第二章「王城騒然、勇者様ご到着」
魔物討伐(※ただし俺は見ていただけ)から一夜明け――
俺は、王城にいた。
どうやら、あの魔物が王都近郊まで迫っていたということで、騎士団がパトロールをしていたらしい。そして、たまたま現場にいた俺は、レティシアとともに“無事に帰還した”ということで、騎士団の本部――そして、王城へと連れてこられた。
「すまんな、いろいろ騒がせて。だが、君たちの判断は正しい。俺のような重要人物は、王に会うべきだろう」
護衛の騎士がピクリと眉を動かす。
「重要……人物?」
「うむ。転生勇者だ。何なら、光の加護を受けたといってもいい」
根拠は一切ない。けれど、俺の直感が告げていた。
――これは、運命だ。
この世界に呼ばれたのには理由がある。前世で得た知識、無数の読書とゲームの記憶、それに35歳という、青年とは違う“渋み”。すべてがこの世界で輝くための布石だった。
廊下の先、重厚な扉が開かれる。
王の間――か。
俺は落ち着き払って足を進めた。すると――
「おのれ、何を考えているのだ貴様は!!」
怒号が響いた。
――レティシアだった。
彼女は王の間の中央に立ち、完全に俺を指差していた。
「魔物の前で動かず立ち尽くしていたこと、奇跡的に無傷だったこと、そのすべてを“自分の力”だと本気で思い込んでいるのです!」
「違うのか?」
俺は素で聞いた。
騎士たちはざわつき、レティシアは頭を抱えた。
だが、そのとき――
「……ふむ。面白い男だ」
玉座に座る、ひげを蓄えた王が口を開いた。
「無謀に見えて、その実動じず……民を守るという気概を持つ。真澄殿、そなた、本当に“勇者”なのか?」
俺は胸を張って答えた。
「ええ、そう思っております」
「ほう……“思っている”とな。自信家か、それとも――」
王は笑った。
「余は好きぞ、そういう者。国には少しばかりの希望が必要だからな」
その瞬間、王城の空気が変わった。
レティシアの目が見開かれ、騎士たちがひそひそと囁きはじめる。
「まさか……」
「本当に勇者なのか……?」
――なぜか、信じ始めている。
俺の中では、完全に「勇者である」ことが確定している。だが、周囲がそれに追いついてくるのは、予想以上に早かった。
「うそでしょ……」
レティシアが小さく呟いたその顔は、困惑と――ほんの少し、心配の色を帯びていた。
彼女は、まだ気づいていない。俺が、きっとこの国を救うことになるということを。
そして。
俺も、まだ気づいていなかった。
この世界で出会った一人の騎士姫が、自分の運命そのものを変える存在になることを――