表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/26

第20章  多脚戦車の悪夢(Spider Tank)


【2054年2月9日|04:18 JST|ネオ有明タワー・第50階アトリウム】


警告アラート:接近弾、多数! 回避行動を推奨!」

ハン・ロメロの視界(HUD)が、赤一色の警告色に染まる。

轟音。


毎分4000発の速度で回転する20mmガトリング砲が、アトリウムの白い大理石の柱を豆腐のように粉砕していく。

「チッ、品のないバラ撒き方だ!」

ハンは床を滑るようにスライディングし、粉砕される柱の残骸を盾にして駆け抜けた。


頭上を曳光弾トレーサーが通過し、背後の壁が蜂の巣になる。

敵はMAMCO製自律多脚戦車『タランチュラ(Tarantula)』。

重戦車並みの装甲を持ちながら、4本の脚で壁や天井を自在に移動する、市街地制圧の悪夢だ。


【タランチュラ視点(AI処理ログ)】

《Target: Hostile Cyborg x1. Type: High Mobility.》

《Action: Missile Pod Launch. Pattern Delta.》

タランチュラの背部ポッドが開く。

シュババババッ!

小型誘導ミサイル(マイクロミサイル)6発が発射され、白い煙の尾を引いてハンに殺到する。

「ユイ! ハッキングはどうだ!? このままじゃミンチだぞ!」

ハンは叫びながら、腰のマウントから「チャフ・グレネード」を引き抜き、足元に叩きつけた。

銀色の金属片が煙幕のように広がり、ミサイルのレーダー誘導を攪乱する。

爆発、爆発、爆発。

衝撃波がハンを吹き飛ばすが、MEX-55改の姿勢制御スラスターが空中で作動し、彼は猫のように着地した。



【アトリウム隅・サーバールーム陰|片倉ユイ視点】

ユイは物陰に身を潜め、震える指で携帯端末を操作していた。

彼女の意識は、タランチュラの制御系(FCS:火器管制システム)にダイブしている。

「硬い……! こいつの防壁(ICE)、軍艦並みよ!」

仮想空間の中で、タランチュラのAIは巨大な鋼鉄の蜘蛛として具現化していた。ユイが放つウイルスコードを、蜘蛛の足が次々と踏み潰していく。

「停止させるのは無理。でも……処理落ち(ラグ)させることなら!」

ユイは戦術を変えた。

制御を奪うのではなく、膨大なジャンクデータを送りつけ、敵のCPUに過負荷をかける「DDOS攻撃」だ。

送り込むデータは――かつてZone-K8で収集した、Null兵士たちの「叫び声」の音声データ数万時間分。

「食らいなさい! 私たちの痛みを!」



【現実空間・アトリウム】

タランチュラの動きが、一瞬だけ鈍った。

ガトリング砲の追尾が、ハンの動きよりワンテンポ遅れる。

「……今だ!」

ハンはその隙を見逃さなかった。

彼は逃げるのを止め、壁に向かって走った。

磁気吸着ブーツの出力を最大へ。

「重力なんて知ったことかよ!」

ハンは垂直な壁を駆け上がり(ウォール・ラン)、天井に張り付いているタランチュラと同じ高さまで跳躍した。

敵AIが反応する。


《Error: Targeting Delay 0.5s. Recalculating...》

遅い。0.5秒の遅延は、近接戦闘(CQC)においては永遠に等しい。

ハンは空中で身体を捻り、タランチュラの装甲の上に飛び乗った。

「ここなら大砲は撃てねえだろ!」

タランチュラが暴れ、脚を振り回してハンを振り落とそうとする。

ハンは左手の義手でセンサー・アンテナを鷲掴みにし、しがみつく。

そして、右手の「切り札」を構えた。

右腕のアサルトライフルをパージ(強制排除)。

その下から現れたのは、建設機械用の油圧杭打ち機を転用した、対戦車用パイルバンカー(Pile Bunker)。

射程距離ゼロメートル。だが、その貫通力は戦車の装甲をも穿つ。

「ユイ、ロック解除!」

『リミッター、オールグリーン!』

タランチュラの「単眼モノアイ」センサーが、至近距離でギョロリとハンを睨む。


ハンはニヤリと笑った。

「眼科検診の時間だ」

ドォォォォォォォォォォォン!!

炸薬式のカートリッジが起爆。

超硬タングステンの杭が、音速で射出される。

タランチュラの強化ガラス製のセンサーアイが粉々に砕け散り、その奥にあるメインCPUユニットごと貫通した。

「ギ……ギギ……」

巨体が痙攣し、駆動音が断末魔のように高音になる。

ハンは杭を引き抜き、タランチュラの背中から飛び降りた。

ズズーン!!


天井から剥がれ落ちた多脚戦車が、アトリウムの床に激突し、黒煙を上げた。

「……ふぅ」

ハンは着地し、肩のアクチュエータからシューッと排熱蒸気を吐き出した。

《右腕損耗率:45%。パイルバンカー弾数:0》

ユイが物陰から駆け寄ってくる。

「ハン! 大丈夫!?」

「ああ。だが、派手にやりすぎた。館内の警備兵が総出で来るぞ」

ハンは残骸と化したタランチュラを見下ろした。

「だが、道は開いた。……行くぞ、このタワーの心臓部へ」

彼は瓦礫の中からアサルトライフルを拾い上げ、まだ熱い銃身に新しいマガジンを叩き込んだ。

その背中で、タランチュラが小規模な爆発を起こし、完全に沈黙した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ