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第23章 海上要塞、浮上(The Floating Fortress)


【2054年2月9日|05:15 JST|東京湾沖・深度25m】


漆黒の海中を、二つの影が進んでいた。

ハン・ロメロと片倉ユイは、水中推進機(DPV)に掴まり、MAMCOの巨大海上プラットフォーム「トリトン・ベース」の直下へと接近していた。

海中は静寂に包まれているが、それは死の静けさではない。高感度のアクティブソナーが、定期的に鋭い音波を放ち、獲物を探している。


「……ピンガー(音波探信音)の間隔、4秒。まだ気づかれていない」

ハンは通信ケーブル経由でユイに伝えた。彼らは現在、MEX-55改に装着された「水中機動ユニット」を使用している。排出される泡は特殊フィルターで消去され、熱紋も海水冷却で隠蔽済みだ。

視界(HUD)には、頭上に広がる巨大な黒い影――全長400メートルを超える移動要塞の底面が映し出されている。

「あそこよ、ハン。第3冷却排水口。あそこならセンサーの死角になる」

ユイが指し示す先には、温水を吐き出す巨大なハッチがあった。

「了解。……潜入スニーキングはここまでだ。派手な花火大会といこうぜ」



【海上要塞トリトン・甲板|05:22 JST】

要塞の甲板は、激しい雨と波飛沫に打たれていた。

突如、左舷後方のグレーチングが内側から爆破され、火柱が上がった。

警報が鳴り響く中、黒煙の中から飛び出したのは、重武装形態に換装したハン・ロメロだった。

「敵襲! 甲板B-4エリア!」

警備兵(Saints)たちが駆けつけるが、ハンは止まらない。

「遅えよ!」

ハンの肩部に増設された「マイクロミサイル・ポッド」が開く。

シュババババッ!

12発の小型ミサイルが一斉発射され、不規則な軌道を描いてSaints部隊の頭上で炸裂した。

爆風と衝撃波。吹き飛ぶサイボーグの四肢。

ハンはその混乱の中を滑るように疾走した。

右手のサブマシンガンと、左手のアサルトライフル。二丁拳銃デュアル・ウィールドスタイルによる制圧射撃。

彼のBMIは、アイザックの残した戦術データと完全にリンクしていた。

360度、死角なし。

背後から近づく敵には、振り返りもせずに左手のライフルを脇の下から突き出して発砲。ヘッドショット。

「弾幕が薄いぞ、MAMCO! テメェらの自慢のAIは、この程度の予測もできないのか!」

ハンは咆哮し、空になったマガジンを捨て、新しい弾倉を空中でリロードした。

かつての隠密行動とは対照的な、圧倒的な火力による「強襲アサルト」。

それは、彼の中に眠っていた鬱憤と、亡き戦友たちへの鎮魂歌レクイエムでもあった。



【要塞管制塔・基部|片倉ユイ視点】

ハンの派手な戦闘が囮となり、敵の戦力が甲板に集中している隙に、ユイは管制塔のデータポートへと到達していた。

「ジャック・イン!」

有線接続。彼女の意識が要塞の制御システムへと侵入する。

《Access: Triton Main Control. Security Level: A+》

「……見つけた。要塞の防衛システム(CIWS)」

甲板には、対空防御用の20mmファランクス機関砲が設置されている。ユイはハッキングコード「Spiders」を流し込み、その敵味方識別装置(IFF)を書き換えた。



【現実空間・甲板】

Saintsの増援部隊が、重機関銃を構えてハンを包囲しようとしていた。

「ターゲット捕捉。一斉射撃、開始」

だが、その瞬間。

彼らの背後にあったファランクス機関砲が、不気味なモーター音と共に旋回した。

銃口が向いた先は、ハンではなく、Saints部隊だった。

「え……?」

AIが状況を理解する前に、毎分4500発のタングステン弾が味方の背中を薙ぎ払った。

ギャギャギャギャギャッ!!

Saints部隊は瞬く間に鉄屑へと変わり、甲板はオイルの海となった。

「ナイスだ、ユイ! 性格の悪いハッキングだぜ!」

ハンは親指を立て、煙を上げる機関砲の横を駆け抜けた。



【要塞最上部・ヘリポート】

二人は敵を排除し、要塞の最上部へと到達した。

そこには、一機の輸送機と、それを守るように佇む「最後の敵」が待っていた。

雨の中、ゆっくりと振り返ったその姿。

最新鋭の流線型アーマー。顔はなく、ただ一つの赤いセンサーアイが光っている。

MAMCOの最高傑作、対Null兵士用完全自律兵器『オメガ(Omega)』。

『……分析完了。個体名:ハン・ロメロ。戦闘力:Sランク。……学習対象として受領する』

オメガの声は、合成音声でありながら、どこかアイザックの声質を模倣していた。

ハンは足を止めた。

彼の脳内で、アイザックのゴーストが強く警告を発した。

『……気をつけろ、ハン。あいつは“俺”だ。俺の全盛期のデータをベースに、感情というブレーキを取り払った化け物だ』

ハンは武器を構え、低く唸った。

「アイザックの偽物が……。その声で喋るな」

雨脚が強まる。

最終決戦のゴングは、雷鳴と共に鳴り響こうとしていた。


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