おじいちゃんと魔装具
※物語の随所に災害を連想させる描写があります。
苦手な方はブラウザバックお願いします。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・場所・出来事などは、すべて架空のものであり、実在のものと一切関係ありません。
水遊びとお昼ご飯を食べた後、おばあちゃんが絵本を読んでくれて、俺はお昼寝タイムになった。
この体は、決まった時間に眠くなってしまう。
ポポットポーン♪ ストストポーン♪
『またみてね~♪ばいば~い♪』
お昼寝から目覚めたら、おばあちゃんがテレビを幼児番組のチャンネルに変えてくれていた。
歌のお兄さんとお姉さんが全力で手を振って番組が終わり、画面はカラフルなタイトルから一転、落ち着いた天気図に代わる。
「海人ちゃん起きたのね。ごはんもう少しだから待っててね。」
おばあちゃんが話しかけてくれる。
(あ……おばあちゃんの声だ……そういえばおなかすいた……)
その声を聞いてぼんやりしていた頭が少しづつはっきりしてきた。
テレビでは明るい音楽とともに「お天気チャンネル」の文字が現れる。
キャスターが明日の天気を言おうとしていた時、突如としてチャンネルの表示が切り替わった。
『ここで臨時魔物情報をお知らせします』
お天気チャンネルの軽快なBGMは途切れ、スーツ姿のアナウンサーが真剣な顔で話し始めた。
『数日前から、不安定な魔力が各地で確認されています。また、各地で魔物の異常行動が報告されています。臨時魔物情報にご注意ください。シールド外への移動は極力避けて日常生活をーーーー』
「……あぁ……お父さんが昨日言ってたのって、これのことかぁ……。マリ、なんか知ってる?」
「はい、夏菜様。
こちらへ来る数日前から大気中の魔力の乱れ及び都市シールド周辺の魔物の種類に変化が見られました。
魔物管理センターからのデータでは季節性の変化以外は確認できませんでしたが、ユウキさまの見立てでは魔力の乱れは大きくなるとのことでした。」
洗濯物をたたみながらマリが答えた。
「ここに来る時に乗った対魔タクシーの運転手さんも、“空気中の魔力が不安定になってる”って言ってたわよね。お父さん、しばらく畑に行けないわね。」
母がつぶやく。
「夏菜様のお父様は先ほど畑に行かれました。」
とマリ。
「……畑、シールドから外れてるよね……、あっ、でもジョンを連れて行ってれば……」
「ジョン、そこにいるわよ?」
とおばあちゃんが言うと、ジョンは庭の隅から顔を出し上下に首を振る。
二人の間に沈黙が走った。
と、その時
「ただいま~」
のんきなおじいちゃんの声が聞こえてきた。
「ちょっとお父さん、何してんの! 昨日お父さんが自分で『魔物が活性化してる』って言ってたじゃない!」
母が思わずおじいちゃんに向かって強く言う。
おじいちゃんは肩をすくめ、少し申し訳なさそうに答える。
「いや、な……ほら、昨日もワームがでたし、畑は大丈夫かな、っておもってな……」
「大丈夫かな、じゃないでしょ! まったく、もう!」
母は呆れ顔で腕を組み、軽くため息をつく。
「お父さん、危険すぎるわよ……」
「いや……でも、まぁ、収穫もあるし、ちょっとだけ……魔装具持っていけば平気かなぁ、ってーーー」
(……魔装具って民間人でも持てるんだ……)
対魔タクシー運転手は魔物駆除が業務に含まれている、いわゆる”準戦闘職”の様な物だと思う。
だから戦うための装備を持っているのかなって思ってた。
でも今の話の流れだと、おじいちゃんは自分の魔装具を持っているって事だ。
(魔装具を持てる資格とかがあるのかな? 狩猟免許みたいな感じ?)
海人は母に抱かれながら、テレビの画面と家の平和な景色を交互に見て、なんとも言えないシュールさを感じながら必死に言い訳をするおじいちゃんを見つめていた。
(…そういえば、おじいちゃんの魔装具ってどんなのかな? あの鍬? 振りかぶった時、一瞬光ったよね、あれ。)
魔装具ってのがいまいちピンとこなかったけど、タクシーの運転手が腕に付けていたのが多分 ”魔装具” だ。
あれ、使う前に運転手が手で触れて、赤く発光した。
魔装具ってのは魔物と戦うための特別な装備って事だと思う。
おじいちゃんの鍬は、振りかぶった途端に白い光を放っていた。あれが魔装具なのか。
装具って言うくらいだから、体に身に着けるものだと思ってたけど……
まさか農具型の魔装具……?
「嘘おっしゃい! 何が ”魔装具持っていけば平気かなぁ” ですか! お父さん魔装具なんてほんとんど使わないでしょ!
いつもそこら辺の鍬とか鎌に適当に魔力纏わせて駆除してるでしょうが!
それにいつも使わないんだから、いざ使おうとしてもどうせ上手く使えないでしょ!」
おばあちゃんはぷりぷり怒ってる。
おじいちゃんは、母とおばあちゃんに叱られてしょんぼりしている。
あれ? いやおじいちゃん、中型魔物を退治したあの鍬、魔装具とかじゃなくって、普通の農具だったんか……
まぁ、見た目はまんま鍬だったけどさぁ……
以前、父が
”魔術自衛官は魔力回路が無い武器に、自分の魔力を纏わせて使える”
って言ってた。
おじいちゃんも、鍬に魔力を纏わせて使ってたってこと??
でも魔力って適当に纏わせられるもんなの???
◇◇◇
おじいちゃんがおばあちゃんに、こっぴどく怒られてしょんぼりしていた──
あの日から二日後。
「ーーーにより外出注意が発令されました。該当地域の皆様はシールド外へは出ない様にご注意ください。」
テレビのニュースでアナウンサーが呼びかけを行っていた。
「あらあら……ここも入っちゃってるわねぇ」
おばあちゃんがテレビを見ながら困った様に言っている。
範囲は【チグレ地方一帯】
(……ここ、チグレ地方ってところなんだぁ。)
地方名はわかった。でも国名はまだわからん。
(外出注意報って、たしかタクシー運転手が言ってたやつだ!)
「注意報」が出ても、都市シールド内なら外出は問題ないらしい。
ただしシールド外の移動は自粛。
有料道路も解除まで通行止めで、タクシーも基本シールド内だけの運行になるそうだ。
◇◇◇
テレビで繰り返し外出注意を呼び掛けている時、母は電話をしていた。
「ーーーなのね? そっかぁ、やっぱり。うんうんテレビでもーーー」
多分、相手は父だ。
「あ、ちょっと待ってね。カイく~ん、パパがお話したいんだって」
スマホの画面に父が映る。
『海人、いい子にしてるか~? パパお仕事終わったら迎えに行くからなぁ』
その後も『パパだぞ、パ・パ』としつこく繰り返す父。
結局、母に電話を切られていた。
「ユウキさん、なんだって?」
おばあちゃんが聞く。
「やっぱり魔力の流れが不安定で、セキュリティ関係の企業は政府からの依頼で調査協力だって」
「ユウキさん、大変ねぇ」
「なんかね、空気中の魔力が普通の季節変動より大きく揺れてるんだって。
それと、地中魔力の流れもおかしいらしいの。
地中と空気中の乱れが連動してるみたいで……だからワームが異常行動してるのかなぁ、って。
お父さんも魔力の流れが嫌な感じがするって行ってたし……」
──ワーム、土の中にいるしな。
母とおばあちゃんは、そんな話をしながら台所に向かった。
ふと庭を見ると、隅にある物置小屋の影で、おじいちゃんが何かしている。
(……あれ? ちらちら見えるけど、何やってんだ?)
「お父さん、何してるの?」
母が窓越しにおじいちゃんを見ながら言った。
「ほら、昨日『いざ使おうとしてもどうせ上手く使えないでしょ』って私が言ったでしょ。
それでむきになって、朝から魔装具をふるまわして点検してるのよ。
まったく……子どもじゃないんだから。
いい加減自分の年を考えてくれないかしら。」
おばあちゃんは「まったくもう」と言いながらため息をついた。
小屋の影から時々、何かが風を切る低い唸り音が聞こえる。
そっと覗くとおじいちゃんの手には、柄にうっすらと赤く紋様が浮かび上がる長杖──先端には刃のようなパーツがあり淡く白い光を放っている。
杖をくるりと回すたび先端の光が炎の様に揺れる。
おじいちゃん、一昨日あんなにしょんぼりしてたのに、今日はもう元気に魔装具を振り回してるのか!
すげーなおじいちゃん!
……それにしても、おじいちゃんの魔装具って、めちゃくちゃカッコいい。
タクシー運転手さんのは腕輪タイプだったけど、これは完全に武器型だ。
「お父さん、カイくんの前ではやめてね~。怖がっちゃうから」
ママンが強めの口調で注意する。
(ちょっ、ママン、俺は見たいです!
怖いのは魔物であって、おじいちゃんの魔装具じゃない。むしろ興味津々です!)
「わかっとるわ! だから見えんようにしてるだろ!」
(ちらちら見えてるけどね!)
こっそりおじいちゃんの方に歩いていくと、おじいちゃんは俺に気づき、杖を肩に担いだまま後ずさる。
「カイ君、危ないからなぁ、ママの所に行ってろな!」
そう言って、おじいちゃんは逃げた。
おじいちゃんの逃げ足、忍者みたいに速いんですけど!