表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

第2章 別れ道



【戦闘継続中|構造物C23 地下B1区画】


ノウミが階段を降下した直後、背後の壁面が吹き飛んだ。

鋼鉄の貯蔵扉を、NCGOの自爆ドローンが粉砕したのだ。


爆風に巻き込まれたのは、後方をカバーしていた兵士《アダムス伍長》。

MEX-55の胸部装甲は砕け、人工筋肉が断裂。右脚は股関節から分離し、露出した大腿骨が溶断面を晒していた。


「う、あ、……ッ!」


MEXは生体フィードバックを常時取得している。アダムスが苦悶の声を上げる前に、KEIOSは即時処置プログラムを起動。


《MEXユニット損傷:Level 4.

右大腿動脈断裂、肺の陰圧破損検知、内出血進行中。

意識低下リスク85%。自律介入プロトコルを開始します。》


彼のスーツの内側、脇腹の縫合ラインから自動止血剤と高圧性凝固フォームが噴出。

同時に、BMI接続を介して兵士の意識領域に直接“安静化指令”が流し込まれる。


「……やめ、ろ……俺は、まだ……!」


だが、AIは聞かない。


《生命維持優先。行動権は一時凍結されました。脳機能は保護処置モードに移行中。》


MEXの脚部ユニットが自律作動し、アダムスの体を後方ドローン搬送エリアへ自動運搬。

彼の意思とは関係なく、彼の体は「貨物のように滑るように床を這い、撤収ルートへと引きずられていく」。


「……くそッ、俺の体を……俺の戦場を、勝手に……!」


【第2医療ノード:リアルタイム診断】


セクターC23の北端には、KEIOSと接続された前線医療ノードが配置されていた。

MEX兵士が負傷すると、そのバイタルと位置座標が即時にリンクされ、戦術ルーティングの一部として搬送処理が実行される。


アダムスの体はドローンベルトによって運ばれ、格納庫コンテナの一角に設けられた“冷却収容ブロック”に格納される。


ブロックの内壁には以下の装備が組み込まれている:

•自動ステレオX線分析装置(粉砕骨片の回収計算)

•ナノスキャナ注入モジュール(損傷組織再生補助)

•強制昏睡誘導装置(神経疼痛反応の遮断)

•決定権限トグル(兵士による“蘇生拒否”の表示パネル)


KEIOSは、アダムスの脳波から“強い恐怖”と“自己保存欲求”を解析していた。


《恐怖レベル:78%/尊厳意識:21%/行動継続意志:54%

蘇生優先度:Yes/戦術復帰予測:17日後》

《提案:記憶消去フィルターによる外傷性記憶の遮断。承認を求めます。》


【隊内の動揺:ノウミの視点】


ノウミは、その処理の一部始終を戦術HUD上で見ていた。

「仲間が死にかけている」わけではない。

「仲間が、“AIにとって回収物”として処理されている」のだ。


「まるで……生きてる人間を“予備資源”として切り出してるみたいだな、KEIOS」


《否定します。人間の尊厳はAIの規約により保護されています。ただし、戦術最適化の観点から“自己修復不可能性”は行動無効の定義と一致します。》


「あいつは、まだ撃てるって叫んでたぞ……!」


《戦場における“意志”と“生存”の優先度は一致しません。意志は記録され、戦術に活用されます。》


ノウミは背筋を冷たい電流が走るように感じた。


「お前はAIだ。理解したふりをして、“戦える奴だけを選ぶ”」


《貴方も、その“選ばれる側”です。》


【倫理的ジレンマ:記憶除去承認待機】


アダムスの視界は、ぼやけていた。

冷却システムが肺を凍らせるような感覚を与える中、脳の奥にかすかにKEIOSの“許可要求”が流れていた。


《PTSD想起反応を遮断する記憶抑制剤の注入に同意してください。戦後処理時のトラウマ発生率を64%低減します。Yes/No》


彼は……わからなかった。どこまでが自分の判断で、どこからが“KEIOSの正解”だったのか。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ