表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
選ばれる資格がない平民ですが、貴族の彼が世界ごと選び直しました ~婚姻制度に拒まれた私を、彼は最後まで手放さなかった~  作者: 水城ルナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/8

第3話 選ばないという選択

 その日から、王都の空気は明らかに変わった。


 婚姻登録期限が迫っている――その噂は、貴族社会を巡るには十分すぎる燃料だった。記録院でも、表向きは業務に集中しているふりをしながら、皆が同じ話題を共有している。


「アルヴェイン公爵家、まだ決まらないなんて珍しいわね」

「裏で何か揉めてるんじゃない?」

「さすがに、期限を過ぎるなんてありえないでしょう」


 私は、それらの声を聞かないふりをしながら、書類に向かっていた。


 ――もう、私には関係のない話。


 そう思わなければ、立っていられなかった。


 けれど、逃げるように距離を取っても、彼は消えてくれない。


 視線を感じて顔を上げると、廊下の向こうに、レオン様の姿があった。誰かと話している最中でも、ふとした瞬間に、こちらを確認するような視線。


 それだけで、胸が苦しくなる。


「……だめ」


 私は小さく呟き、書類を抱えて席を立った。


 今日は、これ以上ここにいられない。


 記録院の裏手、ほとんど使われていない中庭。

 人の少ないこの場所は、私にとって唯一、息ができる場所だった。


「ここにいると思った」


 背後から声がして、心臓が跳ねる。


 振り返らなくても、誰かは分かっていた。


「……来ないでください」


 それでも、彼は歩み寄ってくる。


「君が避けているのは分かっている」


「分かっているなら……!」


 思わず、感情が溢れた。


「どうして、追いかけてくるんですか。あなたは今、そんなことをしている場合じゃないでしょう」


 彼の足が止まる。


「俺が今、向き合うべきなのは君だ」


 その即答に、言葉を失う。


「……私は、足を引っ張る存在です」


 視線を逸らしながら、続けた。


「平民で、登録資格もなくて。あなたの未来に、何も与えられない」


 ずっと、胸に溜め込んでいた言葉だった。


「あなたが婚姻登録を拒否すれば、地位も、信頼も、失うかもしれない。それなのに――」


「それでも、だ」


 彼は、静かに言った。


「君は勘違いしている」


 近づく足音。

 気づけば、逃げ場のない距離まで来ていた。


「俺の未来に、君がいないなら」


 低く、はっきりと。


「それは、失う価値もない未来だ」


 胸が、強く締め付けられる。


「そんな……簡単に言わないでください」


「簡単じゃない」


 彼の声には、わずかな怒りすら滲んでいた。


「簡単じゃないからこそ、俺は何度でも選ぶ」


 私は、唇を噛みしめる。


「……どうして、そこまで」


「君がいなければ、俺はここに立っていない」


 その言葉に、息が詰まった。


「俺がこの立場にいられるのは、君が支えてきたからだ。記録も、調整も、裏方の仕事も。君がいたから、俺は前に出られた」


 そんなふうに思っていたなんて、知らなかった。


「君は、選ばれない存在なんかじゃない」


 一歩、距離を詰めて、彼は言う。


「選ばれないようにしているのは、この世界だ」


 視界が滲む。


「……世界を敵に回す覚悟、ありますか」


 絞り出すように問うと、彼は一瞬も迷わず頷いた。


「ある」


 あまりにも即答だった。


「最初から、そのつもりだ」


 胸の奥で、何かが壊れる音がした。


 嬉しい。

 怖い。

 でも、それ以上に――


「……ずるいです」


 涙が、頬を伝った。


「そんなふうに言われたら……信じてしまうじゃないですか」


 彼は、困ったように微笑んだ。


「信じればいい」


 そして、はっきりと言った。


「君は、俺の味方だ。なら俺も、君の味方でいる」


 ――たとえ、制度がどうであろうと。


 その瞬間、私は悟ってしまった。


 この人は、

 選ばないという選択肢を、最初から持っていない。


 彼は、選び続ける人なのだ。


 世界がそれを許さなくても。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


明日も3話投稿予定です。


ブックマークをして、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ