2.魔王軍の侵略
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空が静かに堕ちて行き,赤い光が地平線を染めていた。
大地を揺らすような足音と,鎧同士がぶつかる鋭い金属音が,王宮内に響き渡る。
「……あれは……」
ベリーの蜂蜜色の瞳が大きく見開かれた。
視界の向こうには,影の様に黒い兵達が整然と並び,旗の先に燃えるような赤が揺れている。
魔王軍の軍勢はまるで砂糖を焦がした様な暗い煙をまとい,風と共に城へ迫ってきた。
雷が轟く。
音が近づく度に城壁が小さく震え,窓ガラスが微かに鳴る。
魔法の閃光が稲妻に交じった。
火の粉が舞い,空気が甘く焦げた香りに混ざって漂う。
ベリーは室内にいるのに,思わず小さな手で胸を押さえ,涙を堪えた。
「……怖いよ……」
小さな声が広い部屋に反響する。
扉の向こうでも兵士達は慌ただしく動き,城内に緊張の波が広がるのがわかった。
幼い王女の胸に不安が押し寄せる。
砦の外から響いていた音が,一際大きな轟音へと変わった。
城門の前で爆ぜた黒い衝撃波が砂埃を巻き上げ,城全体が揺れるほどの破壊音が鳴り響く。
「……?」
ベリーが窓から身を乗り出すと,巨大な鉄の門がひび割れた飴細工のように軋み,爆発音と共に吹き飛ぶその瞬間が目に焼きついた。
破片はまるで黒い流星のように宙を舞い,地面に突き刺さる度に火花が散る。
城門の向こうから噴き出した濃い煙の中,無数の影がゆっくりと姿を現した。
それは魔族ではなかった。
黒い鎧を纏った魔物達。
赤い目が闇の中で次々と点灯し,うねる様に列を成して進み出る。
「侵入されたぞ! 全軍防衛体制!」
兵士の叫びが王宮内外に木霊する。
静かに,闇のように流れ込む魔王軍を止めようと弓兵が防衛するも,魔王軍の魔法の盾に弾き返され虚しく砕け散った。
城内のあちこちで悲鳴が上がり,兵士達は体勢を立て直そうと奔走する。
「……ここ,安全かな……」
ベリーは窓を閉めて,ベッドに沈み込んだ。
『姫様はお部屋にいれば安全ですよ』
召使いの言葉が蘇る。
その召使いも,簡単な武装をして部屋を出ていった。
ベリーは一人取り残され,今までにない恐怖を感じる。
「……本当に危ない時は,逃げないと駄目なんだよね」
自分に言い聞かせるように,ベッドから起き上がった。
大切な物を大きな袋に詰め込んで,最後に苺の抱き枕で蓋をして担ぎ上げる。
部屋を出ると,不気味な静けさが満ちていた。
騒乱が異様に遠く聞こえる。
「えーと……確かこっちの道を……」
記憶を掘り返すように呟きながら,ベリーは隠し通路を進んでいく。
「……ん?」
ふと不思議な気配を感じて窓の外を見る。
空が、割れていた。
まるで黒い幕に深い傷をつけた様に,紫の裂け目が空に広がり,そこから重々しい闇が流れ落ちていた。
そしてその中心に,魔王はいた。
黒を纏った“女”が,静かに浮かんでいた。
風もないのに長い銀髪がゆっくりと揺れ,黒曜石のような瞳が城を見下ろしている。
黒い裾は闇と溶け合い,形を持ちながらも影のように揺れ,時折紫の稲光が照らした。
その存在は,その場にいるだけで全てを圧倒するような威圧感と重厚感を持ち,地上を睥睨していた。
「……あれが,魔王」
小さく呟く。次の瞬間,魔王が此方を見た。
「……え?」
ベリーは密かに驚愕する。
隠し通路の窓は,あちらからは見えない。ベリーはそう教わっていた。
それでも,冷徹な魔王の口の端が僅かに釣り上がる。
「見つけた」
兵士達の怒号も,鳴り響く金属音も爆発音も,全てが無になったようだった。
ベリーの心臓が大きく跳ねる。
刹那,魔王は静かに腕を振るった。
ズッ,と鈍い音を立てて,城が揺れる。
唖然とするベリーの視界に,落ちていく城の最上階の塔が見えた。
「ひっ……!」
口元を押さえて,ベリーは隠し通路を抜ける。
その瞬間,目の前が破壊された。
「逃さない。グラッセリアの王女」
淡々と感情のない暗い声が響く。
少し離れた所に,魔王の姿が見える。
ベリーは全てを悟って,目を閉じた。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:蹂躙されて行きます。ほのぼの要素は一体何処へ……。




