17.結果の確認は忘れずに
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悲鳴とも絶叫ともつかない声が響き渡り,大蛇の姿が薄れていく。
三人の魔法は壁を当然のように蹴散らし,凄まじい衝撃波を残して消滅した。
「……やばくない?」
「同感すぎて何とも言えない……」
ベリーが零した呟きを,キャサリンが拾う。
リリーナに至っては声も出ないようで,表情が固まっていた。
「……色々と聞きたいことがあるんですが,まぁ良いです。後で」
取り敢えずというようにそう告げて,リリーナは前方を見据える。
大きく抉れる__というよりは穿たれた地面からは煙が上がっており,まだ魔力の残滓が揺れていた。
「……此処までして,まだ生きてることある?」
上空から見ていたキャサリンが,呆れたようにそう言う。
大きなクレーター状になった地面の中心部に,人影があった。
ウェルフィマは生きてはいるものの,全身傷だらけで立ち上がることも出来ない。
ただ意志の強い金の瞳だけが,四人を睨んでいた。
「……さない」
荒い呼吸に混じって,呪詛のような声が響く。
「……許さない。貴女達,覚悟しなさいよ」
空気が震え,その場にいる全員を圧するような言葉だった。
「……次会った時は,必ず仕留めて,あの子達の餌にしてやる……!」
そう言い切った瞬間,ウェルフィマの姿が掻き消える。
それと同時に分厚い雲が去り,昼前の爽やかな陽気が草原を包んだ。
「……勝った,のかな?」
「逃げたってことは,勝ったってことじゃない?」
呆然と呟いたベリーに,キャサリンが答える。
その返しに何度か瞬いてから,ベリーは満面の笑みを浮かべた。
「勝ったって! ゆっちゃん凄い! 四天王に勝ったよ!」
「やったぁ! ゆめ頑張った!」
興奮したようにそう言い合って,二人は草原の上をくるくると回る。
キャサリンはそれを拝みつつ,ふと思い出したようにリリーナを見た。
「……そういえば,あの人なんだけど」
リリーナが首を傾げると,キャサリンはその場に座って続ける。
「……あの人多分,《大蛇国》の獣人だと思う」
「《大蛇国》……?」
隣に座ったリリーナが問うと,人化を解いて膝の上に収まったゆめを撫でつつ,キャサリンは説明した。
「前にも話した,人間と敵対することを選んだ“蛇の子孫の獣人”の国。冷静に考えてみたら,蛇になれるんじゃなくて,人間になっていただけの獣人じゃないかと思って」
キャサリンが確信を持ってそう言い切ると,リリーナは内容を咀嚼するように何度か頷く。
「……確かに,それはありえますね。ただ,何故魔王軍についたんでしょうか?」
リリーナが疑問を口にすると,キャサリンは眉を顰めた。
「そこはどうも合点がいかなくて。大蛇国はかつて,領土を魔王軍に奪われて戦争を仕掛けたこともあったはず。勿論惨敗したから,恨んでるくらいだと思うんだけど」
朧げな知識なので断定はできない と続け,キャサリンは軽く溜息をつく。
「……取り敢えず今は,勝てたことに安堵しましょうか」
「あ,お祝いのお菓子作る!?」
「ベリーのお菓子は爆発するから駄目」
ぱっと顔を輝かせて立ち上がったベリーを制すると,ゆめが何度も頷いた。
「……とはいえ,少し休憩入れましょうか。流石に魔力も体力も使いすぎたので」
仕方なさそうにリリーナがそう笑って,ティーセットを取り出す。
キャサリンも賛同して,ゆめの為に持ってきていたお菓子を並べた。
「……さて,行きますか」
日光が穏やかになって来た頃,ようやく休憩を終えた一行が立ち上がる。
ゆめは人化や補助魔法で魔力を多く消費して疲れたのか,キャサリンの腕の中で眠たそうにしていた。
「……あ,そういえば忘れてたんだけど。ウェルフィマが最初に『あの人間の国を滅ぼしてきた』って言ってたじゃない?」
不意に思い出したように,キャサリンがリリーナに問う。
「……確かに言っていましたね。見に行ってみますか」
「うん。滅ぼしたって言っても,生存者はいるかもしれないし」
そんな会話で,この先にある人間の国に向かうことになった。
「……この先にあるのは……青の都セイレーストですね」
地図を広げたリリーナが視線を巡らせ,そう結論を出す。
首を傾げるベリーに苦笑しつつ,リリーナは記憶を探った。
「セイレーストは湖に囲まれた,青を象徴するような国です。何処にでも水が流れていますし,瓦葺きの家の屋根は殆どが青いんですよ。あとオーロラや雪といった,少し変わった自然現象が見られます」
「……雪?」
ベリーは頷きながら聞いていたが,ふと耳慣れない単語を聞いて疑問を零す。
「……え? グラッセリアは雪が降らないの?」
「降らないんですよね。私も実物を見たことはないですが,空から降ってくる,白くて小さい冷たいものです」
リリーナの簡潔な説明に,ベリーは少し考え込んだあと,期待に目を輝かせた。
「……あ,何か落ちてる」
セイレーストに向かって歩き始めた一行は,ベリーの声で足を止める。
穿たれた地面との境で,棒状の何かが光った。
「……あの人の笛だね」
繊細な模様が入った縦笛を拾い上げ,ベリーは何度か瞬く。
「……どうする?」
「……うーん,持ってようかな。綺麗だし……また会ったら返してあげないと!」
ベリーは少し逡巡したあと,小さく笑って笛をしまった。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:気付いたらウェルフィマがちゃんと悪役っぽくなっていました。
いや,本作における悪役陣営なんですが。




