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20.5.青い蝶の道

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 一行が立ち去った気配を感じて,リオンは岩の上で体の向きを変えた。

 既にベリー達の姿は見えなくなっており,荒れた焦土に火がくすぶっている。

 セイレーストで影響力のある,商家の館があった場所だ。

 この国で影響力のある家は,大体セイレーンに対する信仰があつい。

 リオンはそれを無意識に眺めた。


『この国を守ってほしい。ただ,この国は私の命だけど,貴方も私の大切な子だから……好きな道を選んで良いのよ』

 幼い頃から自分を育て,武術を教えてくれた師匠セイレーンが旅立つ時に,リオンにかけた最後の言葉が蘇る。

 あれからもう半年が経つが,リオンは自分の“好きな道”がわからなかった。

 一人で旅に出る道も,女神の使いとして,ここに残る道も用意されている。

 リオンには,正解がわからなかった。


『リオンは,女神様が好きなの?』

 館があった場所を見つめていると,不意にそんな声が蘇る。

 純粋でいながら核心を突くような,幼い少年の声だ。

 リオンの二つ下の商家の一人息子の声であり,湖が近いこともあって,歩いていると遭遇することが多かったのを思い出す。

 その言葉をかけられたのは,セイレーンが去った後の,何でも無い普通の日だった。

 この国の女神セイレーンと連れ立って歩く姿がよく目撃されていたリオンは,女神の使いとして敬遠されることが多い。

 その少年は幼いからか,女神に対する信仰心はあっても,自分と同じくらいに見える子供に特別な感情は抱かなかったようだった。

 リオンは,その言葉に咄嗟とっさに答えを返せなかった。

 少しだけ考えてから,少年にはこう返した。

『知らない』と。


「……結局,わかんなかった」

 ぽつりと,空虚な声が漏れる。

 少年は,蛇が侵攻してきた時に,家族諸共燃えた瓦礫がれきに埋もれて息絶えた。

 どうして少年がそんな問いをしてきたのか,どうして自分がそう答えのか。

「……仲間」

 師匠が度々口にしていた言葉だ。

『あの頃は私にも仲間がいたのよ。一人じゃないって,ある意味強さなの』

 そう語る師匠は,いつもリオンが見たこともない,嬉しそうな表情を浮かべている。

 だからリオンは気になって,どうしてかを聞いたことがあった。

 その時セイレーンは,リオンの黒蝶真珠ブラックパールの瞳を愛おしげに見つめ,こう言った。

『仲間がいれば,わからないことも一緒に考えることができるし,困った時は助けてくれる。そして何より,絶対に楽しく暮らせるわ』

 それは,明らかに確信を持った声。

 基本的にリオン以外の人間には冷たく,興味がないセイレーンにそこまで言わせるなんて,一体どんな人なのだろう。

 その時のリオンは,そう思っていた。


「……一緒に考える,かぁ」

 絶えず揺らめくオーロラの動きに視線を戻したリオンは,静かに呟く。

 正直自分では,人付き合いというものをしてこなかった弊害へいがいがあるだろう。

 何より,ベリー達は既に完成しているように見えた。

 すぐに去っていった為よく見えなかったが,蛇達を率いていたあの女は,間違いなく強者だと思う。

 それを自分より少し年上の少女達が倒すなんて,想像もつかない。

 そこまで考えて,リオンは軽く首を左右に振る。

「……出来ないことを考えるなんて,むなしいだけだよ」

 ベリー達は,隣の国を通り過ぎていった嵐のようなものだ。

 そう思って,このことは忘れよう。

 ずっとそう結論づけているのに,どうしてか師匠の言葉が反芻はんすうする。


「……わかってる。多分,私の“好きな道”なんだよ」

 強さを求める自分と,師匠の国の敵討かたきうちを願う自分と,仲間に憧れる自分が望む“好きな道”。

 それは確実に,ベリー達についていく道だった。

「でも……迷惑はかけたくないし」

 言い訳がましくそう口にして,リオンは鎌を軽く回す。

 風を切り裂く音がして,空気が揺れた。


 ふと,去っていく寸前の,ベリーの瞳がよみがえる。

 あの目は,確信を持って笑みを浮かべていた。

 それを思い出した瞬間,リオンの中で何かが弾ける。

 気づけばオーロラが引き,雲も見えない明るい空から,白い結晶が降り始めた。

 リオンの脳裏に,セイレーンの最後の微笑みが蘇る。

 あのベリーの瞳と酷似こくじしていたそれは,一つの未来を示していたのだ。

「……好きな道を選んでいい……そうだよね,師匠」

 何年も変化のなかったリオンの表情が,笑みを作る。

 リオンは巨大な岩から飛び降りて,白く染まった焦土を駆けて行った。



「わぁ……! 冷たい!」

 ベリー達は,突然頭上をおおった白に足を止める。

「これが雪。本当に見たことなかったのね……」

「ゆめは知ってるもん!」

 驚いたようなキャサリンの腕から,飛び降りて人化したゆめが胸を張った。

 それを視界に入れつつ,ベリーは大興奮と行った様子で白く染まった地面を駆け回る。

 混ざって駆けるゆめを見つめながら,キャサリンはふと背後に気配を感じた。

 半壊した家の影に隠れた気配に気付いたリリーナが,そちらに向かう。

「……あぁ,本当についてきてくれるんですか?」

 それは,ベリーが予想していた通りの人物だった。

 別れた時と変わらない表情の中に,好奇で輝く瞳がある。

「うん。……ベリー達について行ったら,楽しそうだなって」

 その声に確かな決意を感じて,リリーナは小さく笑みを零して頷いた。


最後までご覧頂きありがとうございます。

一言:今回は完璧に清々しいまでにリオン回なので0.5話。

   ベリーも次回以降は頑張ると思いますので,何卒……。

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