15.補助の魔法と
誤字,脱字報告受け付けております。見つけた際は遠慮なく報告して頂けると幸いです。
感想,レビュー等大歓迎です。
ブックマークも是非お願い致します。
リリーナとキャサリンは,息を付く間もない魔法戦を繰り広げていた。
二人の魔法に対する熱量も力量も,並ではない。
相手を圧倒することが叶わないのは,単純に相手が同じか,それ以上の実力を持っているからだ。
今なら,頭上に太陽が見えないのも彼女の魔法だとわかる。
視界を悪くすることで相手が有利になっているのかもしれない。
そう考えて,リリーナは思わず舌打ちしたい気分になる。
少し前から,相手の特徴に気付いていた。
ウェルフィマの金の瞳が,明らかに通常ではない視力を宿していることを。
異常に良いというわけでもないのだ。ただ,魔力の動きを正確に読み取っている。
それも相まってか,未だにウェルフィマには傷一つ与えられない。
大技を連発しているキャサリンにも疲労が見える。
最悪の事態にならないように。
それだけを望んで,リリーナは戦い続けていた。
状況が大きく変化したのは,その時だった。
薄暗い草原に,軽やかな歌声が響く。
優しく明るい声は,キラキラと輝く粒状の光を纏って大きくなっていった。
リリーナとウェルフィマが動きを止め,キャサリンが何かに弾かれたように落下する。
その歌は,リリーナが聞いたことのない,獣人に伝わる遥か昔の応援歌だった。
「……何で?」
少しだけ視線を後ろにずらして,リリーナが困惑したように問う。
視線を受けたベリーは,粒状の光__ウェルフィマが消費した魔力__を操るのを止めて,ニコっと笑った。
「なんかね,ゆっちゃんの歌を聞いてみたいなって。ほら,これ……実演みたいじゃない?」
過去に一度,ベリーがリリーナに聞いたことを思い出す。
世界的に有名な歌姫がグラッセリアに来た時に,何をしているのか知らなかったベリーに,【実演】の詳細を教えたのはリリーナだ。
それを思い出したのか,リリーナは表情が僅かに呆れたようなものに変わる。
「……歌うだけで終わってませんよ」
言葉の先で,歌い続けるゆめの周囲を光が取り巻いていた。
魔力が籠もった光の粒は,照明のようにゆめを照らす。
「……あれ?」
その様子を眺めていたベリーが,ふと違和感に気づいた。
「……どうしました?」
リリーナが問うと,眩しそうに手で目元を覆いながら,ベリーが首を傾げる。
「……私,今魔力を使ってないのに……何で動いてるの?」
「……え」
思わず声を漏らしたリリーナが,視線をゆめに向けた。
「……ゆめさんが,動かしてますね」
「ゆっちゃん天才かなっ!?」
起き上がってきたキャサリンが再び倒れ伏したのを横目に,ベリーも驚いたように目を瞬く。
「……魔法の才能があるのかな?」
「ですね。補助魔法でしょうか」
リリーナが何度か頷いて呟くと,ベリーが首を傾げた。
「……補助魔法というのはですね。【攻撃魔法】【防御魔法】【回復魔法】と並ぶ魔法の一種です。基本的に私のような治癒者が持つことが多い魔法で,効果としては……。味方の体力や魔力を増やしたり,相手のを削ったり。サポートに徹しているものです」
簡単な説明に何度か瞬きつつ,ベリーは納得したように頷く。
「……じゃあ,あれはどんな効果?」
そっと視線をゆめに向けて問うと,リリーナが少し目を細めた。
「恐らく……私達の魔力量の底上げと,敏捷性の向上ですね」
「敵に向けてるわけじゃないの?」
「そうですね。どちらかと言うと回復系に属しているかと」
よくわからないという表情をしつつ,ベリーは曖昧に頷いてゆめに視線を固定する。
いつの間にか光が差してきた草原の一角だけが,無数の光を纏って七色に輝いていた。
その中心で笑みを浮かべて歌うゆめを祝福するように,あるいは応援するように,光は明滅し,草原は揺れる。
補助魔法の効果によるものなのかは定かではないが,妙に生き生きとしているキャサリンは,何の躊躇いもなく最高位の雷魔法を打ち込んだ。
それすらも舞台演出のように華々しく散る。
形勢逆転にさえ見える状況を良しとしないのは,押されつつあるウェルフィマだった。
表情を憎々しげに歪ませ,怒りを孕んだ瞳をゆめに向ける。
「……!?」
歌っていたゆめの声が止まった。
一瞬で取り戻した静寂を払うように,ゆめは慌てて歌い始める。
リリーナは,ゆめが歌い続けていたことで効果を持っていた補助魔法が,失われたことに気付いた。
「……何が狙いなんです?」
相手の意図が読めず,リリーナは訝しげに呟き,新たに防御魔法を展開する。
次の瞬間,全ての防御魔法が砕け散った。
同時に,キャサリンの杖を飾っていた宝石に罅が入る。
「!? ゆっちゃんとお揃いの魔石……!!」
驚愕する二人に,ウェルフィマは仄暗い笑みを浮かべた。
「良いわ。補助魔法如きで私に勝てると思っているなら……本気を見せてあげる」
その言葉と同時に,ウェルフィマを取り巻く魔力が変わる。
魔力はウェルフィマを中心に,渦巻くように姿を変えた。
僅かな時間に打たれた雷魔法は届かない。
その場にいたはずの,人間の女は消えている。
その場にいるのは,七つの尾を持つ大蛇だった。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:段々長くなっていきますね……。
端々に見えるキャサリンの奇行は,可能な限り現実に寄せていたりしないこともないです。




