番外編.あの思い出はきっと
本日はベリー本人のお誕生日ということで
ベリーの誕生日会を急遽更新しました。
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その日は,城中が豪華に飾り付けられていた。
城の中だけではない。国全体が明るく活気に包まれ,祝い事の空気を作り出していた。
お菓子の国グラッセリアでは,こういう行事がある時,当然のように行われるイベントがある。
それは,庶民の子供達が集まって,家々を巡り,菓子をもらうというものだ。
十月の末に行われる行事とよく似ており,子供達の楽しみの一つになっている。
大人達もそれを楽しみに,この日の為に沢山のお菓子を作って用意しているのだ。
そんなお祭りの雰囲気に包まれた城下町を,その日の主役は窓越しに見下ろしていた。
その日は,王女ベリーの誕生日だった。
「……つまんないの」
静かな自室で,ベリーはそう呟く。
召使い達は皆,部屋の飾りつけを終えて別の準備に行ってしまった。
「……私も,やってみたいなぁ」
ベリーの言葉は,窓を通ることなく落ちていく。
庶民の子供達にとっては楽しい行事だが,当のベリーにとっては,少々退屈に思える日だった。
「……リリーナの所に行こう」
徐ろに立ち上がって,ベリーは部屋を出る。
すれ違う時に行き先を尋ねてきた召使い達に「教会に行ってくるね」と伝えた。
リリーナがいる教会は,城の広大な広場の先の森の奥にある。
一応城内という認識らしく,ベリーはよくここに一人で訪れていた。
「……リリーナ,いる?」
音を立てないように教会の裏の扉を開いて,そっと声をかけてみる。
ほんの少しの間があってから,奥から純白のローブを纏った若い女が現れた。
「……ベリー,どうしました?」
王女の誕生日でも,ここの風景が揺らぐことはない。それに妙な安堵を覚えつつ,ベリーは中に入っていつもの定位置に座った。
「お城じゃつまらないの。私もお祭りに参加してみたいよ……」
溜め込んでいた愚痴を吐き出すと,リリーナは何度か瞬いた後,頬に手を当てる。
「参加したいなら,連れて行ってあげましょうか?」
「……え?」
ベリーは蜂蜜色の瞳を丸くし,困惑したようにリリーナを見た。
視線を受けたリリーナは少し逡巡した後,小さく微笑む。
「私は城下町に行く予定があるので,連れて行っても構いません。……皆さんには内緒ですよ?」
リリーナが悪戯っぽくそう言うと,ベリーは花開くような好奇心に満ちた笑顔を浮かべた。
「わぁ……! 子供が沢山!」
「そりゃそうですよ。今日はそういう行事なんですから」
教会を覆う森を抜けた先は,紛うことなき城下町が広がっている。
いつも見下ろしていた光景が目の前にあることに,ベリーは興奮を抑えられないようだった。
リリーナに渡されたシンプルなワンピースを纏っているものの,少し目立ってしまっている。
「あ,リリーナ様だ!」
「リリーナ様,お菓子ちょうだい!」
苦笑しつつベリーを眺めていたリリーナの姿を見て,数人の子供達が駆け寄ってきた。
リリーナは思い出したように何処からか数種類のお菓子を取り出し,穏やかな笑みを浮かべて子供達に渡す。
「……リリーナ様,その子だぁれ?」
咄嗟にリリーナのローブに隠れたベリーを見つけて,同じくらいの幼女が声をかけた。
「あ,私は……」
「この子は教会の子で,リリーっていうの」
本名を名乗ろうとしたベリーの言葉を遮って,リリーナが慌てたようにそう答える。
この国に『ベリー』という名を持つのは一人しかいない。
「そうなんだ! リリーちゃん,お菓子あげる!」
「あ,私も!」
子供達は特に疑問に思うこともなく,ベリーに自分が持っていたお菓子を渡した。
ベリーは何度か瞬いて,首を傾げる。
「……良いの? 皆がもらったものでしょ?」
その言葉に,子供達のリーダー格の少年が小さく笑った。
「はじめましての奴にはお菓子をあげる決まりなんだ。なんでかっていうと,今日お誕生日の王女様はとってもお菓子が好きらしい。だから,大きくなって王女様に会えるようになったら,皆で一個ずつ,お気に入りのお菓子をあげるんだ。その時に仲間が多くて,お菓子が多い方が,王女様も嬉しいだろ?」
胸を張って自慢気にそう述べる少年に,周囲の子供達も頷く。
それを微笑ましげに眺めていたリリーナは,ベリーの方に視線を投げた。
ベリーは数秒の間固まった後,はにかむように笑みを浮かべる。
「……王女様,絶対嬉しいと思うよ」
「……そんなことも,あったっけ?」
「一年前ですよ」
ベリー達は,神狼国を離れて魔王領に向かっていた。
穏やかな日光が包む草原で少しの休憩をしていた一行は,在りし日のグラッセリアの話で盛り上がる。
「そんな良い話なのに,当の本人は記憶にないんだ……」
「ゆめもお菓子欲しいー!」
「あげるよゆっちゃん」
呆れたように呟いたキャサリンは,ゆめの言葉に反応してどこからか山のようなお菓子を取り出した。
「……あ,べりーにもあげる」
それを満面の笑みで受け取ったゆめは,ふと瞳を向け,お菓子を一つベリーに差し出す。
「え? 良いの!?」
花開くような笑みでベリーが受け取ると,ゆめは小さく笑った。
「だってそのお話で男の子が言ってたんでしょ? 大きくなったら,お菓子をあげるって。べりーが大きくなったら,ゆめもお菓子あげたい。で,べりーはもう大きいから,今あげる!」
にぱっと笑うゆめの背後で吐血するキャサリンには視線を向けず,ベリーは何度か瞬く。
それから少しだけ表情が崩れた。
「……ありがとう。でも,私はまだ小さいから,本当に大きくなったら,ゆっちゃんからもらうね。その時は,グラッセリアで」
焼け野原と言うよりも,何も無い焦土と化したグラッセリアを思い出す。
庶民は一時的に近くの森に避難していたが,失った街並みはそう簡単には戻らない。
それでも,きっとお菓子の国に笑顔が戻る時は来る。
その時こそ,本当に大きくなって,あの子供達にお菓子をもらう。
ベリーは,少し大人びた表情でそう決意した。
「あ,でもこれはもらうね」
「えー!? なんでー!?」
はしゃぐベリー達を見て,リリーナは微笑ましそうに笑う。
「……あれ,“ちょうど”一年前なんですけどね」
そんな呟きは,誰かに届くこともなく,風邪に紛れて流れていった。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:お誕生日会です!
十一話のあそこに差し込むイメージで……
ベリー及びベリー本人様,お誕生日おめでとうございます!




