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12.開幕を告げる魔法

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 いつの間にか笛の音は止まっており,人間の女のように見える影は,静かにベリー達を見ていた。

 その金の瞳に感情は浮かんでいない。

 ただ温度を持たず,冷たかった。

 女はベリー達を注視した後,小さく笑みを浮かべる。

 それは,おぞましい,悪魔の哄笑こうしょうのように見えた。実際は,美しい女のたおやかな笑みが浮かんでいるのに。

 ベリーは鳥肌が立った腕を押さえ,ゆめは怯えてキャサリンの後ろに隠れた。

「……人間の国の王女って,貴女あなた?」

 不意に,女が口を開く。その瞳は,少し離れたところにいるベリーを捉えていた。

 視線があったベリーは怯えつつ,小さく頷く。

 その答えに,女は更に嬉しそうに笑った。

「やはり? 私はウェルフィマ。魔王四天王の一人」

「……四天王?」

 ベリーが首を傾げると,リリーナの表情がわずかに青褪あおざめる。

「……魔王の配下で,最も強い四人のこと」

 顔を強張らせたキャサリンがそう呟くように答え,杖を構えた。

 ウェルフィマと名乗った女はそれに頷き,得意気に視線を少し遠くに投げる。

「そうよ。つい先程も,あの人間の国を滅ぼしてきたわ」

 それを聞いて表情を変えたベリーを背後に庇い,リリーナも厳しい表情で杖を掲げる。

 彼女の講義を受けていたベリーは,リリーナが防御魔法を使用する準備をしていると気付いた。


「……あら,別に戦いに来たわけじゃないのよ? 私は人間の王女に用事があるの」

 ウェルフィマが妖艶に微笑んだ瞬間,大地に亀裂きれつが走る。

 リリーナが咄嗟とっさにベリーを抱えて飛んだ時には,元々立っていた場所はなくなっていた。

「……大地の形状を操る魔法……?」

 キャサリンが呟くと,ウェルフィマは軽く首を横に振る。

「……違うわ。私“達”は固有の魔法を持たない」

 意味深にそう述べ,ウェルフィマはその場でくるりと回った。

 途端に彼女の周囲を暴風がおおう。暴風は徐々に広がり,ベリー達を巻き込もうとした。

「何あれ!?」

 驚愕きょうがくしたようなベリーの声に応えるように,一行の周囲を金色の魔力が包む。


「わー……美味しそう!」

 ゆめが歓声を上げた。金色の魔力は何十にも重なり,丸い輪の形になってベリー達を囲んでいる。

 暴風はそれを削ろうとするが,途中で力尽きて消滅した。

 同時に魔力の輪も消え,ベリーの元に戻る。

「……バウムクーヘン,ですかね」

 唖然とするキャサリンの横で,冷静に状況を分析したリリーナが小さく呟いた。

 何度か瞬いていたウェルフィマは,ハッとしたように口を開く。

「……ちょ,ちょっと待って!? どういうこと!? 何よ今の!」

「……ベリーは一応,魔法に適正があるんですよね。今度改めて勉強しましょうか」

「はい。ごめんなさい」

 リリーナが呆れたように告げると,ベリーは素直に頭を下げた。

「……魔法ってそんな,衝動的に出せるようなものじゃないんだけど」

 人生の大半を魔法についやしたキャサリンは,放心したように呟く。

 それはウェルフィマも同じだったようで,困惑したような,呆れたような複雑な表情になっていた。


「……とにかく,私は貴女に話したいことがあるんだけど」

 思い出したようにそう告げられ,ベリーは目を瞬く。

 それから,小さく口を尖らせた。

「……やだ。魔王の部下ってことは悪者でしょ? それに,さっき攻撃してきたし。そんな人は信用できない」

 ベリーの返答に,ウェルフィマは小さく舌を鳴らす。


 それを見たキャサリンは,わずかに口の端を上げた。

「……じゃあ,遠慮なく戦って良いってこと?」

「うん! 悪者は成敗!」

「ベリーは何処どこでそんな言葉を覚えてくるんです?」

 呆れたような,それでいて楽しげなリリーナがそう呟きながら,杖を構えて魔法陣を次々と展開する。

 防御魔法だけではなく,攻撃力や魔力を付与する多彩な魔法陣だ。

 それを見たキャサリンは,笑みを浮かべて杖を高く掲げる。

 暗い空に,無数の亀裂きれつが走り始めた。

 それに対して,ウェルフィマは面倒そうな表情を浮かべつつ,手に持っていた笛を地面に投げ捨てる。

 空いた手を中心に,地面がじ曲がっていった。

 地面だった欠片に魔力が乗り,空中を浮遊して今にも飛び出しそうになっている。


「……何か凄いことになってる?」

「皆すごーい!」

 明るくはしゃぐ二人を置いて,一行の戦闘は始まった。


最後までご覧頂きありがとうございます。

一言:戦闘開始しましたね。ちょっとこの別次元二人をなんとかしてください。

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