第12話 特別という名の檻
呼び出しは、これまでとは違った。
封書は上質な紙に包まれ、文面も丁寧で、どこにも命令口調はない。
それが、かえって不気味だった。
「……“特別顧問”?」
書かれていた肩書きを、私は声に出して読んだ。
「記録院直属ではない。
評議会付きの、例外的立場だ」
レオン様が、静かに説明する。
「役職は与える。
責任も、権限も、ある程度は」
「つまり……」
言葉を探す。
「平民のまま、制度の中に戻る、ということですか」
「そうだ」
彼は、私を見る。
「君を“排除できない存在”だと認めた。
だから、囲い込もうとしている」
胸が、ざわついた。
それは、勝利のようにも見える。
でも――
「……それって」
視線を落とす。
「本当に、選ばれたと言えるんでしょうか」
沈黙。
彼は、すぐには答えなかった。
指定された応接室には、三人の評議会代表がいた。
誰もが穏やかな笑みを浮かべている。
「リナ・エルフェルト殿」
最年長の男が、ゆっくりと口を開く。
「あなたの働きは、無視できないものとなりました」
胸の奥が、冷たくなる。
「そこで、提案です」
差し出された文書。
「あなたを、“特別顧問”として迎えたい」
条件は、魅力的だった。
身分は平民のまま
婚姻登録の例外適用
職務における発言権の保証
――まるで、すべてが解決するように見える。
「ただし」
男の声が、少し低くなる。
「活動範囲は、評議会の管理下に置かれます」
やはり、そこだ。
「独断での助言は禁止。
非公式活動は、今後一切認めない」
私は、文書を見つめたまま、問いかけた。
「……それは、私が“私として動けなくなる”ということですか」
男は、笑った。
「組織とは、そういうものです」
その言葉で、はっきりした。
これは、救済ではない。
封じ込めだ。
屋敷に戻った私は、応接室で立ち尽くしていた。
「……どう思いますか」
レオン様に、正直に聞く。
「受ければ、楽になる」
彼は、率直だった。
「君は守られ、制度も満足する」
「でも」
「だが、君は“選ばれた存在”ではなくなる」
はっきりと言い切る。
「都合よく使われる“例外”になる」
その言葉に、胸が締め付けられる。
「……私」
小さく息を吸う。
「一瞬、心が揺れました」
正直な気持ちだった。
「もう、戦わなくていいって……思ってしまって」
彼は、否定しなかった。
「当然だ」
むしろ、優しい声。
「君は、十分に戦った」
沈黙。
私は、ゆっくりと顔を上げる。
「でも」
自分でも、驚くほどはっきりした声で。
「それを受け入れたら、
私はまた“選ばれない側”に戻る気がします」
彼の目が、少しだけ見開かれる。
「選ばれたふりをして、
本当は、選ばれていない」
胸の奥が、熱くなる。
「……それは、嫌です」
はっきりと言えた。
レオン様は、少しだけ笑った。
「そうだろうな」
立ち上がり、私の前に来る。
「なら、答えは決まっている」
「はい」
私は、頷いた。
「断ります」
翌日、返答は伝えられた。
評議会の反応は、静かだった。
だが、それが嵐の前触れだと、私たちは分かっていた。
「……もう後には引けないな」
レオン様が、窓の外を見ながら言う。
「はい」
私は、隣に立つ。
「でも」
一瞬、彼を見る。
「後悔は、していません」
彼は、こちらを見る。
「俺もだ」
そして、静かに言った。
「君は、もう“選ばれない存在”じゃない」
その言葉に、胸が温かくなる。
だが同時に――
世界は、次の一手を打つだろう。
例外を拒んだ存在を、
本当の意味で選ぶか、
完全に排除するか。
その分岐点は、もう目の前だった。
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