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9.不思議な子犬

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 キャサリンの衝撃発言から立ち直ったリリーナ達は,一旦話を終えた。

「……まぁ,面倒な話ばかりしてても,ゆっちゃんがつまらないだろうし」

 疲れたようにソファに身を預けるリリーナにそう告げて,キャサリンは視線を横に向ける。

 駆け回って疲れ果てたベリーに構ってもらいたいのか,『ゆめ』は周囲を回転したり,顔を覗き込んだりしていた。

「……可愛いでしょ? うちの子」

「そうですねー……」

 突っ込む気力も出ないのか,リリーナがぼんやりと答える。


「……そーいえばリリーナ,私達って次,何処どこ行くんだっけ……」

 不意に床に寝転んだベリーがそう問うた。

「……魔王領ですよ。私らは何をしに来てるんですか」

 呆れたように返すと,ベリーは思い出したように目を丸くする。

「……そうだっけ? ゆっちゃんに会いに来たんじゃなかったっけ?」

 しれっとゆっちゃん呼びになっているが,満足そうなキャサリン以外は気にしない。

「……違います。というか本当はここに来る予定もなかったんですよ」

「……そうだっけ? そうなの,ゆっちゃん?」

 ベリーが首を傾げて『ゆめ』を撫でると,『ゆめ』もベリーと同じ方向に首を傾げた。

 なごんでいるベリーの頭を取り敢えずはたいて,リリーナはソファに座り直す。


「……そうです。あまり此処でのんびりしているわけにも行きませんから,そろそろ動きますよ」

「ん? もう行くの?」

 ココアを飲んでいたキャサリンが問うと,リリーナは小さく頷く。

 それを見て,ベリーと『ゆめ』が雷が落ちたような顔になった。

「……ゆっちゃん,どうしたの?」

 キャサリンが驚いたように目を瞬くと,『ゆめ』はベリーの服の裾を噛む。

 それから顔を上げて,キャサリンに目で何かを訴えた。

「……わかる? リリーナ」

「全く」

 二人が首を傾げている数秒で,キャサリンはハッとしたように目を見開く。


「……ゆっちゃん!? それは駄目だよ……!」

「え? わかるの?」

 ベリーが唖然と呟くと,キャサリンはわずかに困惑を浮かべた。

「わかるに決まってるでしょ? ……え? わからないの?」

「……獣人に,動物の言葉がわかるという特徴はありませんね」

 リリーナが補足すると,ベリーは明らかに信じられないものを見るような目になる。


 それを無視して,困惑から立ち直ったキャサリンが口を開いた。

「……ゆっちゃん,貴女達と一緒に行きたいんだって。冒険に」

「え!? 大かんげ……むぐっ」

 ぱっと花が開くような笑みを浮かべたベリーの口をふさいでから,リリーナが困ったように答える。

「……それは危険ですよ。ゆめさんは人化していないし,戦闘力がないでしょう?」

 獣人は基本的に魔法でも武力でも,ある程度の力を持って初めて人化することが出来る種族だ。

『ゆめ』が獣人なのか純粋な犬なのかをリリーナは知らないが,初対面で魔物に襲われていたことから考えて,戦闘力はないと見て間違いない。

 そう告げると,キャサリンも同意するように頷いた。

「ゆっちゃんは純粋な犬の子なの。私が人化の術を教えているけど,まだ出来なくって……」


 二人が話し始めると,ベリーは興味を失ったように離れ,不安そうに成り行きを見つめる『ゆめ』を撫でる。

「ねー,ゆっちゃん」

「?」

『ゆめ』が首を傾げると,ベリーは無垢な蜂蜜はちみつ色の瞳で黒橡くろつるばみの瞳を覗き込んだ。

「ゆっちゃんは,私達について行きたいの?」

 ベリーが問うと,『ゆめ』は何度も首を上下する。

「それは,どうして?」

『ゆめ』は,身振り手振りで説明しようと試みた。

「……なるほどね。楽しそうだから,と」

 ふむふむ,とベリーが何度か頷く。その目は明るく輝いている。

「よし,良いよ! ……でも,一緒に行くには,ゆっちゃんが人化……? しないと駄目なんだって」

「……?」

『ゆめ』が疑問符を浮かべると,ベリーが簡単に説明した。

 それを聞いて,『ゆめ』は少し考え込んだ後,納得したように頷く。


「__つまりこうすれば,ゆめもついて行けるの?」


 まばゆい光をともなって,明るく軽やかな,美しい楽器の音のような,幼女の声が響く。

 目を瞬くベリーの前には,太陽のような笑みを浮かべた,絶世の美幼女が座っていた。


最後までご覧頂きありがとうございます。

一言:この世界の獣人って,凄いですね。いや,ゆっちゃん様は獣人じゃないんですけど。

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