20.結論は後回しに
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リオンの言葉は,一行にとってそこそこの爆弾だった。
半ば予想はしていましたが……とリリーナが呆れたように呟く。
「……本当に疑問なのは,その女神セイレーンが『主のところに帰る』と言った点ですね」
リリーナが徐ろに告げると,ベリーが首を傾げた。
「セイレーンっていうのは凄く誇り高い種族ってイメージだし,誰かに仕えるとか想像もつかないんだけど……」
言葉を補足するように,キャサリンがそう述べる。
それに対して,リオンもベリーと同じように疑問符を浮かべた。
「シレーナ師匠は優しいよ? あ,セイレーンのことね」
何気ない言葉に,二人が絶句する。
「……誇り高いセイレーンが,人間に自分の名を教えたりしますかね?」
「獣人と神獣は違うから何とも言えないけど……獣人だったらありえないかも」
ベリー達から少し距離を取って呟き合い,二人は眉を顰めた。
獣にとって,名というのは主がいる証明であり,主から貰う最上の物という認識がある。
それを安易に口にしないのが,誇り高い獣だ。
「……そもそも誇り高いという伝承が間違っているのか」
「或いはあの,リオンって子が特別なのか……」
「それで,ベリー達はこの後どうするの?」
ウェルフィマと戦って勝利したという話を聞いてから,ベリー達を見る瞳が輝いているリオンがそう問う。
その問いに,ベリーは少し考え込むように頬に手を当てた後,後ろを振り返った。
「セイレーストがどうなってるのかは確認できたから,また魔王討伐の旅に出発かな?」
「……待って。魔王討伐?」
さらっと告げられた言葉を止めて,リオンが首を傾げる。
その様子に,ベリーが思い出したように今までの出来事を説明した。
「なるほど……? ベリーは王女様で,ぐらっせ……国? が,ぐしゃっとされたから,魔王を倒す旅に出たと」
国の名前や細かいところは聞き流しつつ,リオンが何度か頷く。
いつの間にか,残っていた巨大な岩の上に座って,内容を整理するように沈黙した。
「……さっきの蛇の奴等も,魔王軍だっけ?」
不意に口を開き,そう尋ねる。
それにベリーが頷くと,リオンは空を彩るオーロラを見つめた。
「……そっか。じゃあ,先を急いだ方が良いよね」
何かを考え込むような間があった後,リオンが小さく呟き,視線をベリー達に投げる。
「ここはもう何も残ってないけど,また魔王軍が来るかもしれないから,早く離れた方が良いよ」
唐突に,淡々と告げられた言葉に,ベリーは困惑を浮かべた。
初めて会った時と同じ,何の興味も示していない凪いだ瞳がそこにある。
ベリーは直感で,リオンの内心を悟った。
「……良いんですか?」
オーロラに視線を向けて微動だにしなくなったリオンの元を離れ,一行は焦土を歩いている。
リオンの何かを感じ取ったのであろうベリーは,先程から顔を伏せて沈黙していた。
リリーナの問いに,ベリーは少しだけ表情を上げる。
「……本当は何もよくないよ。これはね,『かけ』なんだ」
「賭け?」
キャサリンが聞き返すと,ベリーは小さく微笑んだ。
「私は,リオンが一緒に来てくれたら嬉しい。優しくて面白いし,強いし」
そこまで言って,一度言葉を切る。
「でも,私達が強制することは出来ないでしょ? あと,リオンは今困ってるんだよ」
「困ってるの?」
人化を解いてキャサリンの腕に収まったゆめが問うと,ベリーは曖昧に頷いた。
「その……師匠さんから守ってほしいって言われたセイレーストに残るか,『かたきうち』も兼ねて,自分の望む方に行くかを,悩んでるんだと思うの」
ベリーは天然で好奇心の赴くままだが,実は思慮深く聡い。
特に人の感情の機微に対しては,異常なまでに鋭かった。
それを知っているリリーナは,ベリーの考えを疑わない。
静かに続きを待つ一行に,祈るような声でベリーが続けた。
「多分,リオンにとってこの国が大切なら,ついてくる。この国よりも師匠が大切なら,リオンはついてこない」
その言葉の意味がわからなかったのか,キャサリンとゆめは互いに見つめ合って首をひねる。
当然リリーナも言葉の意味そのものは理解できなかった。
ただ,常に明るい無邪気な笑みを浮かべているベリーが,今は少し凪いだ表情を浮かべている。
思い詰めたような,祈るような声で口にしていた望みが叶うことを,何故か確信したような,自信に満ちた笑み。
それは,ベリーを長年見守り続けていたリリーナが,見たことのないものだった。
突然実感した彼女の成長が嬉しく,何処か悲しい。
魔王に怯え,震えて夜を過ごすだけの姫ではない。
そんなことはとっくに知っていたのに,何だか新鮮に思える。
リリーナは,進む度に遠ざかるオーロラを似た色合いの瞳に映した。
自然と微笑が浮かぶ。
誇らしさと悲しさと,見通した今後を待ち望む,喜びが入り混じった笑みだった。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:そういえば主人公はベリーでした(?)。
忘れがちですが,別にベリーはそんなに幼くないんですよね。




