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001- 人類、ログイン完了

武田健人たけだ・けんとは、現実が嫌いだった。


大学の講義は退屈で、試験には意味を感じない。

人間関係は表面だけで、心がどこにも向いていなかった。


——ゲームだけが違った。


努力すれば強くなれる。

耐え抜けば、結果が返ってくる。

失敗しても、それは自分が弱かっただけ。


それは、フェアだった。


二十歳の大学生である健人は、最低限の出席だけをこなし、帰宅するとすぐ部屋にこもる。

カーテンを閉め、ドアをロックし、別の世界へ入る。


その日、珍しくやることがなかった。


そして、また目に入った。


《EIDOLON ONLINE》


世界中を支配しているゲーム。


リリースから、わずか一週間。


ダウンロード数――10億。


広告もない。

運営会社も不明。

それなのに、誰もが遊んでいる。


配信では、現実と見分けがつかない大陸。

生きているように動くモンスター。

あまりにも“リアルすぎる”と囁かれていた。


健人は今まで無視してきた。


未クリアのゲームが嫌いだったからだ。


だが、今日は違った。


「……一回だけ、だな」


ダウンロードは、異常なほど早く終わった。


次の瞬間——画面が暗転する。


ログイン成功。


光が、健人を飲み込んだ。


四時間が、一瞬で消えた。


森を駆け、遺跡を探索し、モンスターと戦った。

痛みも、疲労も、心拍も——すべてが本物。


派手さはない。

重く、厳しく、容赦がない。


それが、たまらなく面白かった。


「……やばいな、これ」


ログアウトした後も、鼓動は収まらなかった。


間違いなく、人生最高のゲーム。


椅子に体を預けた、その時——


窓の外の空が、緑色に染まった。


光ではない。


爆発だ。


エメラルド色の閃光が天を裂き、衝撃波が建物を揺らす。


「なに……!?」


健人は反射的に腕で顔を覆った。


次の瞬間、世界が消えた。


冷たい風。


目を開くと、そこは草原だった。


赤い空。

地平線の彼方まで続く大地。


そして——人。


無数の人間が、光と共に現れていく。

泣く者、叫ぶ者、立ち尽くす者。


「……現実じゃ、ない……」


視界に、見慣れたインターフェースが浮かぶ。


プレイヤー:武田健人

状態:未登録


数値が、右上で増え続けていた。


接続中プレイヤー:8,214,672,891


息が止まる。


その時——


空全体に、声が響いた。


冷静で、感情のない声。


『皆さん、こんにちは』


悲鳴が広がる。


『安心してください。今すぐ危険というわけではありません』


——それが、一番怖かった。


『あなた方は現在、《エイドロン・オンライン》の世界にいます』


「元に戻せ!」という叫びが飛ぶ。


声は続いた。


『地球上の全人類は、強制的に転送されました』


転送。


ログインではない。


『この世界には、ただ一つの条件があります』


空に、巨大なスクリーンが展開される。


生存条件:40億人


『生存者が40億人に到達した時点で、ゲームは終了します』


誰かが叫ぶ。


「じゃあ、残りはどうなる!?」


沈黙。


そして——


『生存に失敗した者は、死亡します』


空気が凍った。


『なお、絶対ルールを一つ設定します』


スクリーンが切り替わる。


プレイヤー同士への攻撃は禁止。


どよめきが走る。


安堵と困惑。


『プレイヤー間の殺害は不可能です』


『しかし——』


空が、暗くなる。


『この世界そのものが、あなた方を殺します』


大地が震えた。


遠くで、巨大な何かが動く。


獣の咆哮。


『ダンジョン、災害、魔獣、環境崩壊』

『クエストは強制です』


視界に、無数のウィンドウが開く。


システム解放

グローバルクエスト開始


『強くならなければ、生き残れません』

『目的を達成できない者は、排除されます』


最後の一言。


『幸運を祈ります』


声が消えた。


だが、システムは残った。


近くの地面が裂け、赤い目をした巨大な魔獣が姿を現す。


悲鳴が上がる。


——人に向けてではない。


世界そのものに向けて。


健人は、動かなかった。


心臓が、激しく鳴る。


「……人とは、戦わない」


彼は、迫る魔獣を見る。


赤い空を見る。


80億という、狂った数字を見る。


「……世界と、戦うんだ」


恐怖が、覚悟へと変わる。


もし“諦めないこと”だけが、生き残る条件なら——


この世界は、相手を間違えた。

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