くだものって美味しいよね!
しばらくして、
父が両手いっぱいに野菜の入った袋を抱えて帰ってきた。
同じくらいの量を、おじいちゃんも軽々と持っている。
「ちょっとユウキ、大丈夫?」
母が声をかける。父はぜーぜー言いながら、なんとか答えた。
「……だ、大丈夫だよ……」
(ほんとか? パパン。ぐったりしてるじゃん!)
対照的に、おじいちゃんはケロッとした顔で笑っている。
「ユウキ君、もっときたえにゃらなんな! 追加の野菜も採ってくるわ!」
そう言うと、そのまま畑の方へ走っていってしまった。
(おじいちゃん、ほんと元気だな……!)
母は腕いっぱいの野菜を見て、少し困ったように言った。
「野菜を多くもらえるのは助かるけど……貯蔵庫に入りきるかしら?」
マリが一歩前に出て、落ち着いた口調で答える。
「夏菜様、地下にまだ余裕がございますので、すべて収めても大丈夫です」
(でも……こんな量、一家族で食べきれるのか? 腐っちゃわない?)
おばあちゃんが笑いながら手をひらひらさせた。
「大丈夫よ。シールドの外で育ったお野菜はね、日持ちするから。スイカなんて一年くらいは腐らないんだから。たくさん持っていきなさい」
「わぁ、ありがとう! カイ君もスイカ大好きだからうれしい。ジュースにしてもいいしね」
母は目を細めながら海人を見つめる。
(シールドの外で育った野菜は腐りにくいのか……! すごいな、この世界)
父はどうやら徹夜続きだったらしく、仮眠してきたとはいえ顔色がまだ悪い。
「ねえ、休んだ方が良いよ。今日は泊って行きなって」
母が心配そうに言う。
「……うん、さすがに今日は泊まらせてもらうよ」
「そうして。無理して帰るよりいいわ」
こうして、父も一泊していくことになり、帰るのは翌日に決まった。
◇◇
「夏菜、帰るのは明日になったんだろ? せっかくなら帰る前にカイ君に果物狩りをさせてやるか?」
おじいちゃんがニコニコしながら言った。
「先日のスタンピートに刺激されたのか、梨が一気に熟してるぞ。うまいんだ」
「わぁ、ありがと! あれ甘いから好きなんだ。……逃げ出してない?」
夏菜がちょっと心配そうに聞く。
「ははは、梨の囲いは頑丈にしてあるからな! 逃げても柵の外には出ないぞ。子供が追いかけて遊ぶのに、ちょうどいいだろ」
(……ねえ、なんかおかしくね? 果物狩りって言ってるのに、”逃げる”とか言ってない? )
へたってる父を残して、俺はおじいちゃんと母とマリと一緒に果物狩りをすることになった。
そして俺はジョンに揺られながら、畑とは別方向にある大きな柵の前に連れていかれた。
その中から――謎の叫び声。
『キィエエエェェェェ!』『キィヤァァァァァ!』
(……何だこれ!? 何の声だよ!?)
「お、ちょうどいいくらいに熟したのがあるな!」
おじいちゃんが嬉しそうに声を上げる。柵の中には、リンゴより少し大きいくらいの色とりどりの実をつけた低い木がたくさん植わっている。
よく見ると、その実には――短い足が四本。しかも、木になっている時点で、もぞもぞ動いている。
(うわ……なんだこれ……!?)
『キィエエエェェェェ!』
奇声を上げながら一つの実が落下。すると、足をバタバタ動かして、ちょこちょこと逃げ出した。
よく見ると柵の端っこの方にもちょこちょこ動く実が数個あった。
「ほらほらカイくん、梨を捕まえようね♪」
母がにっこり笑って、梨をつつく。
「ほら、えいっ、てやるんだよ」
逃げ足は遅い。……1歳の俺でも簡単に追いつける。
(いやいや……果物狩りって、普通は木からもいで食べるもんだろ!? なんで果物が逃げてんだ?! )
無言で、ちょこちょこ逃げる梨を拾い上げる。
手の中でまだもそもそ動いていた。
「すごいなカイ君! 一番おいしい梨を捕まえたな! 梨取りの名人だ!」
おじいちゃんが豪快に笑う。
「カイくん、上手だね! すごい!」
母も手を叩いて喜んでくれた。
(……褒められるのは嬉しいけど、これ絶対普通の”果物狩り”じゃないからな!)
それでも、俺はうれしい気持ちがあふれて来てにっこりと満面の笑みを浮かべた。
赤ん坊の本能すげえ!
それからも、いくつかの木から奇声を上げて落ちて来る梨を無言で拾い上げ、
その都度、母と祖父から称賛されつつ、横にいるマリに手渡していった。
梨を捕まえて帰る道すがら、母が柵を見て言った。
「相変わらず、この囲いは丈夫に作ってあるのね」
「実が熟すと、種を遠くまで運ぶために捕食者を声で呼び寄せるんだ。自分でも動いて、親の木から離れようとする。だから柵は頑丈にせんとならん」
おじいちゃんは真面目に説明する。
「柵が壊れると、そこら中に逃げて面倒だからなぁ」
と、笑いながら家へ戻った。おばあちゃん家に梨を持って帰ると、へたり込んでいた父が縁側でお茶を飲んでいた。
「へぇ……足がまだ動いてるのを見たのは初めてだな」
父がぼそっと言う。
「都会の方じゃ、収穫から時間が経ったのばかりだからね。足はもう切られてるし、動かない状態で売られてるもんね」
母が答えた。
「新鮮なのは果汁が多くて美味しいのよ」
とおばあちゃんが笑顔で言った。
マリが梨を切り分け、お茶と一緒にテーブルに並べていく。
梨の切り口から滴る果汁は甘くて瑞々しい。
(……うわ、なにこれうまい! )
ただ……、剥かれた皮がピクピク動いていたのは、見なかったことにした。




