06 silence
彼らの街は外界との交流が盛んではない。
他の街からやって来る者は少なく、また街を出て行こうとする者も少数だ。
閉ざされた丘の上の街。ここは他の人里からは遠く離れており、外の世界がどうなっているのか、話が出回ることもない。外界からほとんど断絶しているのは、住民たちが幼少よりこの街の特別さを教え込まれることも一因であるだろう。
聖女に祝福された街。地に染み渡ったその力で、周辺の一帯は稀に見るほどの肥沃さに富んでいる。天使に脅かされながらも彼らを退け、俗世の波乱を遠ざけ続ける豊穣の揺籠――――広大な砂漠の中央にぽつりと存在しているそれは、他の街からも特別視されているという。
ただそれでも年に一、二度は大規模な隊商がやってくることもあり、そのような時には祝祭にも似た華やかさが街に満ちる。中層で大きな市が開かれ、物珍しい織物や工芸品、見慣れぬ歌や踊りなどの芸が披露されるのだ。
グレイシアスたち天使狩りにとっては、仕事が増える機会でもある。
外からやって来る人間たちに粗相があってはならない。隊商の人間が天使に殺されでもすれば、街の不名誉となってしまう。故に大市が開かれている間は見回りの人数が増やされ、余計な諍いが起らぬよう巡回中も気を払うことになる。
連日の見回りを経て、若干の疲れを覚えるグレイシアスは小さく息をつく。考えごとかと、カナリアに声をかけられて、彼はいや、と首を振った。
穏やかな風。開催されている大市の賑やかさもここまでは届かない。葉擦れの音と、白い花弁の埋める丘の上の花園に、彼らはまたやって来ている。
何でもない、ただここが落ち着くと思っただけだ。
そう答えるとカナリアは、しかし不満げに膝を抱えた。
当たり障りのない返答が気に召さなかったらしい。もっと素直に話してくれてもいいのに、と口の中で呟く。
素直になっているつもりだが、とグレイシアスはすげなく苦笑する。
彼女とは色々な言葉をかわすようになったとはいえ、全てをありのまま口にすることは、グレイシアスには難しい。
隠し事をしたいわけではない。
ただ己の心のうちの全てを伝える必要はないと思っているだけだ。
彼女には、ただ笑っていてほしい。その顔を曇らせたくない。大市での揉め事や、見回り中に向けられる嫌悪の目についての話をして、カナリアを悲しませたくはなかった。時に彼女はなんでも言ってほしいとせがむが、喜ばしいことだけを、綺麗なものだけを伝えておきたいと思うことは、おかしなことだろうか。
それに、彼が疲れを覚えている原因は他にもある。
先日カナリアと共にいる時に遭遇した天使。それについて、彼は個人的に捜索を行っていた。時間を作っては、出来る限り細かく下層を巡回している。
おそらくあれが、詰所で話題になっていた下層の天使なのだろう。
その被害は広がり、先日は三人目の死体が出るに至っていた。
遭遇したのはグレイシアスだけではないようで、天使狩りの間で目撃証言も少しずつ増えてきている。天使が言葉を発するらしいという噂も広まり、下層の天使にまつわる事件は普段とは異なる得体の知れなさを伴っていた。
どうやら例の天使は身の危険を感じると、素早く逃げ出してしまうようだ。そのせいで天使狩りが遭遇しても討滅することができずにいる。一度は日中に天使狩りを総動員しての街狩りも行われたが、成果はない。
あの天使は、異常な存在だ。存在してはならない者と言ってもいい。
人語を話し、意思を持つような天使など――――。
この街の存続のために、そしてカナリアに害が及びかけたことを考えても、一刻も早く見つけ出して殺さなければならない。
下層は入り組んだ路地が広がっており、そのどこかに潜んでいるのだろう天使を探し出すことは簡単にはいかない。あるいはあの天使が動くのであればと、グレイシアスは夜にも見回りをしているのだが、何の成果も出ずに探索が終わると徒労感は拭えなかった。
だがそうした諸々も、この今はあえて口にする必要もないことだ。
不貞腐れたように肩をもたれさせてくる娘。その白銀の髪を、グレイシアスは手に取る。繊細な手触りを、壊れ物を扱うように撫でた。心配も不安も与えたくはない。こうして安らぎを与えてくれる彼女との時間を、大切にしたいと思う。
目を閉じて自分の髪を好きにさせているカナリア。
彼女へと、少し考えてから彼は、一緒に大市を回らないか、と穏やかに言った。
隊商の催しはまだ数日は続く。その間のグレイシアスの見回りの番は終わっているので、明日からの非番を使えば共に見て回れるだろう。
途端にカナリアは目を見開いて身を離す。まじまじと彼を見つめてきた。
困ったような、それでいて期待するような顏。どうした、と聞くとカナリアは、だって、と言葉にならないように口ごもった。
そんなに驚かれるようなことだろうか。
そうかもしれない、とどこか穏やかな心持ちでグレイシアスは思う。
今まで彼はカナリアの用事に付き添うことはあっても、自分から街歩きに誘ったことはなかった。
天使狩りである自分と、必要のないところでカナリアが会うことは避けるべきだと、今までの彼ならそう考えていたはずだ。彼女の友人から遠回しに指弾されたように、彼が近づくことは彼女にとって良くないことだからだ。
グレイシアス。それは、どうして誘ってくれるの?
目を伏しがちに、落ち着かなさそうに問いかけてくるカナリアに、彼はどうして、と娘の問いを反芻して目を閉じる。正面から訊かれると、理由を判別するのは難しい。
どうして――――どうしてだろうか。
それが彼女に彼があげられる、価値あるものだと思ったからかもしれない。
伝えられない、伝えるつもりもない言葉たちよりもずっと。
最近は空き時間を下層の見回りに割いているので、彼女と一緒にいられる時間が減っているということもある。例の天使と遭遇した後に、夜中には絶対に一人で出歩くなと言い含めたため、彼女に窮屈な思いをさせているのではと感じていた部分もあった。あるいはこの間、彼女や彼女の師について話を聞いたからか。
人が変わる時、それは唯一分かりやすい理由によってとは限らない。
彼の胸の内にはいくつかの感情が溶けあい、混ざり合っている。
それをそのまま口にすることは、やはり彼には難しかった。
ただ、もっとも大きな欠片を挙げるのであれば。
一緒にいてくれる彼女に、もう少し何かをしてやりたいと思ったのだ。
優しさを失わないでいる強さ。明るさに秘められた孤独。彼女の人となりを知るにつれて、その思いは大きくなっていた。自然と彼に、彼らしからぬ提案をさせるほどに。
ただ見守るだけではない。伝えないだけではない。
何か違う、彼女を喜ばせられるようなことを。
それはいつか、彼女がこうして安らぎを分け与えてくれたように。
――――せっかくの大市なのだから気晴らしになるだろう。面白い出し物なども見れるかもしれない。見回りをしていた際、珍しい果物や織物などもあったから、彼女が気に入るものもあるのではないか。
グレイシアスはやや黙り込んだのち、そんな言葉を選ぶ。
思っていること。伝えたいこと。彼女が知る必要のない思い。胸の内にある何かは、綺麗に包んで届けようとすると何かが欠け落ちてしまう気がする。
それが良くなかったのか、カナリアの表情は微妙なものになった。何かが来るのを待っていたように見えたのも束の間、なぜか拗ねた目つきになる。
他に理由はないのか、と聞かれるが、そう言われても答えるのは難しい。他とはなんのことか、と問い返すと頬を膨らませて黙ってしまう。
言うべきことはもっと他にあるのかもしれない。
彼女が言うように、もっと素直になるべきなのかも。
だがどう言い繕おうとも、結局のところ彼はただ、カナリアの嬉しそうな顔が見たいというだけだ。それだけは間違っていない。
何かを掛け違えているような沈黙。
もしかして行きたくないのか、と言うと娘はゆっくりと首を振る。
意図の飲み込めぬ微妙な沈黙。やがてカナリアはそっと溜息をつく。
それから、許してあげます、と笑ってみせた。
仕方がなさそうに。
それでも少しだけはにかむように。
何が許されたのかはよく分からない。カナリアは立ち上がると、花々の中を少し先へと歩いていってしまう。結局は嬉しそうに顔を綻ばせて、その場でくるりと回ったりなどしている娘を、グレイシアスは呆れ顔になって見やる。
揺れる花々。淑やかな銀の髪を風に遊ばせる娘。
何に咎められることもない時間は、いつもグレイシアスを自然と安堵させる。
まるで泡沫めいた穏やかな居心地。けれど同時に彼は、今だけ夢から醒めているかのような明晰さも覚える。くすんだ光景の街にいる時とは違い、ここでは意識がはっきりしているような。地面についた手のひらを、吐き出す息を。自身の輪郭を、正しく取り戻していられるような気がする。
少し離れたところから、カナリアが呼び掛けてくる。
ねえ、市には人、たくさんいるかな。
見回りをしている限りでは、人出は多そうだ。はぐれるなよ。
泣かないで、グレイシアス。もしそうなっても、迎えにいくから。
誰が。そっちこそ、焦って転ぶなよ。
なら、手を握ってて。そうならないように。
たわいのない軽口を交わし、明日は二人とも時間があるということで、早速そこで大市に向かう約束をする。
晴れると良いね、と微笑むカナリアに、大丈夫だろう、とグレイシアスは頷く。
ここ数日は天気もよい。見上げる空は澄んで、雨雲の欠片も見えなかった。この調子なら、通りで珍しい他所の街の踊りや詩人の歌も聴けるはずだ。
見回りの際、彼自身はそれらをすでに目にしている。だがカナリアにも見せてやりたかった。好奇心の強い彼女のことだから、きっと喜ぶだろう。
詩人の歌なら、あなたのものを聞きたいのだけど。
催し物について聞かされたカナリアは苦笑する。
彼自身のものなど、それを生業にしている者に比べたら見劣りするだけだ。相変わらず彼女には、書き付けた手帳の中身を教えてはいない。
そのうちにな、とグレイシアスは誤魔化しておく。
重ねられるささやかな会話。
気付けば流れ去ってしまいそうな今。
何の気負いもなく未来をつみあげていく時間を、彼は大事にしたいと思う。こんな時が続けばいい。願わくば、ずっと。
カナリアも同じように思ってくれるだろうか。
ふいにカナリアの顏から、笑みが薄らいでいく。
膝下まである服の長い裾を揺らし、彼女は振り返った。
少しの躊躇いを宿した瞳。小さな唇が動いて、彼の名を呼ぶ。
――――ねえ、グレイシアス。天使は、他の街にもいるのかな。
どうしてそんなことを、と聞くが、彼女は答えなかった。少しこわばった、思いつめたような表情で目を逸らしてしまう。
彼は息をついた。両目を閉ざすと、分からない、と返す。
それは半ば真であり、そして偽でもある。
この街の外の世界。そこに天使は――――おそらく、いない。
やってくる隊商の人間たちは皆、天使の存在を知らないようなのだ。
正確には、この街にそういうものがいるらしいと知識として知ってはいても、生まれた時から隣り合わせの脅威として生きてきてはいない。天使狩りたちに指示を出す上官の口ぶりや、話しかけてくる商人たちの雰囲気からして、グレイシアスは薄々そう感じ取っていた。
もちろん、外の世界のすべての街がそうであるとも限らないだろう。
天使がいる街は、他にも存在するのかもしれない。
だからカナリアの問いに、分からない、と答えたことは嘘ではない。
あるいは――――嘘ではない、と彼自身が考えたがっているのか。
この街の外に天使はいない。その可能性について考えてしまえば、目を逸らし続けてきた何かを直視してしまう気がして。
カナリアは視線を逸らして地面を見つめている。
先程までは楽しい先の話を考えていたはずの彼女の様子に、グレイシアスは怪訝さと言いようのない不安を覚える。そもそも彼女は、天使について伝え聞いたことがあるだけで、見たこともなかったはずだ。あるいは隊商の話を聞いて、外の街が気になったのだろうか。
ここを出て、別の街に行ってみたいのか。
そう聞くと、カナリアはかぶりを振った。
彼女が今の仕事にやりがいを見出していることは知っている。彼女の師をはじめ、街には離れたくない人間もいるだろう。だからそれは予想できた反応だった。
ならばなぜ、彼女は思いつめたような顔をしているのか。
困惑するグレイシアスに、彼女は目を逸らしたまま言った。
以前、なぜ彼が天使狩りになったかを聞いたことがあったと。
彼はああ、と頷いた。確かにそのようなことを聞かれた覚えがある。
カナリアはそれなら、と続けた。これからも、天使狩りを続けるのかと。
彼はまた頷いた。おそらくは死ぬまで、続けることになるだろう。
これらの問いが何か関係あるのか。
なおさら疑問に思ったが、カナリアはそこから何も言わなかった。グレイシアスはその先の言葉を待って、佇んでいる娘を見やる。
カナリアは彼と目を合わせる。琥珀の瞳が、真剣な光を湛えていた。
小さな唇が、意を決したように開かれる。
グレイシアス、それなら――――。
その瞬間。二人の間に緩やかな風が吹き抜ける。
それは周囲の花々をひときわ強くざわめかせると、カナリアから続く言葉を奪い去っていった。舞い上がる花弁。吹きつける風の勢いに、彼は目を細める。視界の先で、カナリアが寂しげな笑みを浮かべた。
音が失われた一瞬。辺りに静寂が取り戻されても、もう彼女はそれについて話そうとはしなかった。どこか悄然と目を伏せると、黙って彼の元へと戻ってくる。グレイシアスは首を傾げた。
日暮れの気配が近づくと、二人は雪花の丘を後にする。
溶けあわぬ境界。だがそれを不幸せとは呼ばないだろう。
手を伸ばせば届くかもしれない距離。永遠に消え去ることのない空白。そこには恐れが介在する。刻むべき無限の隔たりは、今の彼には遠すぎる。
握り返される手の平。その温もりだけで十分だ。
たとえ完全でないとしても、満たされていることに違いはないのだから。
街に戻り、彼らはカナリアの店の前で別れる。
娘が小さく手を振って閉ざした扉を後に、青年は踵を返した。
大市を一緒に回るという約束。
彼らが笑顔で交わした翌日の予定は、しかし果たされないものとなる。
◇
松明に灯る炎が、爆ぜる音を立てて煌々と燃えている。
真夜中だというのに惜しげもなくいくつも焚かれた篝火は、あちこちの街角を赤く染め上げ、暗がりをいっそ獰猛なほどに退けていた。
武装した男たちが行き交う物々しい雰囲気。彼らの腰元で揺れる長剣の固い金属音が夜の静けさに重なり合い、低く押し殺されたささやきが交わされる。
嫌な時期に出たな。これで何人目だ?
四人目だ。とうとう女もやられたな。ひどい話だ。
逃げたところを見たやつはいないのか。
グレイシアスは天使狩りたちの集まる路地裏の一角へと足早に踏み入る。
カナリアと大市を回る約束をした、その夜のことだ。街中に響く天使の出現の鐘の音で目を覚ました彼は、非番ではあったが起き出して剣を取ると、事が起こったのであろう場に駆けつけていた。
本来なら休みの番なのだから来る必要はない。
だが、もしカナリアが殺されでもしていたら。その想像が一度頭をよぎってしまうと、家で落ち着いてはいられなかったのだ。
天使は既に逃げ去ってしまった後らしい。
鐘の音を辿り、付近の人間に聞き込みながら駆けつけたのは下層の路地裏だった。例の隠れている天使の仕業らしいと彼は察する。
建物に挟まれて見通しの悪い一角は封鎖され、苦々しい顔で天使狩りたちがこれからの動きを話し合っていた。非番にもかかわらず現れたグレイシアスに、彼らは驚いた顔になる。その反応をおざなりに遮りつつ、彼は状況を教えてもらった。付近の住人が死体を見つけ、詰所の人間が見に来たところすぐ傍に天使の羽の欠片が落ちていたので、慌てて鐘を鳴らしたとのことだった。
今回の犠牲者が女だと聞いた瞬間、嫌な想像が膨らむ。
同僚たちに断り、地面で布をかけられている膨らみへと歩み寄る。
じくりと強くなる動悸。傍にかがみ込み、彼は一息に覆い布を捲った。
――――知らない女の顔。亜麻色の髪が地面を浸す血に濡れて黒く固まっている。そこにあったものが彼の思う娘の顏でなかったことに、グレイシアスは心中で密かに安堵する。
背後から名を呼ばれる。
彼は息をついて布を元に戻して立ち上がると、振り返った。
そこには見知った男の姿がある。少し前に職務に復帰したゴーシュは、お前、非番じゃなかったか、と呆れ顔で問いかけてきた。天使が気になって、と返すと、ほどほどにしとけよ、と肩を軽く叩いてくる。
大事な人を失くしたという僚友の素振りは、以前と変わらないものだ。
冷静に職務をこなし、時には飄々とした笑みで周囲に軽口を叩くこともある。傷を表に出さないその態度を、彼は強いと思う。
これから街狩りになるかもな。ここにいたら手伝わされるぞ。
嘆息混じりの言葉。今から街狩りなのかと眉をあげて問い返すと、ゴーシュは多分な、と頷いた。厄介そうに顰められた青年の顏を、篝火が照らし出して黒い影を揺らめかせる。
今は隊商も来てるからな、下層だからって放っておけないだろ。
訳を知ったような述懐に、グレイシアスは納得の声を漏らす。
上層、中層に比べ最も広く、多くの貧困層の暮らす下層では、官警である兵士たちの目の届かない場所が多い。治安の維持も積極的には行われず、だから天使狩りの巡回も上層や中層が優先され、あまり行われていないのが実情だ。
だが被害が増え続けており、外部の人間も訪れている今この時は、大規模な捜索が踏み切られてもおかしくない。
それに聞いただろ、例の噂、とゴーシュは続ける。
天使が話すという噂のことか、と返すと彼は頷いた。天使狩りの僚友は表情を消した顏で、もし本当ならなおさら生かしておけないだろ、と呟く。
グレイシアスは短く首肯する。
それから彼は、自分も街狩りを手伝うと口にした。いや、休んでおけよ、と驚きながらもまた呆れ顔になるゴーシュだが、青年は首を振った。
今ここで彼が動くことで、天使を狩ることができるかもしれないなら。
そうしない理由はない。捜索をするなら夜を徹してのものになるだろう。カナリアと大市には行けなくなるかもしれないが、彼女の安全には替えられない。むしろ今はそのために、天使狩りとして行動するべきだ。
物言わぬ骸を彼は見下ろす。
布を掛けられた人型の膨らみは、冷たい地面に蹲って沈黙するのみだ。
その中身が彼の思う娘になることは、絶対にあってはならない。
飲み下す決意が、グレイシアスの表情を厳しくさせる。天使狩りの召集の声があがると、彼はゴーシュと共にそちらへと向かう。
その後、明け方まで天使狩りたちによる人外の捜索が行われたが、成果が上がることはなく――――この夜、天使に殺されたのが下層の薬師であったことが知れると、グレイシアスは最早これ以上の猶予はないことを思い知らされたのだ。