無理です!」


 思わず、声を荒げた。


「これは、正式な通達で……!」


「だから、俺が覆す」


 当然のように言う。


「俺は、君を切り捨ててまで守る未来など、必要ない」


 その言葉に、膝が震えた。


 ――この人は、本当に。


「覚悟はある」


 彼は、まっすぐ私を見る。


「制度と敵対する覚悟も、追い出される覚悟も」


 一瞬、沈黙。


 そして、最後にこう言った。


「だが、君が俺を拒むなら、無理強いはしない」


 視線が、痛い。


「君自身が選べ」


 私の、選択。


 選ばれない世界で、

 それでも彼の隣に立つのか。


 胸の奥で、答えはもう決まっていた。


 けれど――


 それを口にするには、

 私はまだ、弱すぎた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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