子供時代の目覚め
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
つぶらやよお。もし、お前が今の知識を持ったままで子供時代へ戻れたとしたら、どうだ? うまくやれる自信はあるか?
転生ものの派生である、逆行系だ。これもまた、戻れない、行くことができない場所への憧れが成せるわざで、答えの分かっていることをときに史実通り、ときには自分の思う方向へ変えていきたいと考える。
圧倒的なアドバンテージが自分にあり、それをこなすことで思うように世界を組み替えることができるんじゃないか、という希望。先の見えない人生を生きているからこそ、なんでも見えている人として操りたい。箱庭の面倒を見たい願望が我々にはあるのだろう。
実際、子供だったときを振り返ってみて、思うことはいろいろある。喜怒哀楽をはぐくむ様々なイベント。あのとき、こうしていればどうなっていただろうか……とな。
最近、懐かしくなってきた思い出がひとつあるんだ。聞いてみないか?
子供のころ、よくやった遊びとなると、人によって返ってくる内容が違うだろう。
俺たちの場合はケイドロ、あまり面積がない場合は鬼ごっこをよくやっていた。かくれんぼとは異なり、身を隠すことは推奨されない。純粋に追う側と追われる側のチェイスが展開される。
参加者の数に応じて、初期の鬼の数は調整し、足が遅い子が鬼に含まれても円滑にゲームを進めることができるようにしていた。いかに足に自信があっても、数と範囲とスタミナに押されては、いずれ限界が来るようにできているもの。
その日、学校の遠足で流れ解散が決まった後も有志で集まり、鬼ごっこをしようという流れになった。
遊具こそないが、見通しのきく小高い山の上。鬼の交代も頻繁になるし、一時間ほどしたら帰ろうかという話になったんだが。
30分ほど駆けまわって、俺はふと気づいたことがあった。
この山のてっぺんの北東部。遊びのテリトリーと決めたふちの部分に、わずかな起伏があったんだ。
目で見てもよく分からず、足につんのめって転びそうになってはじめて認識できたほどの、わずかなふくらみだ。鬼となったとき、追いかけていた子がそこで思い切りすっころんじゃってさ。ひざをすりむいちゃったものだから遊びもしばし休みとなっちまった。
このことで、起伏のこともみんなに共有されて、どのようなものか調べてやろうという話になる。いかに大好きな鬼ごっこでも、しょっちゅうやっていればどこかで飽きが来るものだ。新しい刺激が欲しかったんだと思う。
足や手で触れると、感触はある起伏。最初はみんな軽く蹴ったり、指でつついたりしてみた。つんのめるくらいだから、表面の固さはそれなりのものだ。けれども、より力を入れてみると、少し中へやわらかくのめり込むような感触がある。
「こういうのは、細いもののほうが深く突っ込みやすいんだぜ!」
集まった子のひとりが、そんなことを言いながら拾ってきたものがある。
見た目は細い針金のようだが、恐ろしく硬い。俺たちがひとりや、ふたりでかかるどころか、全員で力をこめても全くたわむ様子がなかった。
彼いわく、本当にそのあたりに転がっていたものらしく、鬼ごっこの最中に見つけて拾っていたのだとか。それなりにリーチもあるからチャンバラごっこの新しいえものにちょうどいいものかも、とも。
彼がそれを、わずかな起伏へ押し当てると、どんどんと力を込めていく。それにともなって、針金もどきもまたかすかな前進を続けていた。非常に分かりづらいが、先端が確かに起伏へ食い込みはじめていたんだ。
俺たちはその進み具合に目を見張り、何が起こるのかを見極めようとわくわくしていたよ。
これまでじわじわとしか進んでいなかった針金もどきが、ふと「プツン」と音を立てて突き抜ける。握った彼もまた、前方に引っ張られて体勢を崩す……のもつかの間だった。
ふと、針金もどきは俺たちの前から消えてしまったんだ。握っていた彼の話だと、ものすごい力で引っ張られたらしいが、どこかへ投げ出された様子もない。
みんなして顔を見合わせていると、出し抜けに地面が大きく揺れた。
「地震だ!」と思ったけれど、揺れそのものは長引かない。一瞬来て止まり、いぶかしく思っていると十数秒後に、またドンとくる。
揺れを4回感じたところで、俺たちは逃げ出していたよ。でっかい音が断続的にやってきて、止まらない……いかにも、しでかしてしまった感があるだろ。
実態は分からないものからは逃げ出したい。責任を負わされるだろうことからも逃げ出したい。この気持ちは子供のころから変わらない。
俺は家に帰ってもかの山の一件は話さなかったし、おそらく他のみんなも同じだったと思う。そのときのことが「俺たち発端」で話題になることはなかった。
翌日。
例の小山で山肌の一部が崩れたことが報じられる。周囲の建物たちは距離をとっていたり、対策をとっていたりしていたこともあって、被害は出なかった。
ただ例の山の中腹には、横殴りに隕石をぶつけたかのような大穴が空いていてさ。一朝一夕に作れそうにないし、内側から何か出てきたんじゃないか、というもっぱらのウワサになった。
あのときの俺たちが目覚めさせた結果なのだろうか……大事ないことを、今も願う毎日さ。