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選ばれる資格がない平民ですが、貴族の彼が世界ごと選び直しました ~婚姻制度に拒まれた私を、彼は最後まで手放さなかった~  作者: 水城ルナ


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第10話 平民に戻れ

 それは、あまりにも事務的な形で届いた。


「……呼び出し?」


 私の手元に渡された封書には、簡潔な文言だけが記されていた。


記録補助官リナ・エルフェルト

王都記録院 臨時聴取への出頭を命ずる


 理由は、書かれていない。


 それだけで、十分すぎるほど分かった。


「行く必要はない」


 レオン様は、封書を一目見るなり言った。


「これは、圧力だ」


「分かっています」


 私は、静かに答えた。


「でも、行きます」


 彼の視線が、鋭くなる。


「危険だ」


「ええ」


 それでも、私は首を振らなかった。


「ここで逃げたら……また、身を引いたことになります」


 沈黙。


 やがて、彼は小さく息を吐いた。


「……分かった」


 短い言葉。


「だが、俺も行く」


「それは……」


「譲らない」


 きっぱりとした口調だった。


「君一人を、矢面に立たせない」


 その言葉に、胸の奥が熱くなる。


「ありがとうございます」


 小さく頭を下げると、彼は困ったように微笑った。


「礼を言われる筋合いじゃない」


 聴取室は、記録院の奥、窓のない部屋だった。


 机を挟んで座るのは、婚姻管理局と評議会の合同監査官。

 表情は、驚くほど無機質だ。


「リナ・エルフェルト」


 名前を呼ばれ、私は背筋を伸ばす。


「最近、あなたの関与した非公式報告が、複数の判断に影響を与えています」


「はい」


「立場を理解していますか?」


 質問は、穏やかだった。


 だが、その裏にある意味は明確だ。


「平民であるあなたが、

 制度外の影響力を持つことは、想定されていない」


 ――平民に戻れ。


 そう言われているのと同じだった。


「私は、記録を整理し、補助意見を出しただけです」


 できるだけ、淡々と答える。


「判断したのは、現場です」


「ですが」


 監査官の一人が、紙を叩く。


「あなたの名前があることで、

 アルヴェイン家の影響が疑われる」


 その瞬間、隣に座っていたレオン様が口を開いた。


「それは、私の責任だ」


 監査官たちの視線が、一斉に彼へ向く。


「彼女は、私の指示で動いた」


 嘘ではない。

 だが、すべてでもない。


「ならば尚更だ」


 別の監査官が言う。


「公爵家が、平民を通じて制度に介入する。

 これは、前例を作る」


「前例を恐れて、結果を無視するのか」


 レオン様の声は、冷静だった。


「被害は防がれた。

 それでも、彼女を排除する理由があると?」


 監査官たちは、一瞬、言葉に詰まった。


 だが、すぐに立て直す。


「……我々は、あなた個人を責めているわけではありません」


 視線が、私に戻る。


「あなたは、本来、ここに立つべき存在ではない」


 胸が、痛んだ。


 それでも、私は顔を上げた。


「それは……分かっています」


 自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。


「私は、選ばれる資格がない」


 部屋の空気が、張り詰める。


「ですが」


 一歩、前に出る。


「資格がないからこそ、見えるものもあります」


 監査官が、眉をひそめた。


「……何が言いたい」


「制度に組み込まれていない者だから、

 見落とされてきた記録に気づける」


 震えそうになる声を、必死で抑える。


「それは、危険ではなく――」


 一瞬、言葉を探し、


「可能性です」


 沈黙。


 レオン様が、横で静かに頷いた。


「彼女は、平民であることを武器にしている」


 その言葉に、はっとする。


「それは、制度が想定していなかった価値だ」


 監査官たちは、互いに視線を交わした。


 完全に否定はできない。

 だが、認めたくもない。


「……本日のところは、ここまでとします」


 そう告げられ、聴取は終わった。


 勝ちではない。

 だが、負けでもなかった。


 部屋を出た廊下で、私は大きく息を吐いた。


「……怖かったです」


 正直な感想だった。


「だろうな」


 レオン様は、少しだけ苦笑する。


「だが、よく言った」


「正直、震えていました」


「それでも、立っていた」


 その一言が、何より嬉しかった。


「リナ」


 彼が、足を止める。


「君はもう、“守られるだけの存在”じゃない」


 まただ、と思う。

 でも、今度は違った。


「はい」


 私は、はっきりと答えた。


「……それでも、守ってもらえると、嬉しいです」


 一瞬、彼が目を瞬かせる。


 そして、柔らかく笑った。


「もちろんだ」


 当たり前のように。


「選ぶと決めた相手は、何度でも守る」


 その言葉に、胸がいっぱいになる。


 けれど同時に、分かっていた。


 これは、序章に過ぎない。


 世界は、まだ――

 本気で、私を排除しようとしていない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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