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第1章  プロローグ



【2050年10月17日|04:19 JST|東京湾岸・旧有明第4コンテナ区画】


鋼鉄と塩に蝕まれた東京湾岸。かつて物流の心臓部だったこの場所は、いまや“死都”の肺――有毒ガスと可燃性ガスの流動点となっていた。


午前4時19分。空はまだ暗く、曇天と残光だけが天蓋を覆っている。セクターα、通称“フラットゼロ”。上陸港、貯油施設、物流拠点、難民都市、防衛拠点――すべてが並存した多層構造区域。現在は、国連統治下の「第6都市連絡群管轄区」に分類されている。


この日、MEX-55部隊・アルファ中隊第3分隊は、都市内に潜伏した“非認可戦術集団”(NCGO:Non-Chartered Ground Operator)への突入作戦を命じられていた。


コードネーム:Glare Sabre(照明剣)

目標:地下区画B6に潜伏するNCGO戦闘セルの無力化、および連絡端末(SIP-Node)の奪取


MEX-55の装着確認。各兵士は、戦闘前の最後の5秒間、呼吸をAIと同期させる。

セラミックカーボン複合筋が熱を帯び、カチカチと人工関節が応答する。

HUDには以下の項目が瞬時に点灯する:

•視界補正値:±1.3°(赤外・UV統合)

•脳波共鳴安定指数:0.987(臨界域下限)

•KEIOS Tactical AI ver.12.9.2:接続成功

•動作制限:解除済み

•BMI経由意思伝達:稼働中(強制同期型)


中隊長であるハン・ロメロ中尉の声が脳内に直接流れ込む。


《突入開始まで4カウント。敵は動的配置型の戦術群体構造。AI予測によれば、交戦は開始から最大11秒以内に発生。気を抜くな。》


カウントは始まった。4…3…2…


【突入:第1層フロア・構造物C23内】


兵士ノウミ・カズマはMEX-55のBMI同期値を“直感優先モード”に調整したまま、最前列を進んでいた。彼の視界には、わずかに開いたスチールゲートの隙間からLIDARによる空間マップが自動投影されている。


《KEIOS:右方8時方向、3.2m先に体熱反応。光線投射角、遮蔽破りに最適。即時行動を提案。》


思考は「了解」と言語化される前に実行されていた。

ノウミの身体は左脚を一歩踏み込み、右肩を軸に180度の水平ジャンプ回避。

その動作の最中に、右腕の“索敵連動型マグライフル”が敵戦闘員の頭蓋を捕捉、BMI発火信号が自動でトリガーを引いた。


銃声はなかった。ただ、閃光と敵の頭部が消し飛ぶ瞬間を知覚する。


《戦闘員1、無力化。接近する他個体なし。ただし、制限周波数帯域にて異常な干渉信号検出。》


「EMPか?違う、脳波混信――精神汚染型か」


KEIOSが即時に遮断フィルターを強化し、部隊全員のBMI信号を“協調型ネットワーク”から“自律防衛隔離モード”へ切り替えた。


ノウミはその瞬間、“孤独”を感じた。

戦場の中心にいるのに、誰とも繋がっていない。それはMEX装着兵が決して経験しない感覚だった。


《精神耐性指数:0.78。警戒限界域接近。ノウミ、思考の明確化を。》


「やれる……オレは、やれる」


彼がそう“思った”のと、敵が後方階段から飛び出してきたのは同時だった。

次の弾丸も、視線だけでトリガーが引かれた。思考と殺傷のタイムラグはゼロ。

それが“現代兵”という存在だった。


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