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選ばれる資格がない平民ですが、貴族の彼が世界ごと選び直しました ~婚姻制度に拒まれた私を、彼は最後まで手放さなかった~  作者: リリア・ノワール


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第11話 それでも必要とされる

 処分は、予想よりも早く、そして静かに下された。


「……業務停止?」


 差し出された通達書を見て、私は一瞬、意味を取り違えたのかと思った。


「正式には、“記録院業務からの一時排除”だ」


 レオン様が、淡々と説明する。


「君の立場を曖昧にすることで、

 制度側は影響力を削ごうとしている」


 つまり――

 私は、役職を失った。


「やはり……来ましたね」


 声は不思議と落ち着いていた。

 怖くないわけではない。

 でも、予想していた未来だった。


「君は、ここにいなくていい」


 レオン様は、はっきりと言う。


「屋敷に留まれ。

 これ以上、矢面に立つ必要はない」


 その言葉は、優しさだ。

 でも――


「……それは、嫌です」


 私自身の声に、少し驚いた。


 彼が、こちらを見る。


「私は、もう“戻れ”と言われる場所がない」


 平民に戻れ。

 それは、最初から居場所がなかった、という意味だ。


「だったら」


 胸を張る。


「今いる場所で、立ち続けたい」


 一瞬の沈黙。


 そして、彼は小さく笑った。


「……強くなったな」


「いいえ」


 首を振る。


「ただ、逃げなくなっただけです」


 その日の午後、思いもよらない客が訪れた。


「失礼します……」


 控えめな声で名乗ったのは、地方治水局の職員だった。


「リナ・エルフェルト様で、間違いありませんか」


 私とレオン様は、顔を見合わせる。


「……はい」


「先日の、水脈変動の件ですが」


 彼は、深く頭を下げた。


「あなたの補助意見がなければ、

 村が一つ、流されていました」


 胸が、強く打たれる。


「正式な立場でなくとも構いません。

 どうか……助言をいただけないでしょうか」


 その言葉は、命令でも、制度でもなかった。


 必要とされているという、純粋な事実だった。


 私は、思わずレオン様を見る。


 彼は、静かに頷いた。


「答えは、君が決めろ」


 私は、深く息を吸った。


「……私でよければ」


 職員の顔が、ぱっと明るくなる。


「ありがとうございます!」


 それを皮切りに、同じような依頼が、少しずつ増え始めた。


 災害予測。

 外交記録の補助。

 過去の失策の検証。


 どれも、“制度の外”からしか拾えない仕事だった。


「……皮肉なものだな」


 夜、資料に囲まれながら、レオン様が呟く。


「立場を奪われた途端、求められる」


「はい」


 私は、小さく笑った。


「選ばれないからこそ、呼ばれる場所がある」


 その言葉に、彼はしばらく黙っていた。


「君は、もう一つの制度になりつつある」


「……それ、怖いですね」


「だが、誰にも否定できない」


 彼は、私を見る。


「必要とされている限り、存在は消えない」


 その言葉が、胸に残った。


 一方、評議会では。


「……排除したはずではなかったのか」


「完全には、切れません」


「現場が、彼女を使っている」


 苛立ちが、声に滲む。


「制度を無視する平民など、前例がない」


 誰かが、低く言った。


「ならば――

 前例にしてしまえ」


 沈黙。


「“特別な存在”として扱えばいい」


 それは、救いのようで――

 罠でもあった。


 その夜、私は窓辺に立って、王都の灯りを見下ろしていた。


「……戻れと言われなくなったら」


 ぽつりと、呟く。


「次は、何を失うんでしょうね」


 レオン様は、静かに隣に立つ。


「失う前に、選び続ければいい」


 簡単なことのように言う。


「俺は、君を選ぶ」


 その言葉に、もう疑いはなかった。


 でも、分かっている。


 世界は、

 “選ばれない存在”を、都合よく使い始めた。


 次に来るのは、

 拒絶ではなく――取り込みだ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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