18.どちらが死神か
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そう長い時間歩かずに,目的地が見えてきた。
正確には,近づいてきた。
「……あれ,だよね?」
遠くに元の姿を全く留めていない,広大な焦土が見える。
周囲を囲んでいたのであろう湖は枯渇し,大地は赤黒く染まっていた。
「……酷い」
ベリーが小さく呟く。
その脳裏に,自分の国の惨状が蘇っていた。
リリーナの表情も硬く,ゆめも不安そうな表情を浮かべる。
「……まだ残ってる建物もあるから,生存者を探そう」
キャサリンの声は,重くなった雰囲気を払うような声ではなかったが,一行は再び進み始めた。
「……これ,オーロラ?」
不意にベリーが空を眺めてそう首を傾げる。
青の都セイレーストに向かって進んでいくと,徐々に景色が変わっていった。
明るい太陽が照らしていたはずの空を,緑がかった光が揺れている。
その光景は地上とはかけ離れており,大地に降り注ぐ祝福のような,神秘的な印象を与えた。
「……セイレーストのオーロラには,とある伝説があるそうですよ」
少し考え込んだあと,リリーナはそう言ってベリーに微笑みかける。
興味を惹かれたように視線を向けるベリー達に,リリーナは本で読んだ内容を思い出しながら語った。
「セイレーストは,神獣セイレーンが創り上げた国と呼ばれています。セイレーンというのは,半人間半魚のような見た目で,何者にも勝るという歌声を持つ生き物ですね」
「何者にも勝る……!? いや,ゆっちゃんの方が上だけど……!?」
「うーん,師匠かもしれない」
目を見開いて反論するキャサリンに,ゆめが真顔で答える。
それに苦笑しつつ,リリーナは続けた。
「セイレーンは,ある時一人の人間と親しくなったそうです。けれどその人間とはやがて別れてしまったんですね。それを嘆き悲しんだセイレーンは,もう一度その人間のような者に出会いたい。そう思い,その歌声で人間を集め,自分の領土である湖に国を創らせたそうです。そして,集まってきた者に対する祝福として,歌声をオーロラに変えて見せたそうです。今でも集まってきた人々とも親身に接し,女神のように,女王のように人々の幸せに尽くしているらしいですよ」
「……セイレーンって凄いんだね」
「まぁあくまでも語り継がれている御伽噺ですから……本当かどうかはわかりませんが」
キャサリンに貰った飴を舐めながら,ベリーは感心したように何度も頷く。
その後ろで,飴を渡した本人は,静かに闘志を燃やしていた。
「絶対に会って,ゆっちゃんの方が上だって証明してみせる……!」
完全にセイレーンを敵と見定めたキャサリンの腕の中で,ゆめは純粋に楽しそうにしている。
「……一応セイレーンは非常に強く長生きする種族と言われていますし,実在していたら生き残っている可能性は高いですよね」
かなり近づいてきたセイレーストの惨状を眺めつつ,リリーナはそう言って微笑んだ。
「……焼けてから,あまり時間が経ってないみたい」
焦土に足を踏み入れて,キャサリンが小さく呟く。
所々に家だった残骸が残っており,動植物の気配はない。
「……湖もやっぱり無くなってるね」
ベリーが悲しそうに目を伏せた。湖があったような深い堀には,今は何も無い。
「……ん?」
不意に一行が足を止める。
足元に,少し違和感のあるものが転がっていた。
「……蛇?」
それは蛇だったが,胴を真っ二つに切断されている。
しかもその太さは人間の胴体程もあり,ウェルフィマとは比べ物にならないが,充分に大蛇だった。
それが,綺麗に真っ二つになっている。
「……蛇は多分,あのウェルフィマって人の部下だよね」
「……もしかして,この蛇を倒した人がいる……ってこと?」
若干困惑が浮かぶ一行は,何気なく周囲を見回した。
「……!?」
咄嗟に杖を横に構えて防いだキャサリンの頭上で,巨大な銀刃が閃く。
それは,ベリーの背丈程もある,巨大で鋭い鎌だった。
ベリーが本で見たことのある,“死神”が持つそれと酷似している。
キャサリンは杖を弾いて,鎌とその使い手を振り落とした。
「……あれ? 人間だ」
荒れた土地には不似合いな,澄んだ高い声が響く。
リリーナ達は声の方向,死神の鎌の使い手を見て,絶句した。
「さっきの蛇人間達の仲間かと思った……ごめんなさい」
鎌を持つ手は小さく細い。そもそも鎌と身長が,殆ど変わらなかった。
服装はシンプルで,群青色の膝丈のサロペットの上に,光沢のある黒いローブを羽織っている。
流水のような長い水色の髪が僅かに熱を持つ風で揺れた。
黒蝶真珠の瞳は涼やかで,何処までも無垢に光っている。
丁寧に研がれた刃のように揺らめくオーロラを背に立つ姿は,命を刈り取る神そのものに見えた。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:ついに来ました新キャラ!(ウェルフィマに謝ってください自分)
実は一番最初に名前が決まった国はセイレーストだったりします




