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Black Coffee 前編

LittleAppleに登場した憬胡さんの視点です。


 俺は彼女より大人だ。

 そのプライドが、時々煩わしくなる。


 結局の所、俺はまだ子供だった。



 季節は12月。京華ちゃんは林檎ちゃんや正司郎君を連れて店に来るのが普通になっていた。

 いつもカウンターに座っていた京華ちゃん。

 今は奥のテーブルで三人楽しそうに話している。

 

 良かったと思う反面…。


「憬胡君どうかしたのかい?」

「マスター。いえ、何も」

 いつの間にか俺の背後に白髪白ひげを生やしたこの店のマスターがコーヒーカップを持って立っていた。


「うれしい反面、寂しいですね」

「えっ、なにが!」

 マスターはニッコリ笑うだけでカップを洗う。


 見抜かれてる…俺、そんなに京華ちゃんの事見てたかな。

 余計な事は考えるな。仕事に集中しよう。


「憬胡さん!」

「えっ」

 目の前のカウンターには京華ちゃんが座っていた。

「調子悪い?最近ぼーっとしてるし」

「大丈夫、なんでもないから」

 京華ちゃんが居る事に気づかないなんて…本当にヤバイな。


「…憬胡さん。私はそんなに頼りないか」

「そんなこと…」

「そりゃ、私にはわからないかもしれねーけど。私はいっつも聞いてもらうばっかりだし…」

「京華ちゃん?」

「隠されるくらいなら話してくれよ!」

 ああ、俺はそんなに嘘が下手になったのか。それとも京華ちゃんが鋭くなっのか。

 でも、こればっかりは話せない。

「ちょっとね最近、台本が煮詰まってるんだ」


 林檎ちゃん達に嫉妬してるなんて。

 口がさけても言えないよ。


「…憬胡さんのバカ!」

 そう言って京華ちゃんは逃げるように店を勢いよく出て行った。


「京華ちゃん!」


 俺は追いかけようとした。けれど勢いに任せる前に冷静な言葉が出てきた。

 追いかけてなんて言う。

 嘘ついてごめん。実は京華ちゃんを取られそうで怖かった。とでも言うつもりか。


 俺は京華ちゃんを追いかけられなかった。


「憬胡君もまだ青いね」

 俺の横にマスターが立っていた。

「そんなに嘘下手ですか」

「嘘が上手くても京華ちゃんは見抜くよ。君達は言わない事は多いけど、嘘をつく事はなかったからね」

「それは京華ちゃんが素直だから」

「京華ちゃんだって、いつでも子供のままじゃないんだ。思いきって追いかければ良かったのに」

 

 ああ、結局。


「俺がまだ子供なんです」


 俺が格好つけたかっただけなんだ。

 京華ちゃんが憧れた俺を俺が守りたかった。


 カウンターに残された飲みかけのブラックコーヒー。


 もう、子供の頃の彼女じゃない。


「マスター、俺って犯罪者ですかね」





「愛に年齢は関係ないよ」





 いつから彼女に惹かれていたんだろう。


 真っ黒なブラックコーヒー。


 いつからだろう。京華ちゃんがココアからコーヒーを飲むようになったのは。

 

 一番最初は児童劇団の事務所。

 外で震える京華ちゃんを見つけて俺は声をかけた。

「寒くない?」

「さっ、寒い…です」

 彼女を事務所に招き入れ、小さく震える京華ちゃんにホットココアを淹れてあげた。

 夏はアイスココアで、ココアを飲んで帰るのが日課だった。


 中学生になって劇団を辞めた京華ちゃんはこの喫茶店に来るようになってしばらくはココアだった。

 そうだ。俺がコーヒーを飲んでるのを見て。


「私もコーヒー」


 でも、最初は砂糖とミルクたっぷりのカフェオレ。

 しかも、俺が作った甘い特性カフェオレ。


「甘っ」

 そう言いながら京華ちゃんは全部飲み干した。


 始めは大人への背伸びだった。


 段々自分で砂糖とミルクを入れるようになって…。

 高校生になる頃にはもう、ブラックコーヒーを飲んでいた。 


 強がる口調、真剣で真っ直ぐな目。

 あどけなかった笑顔がいつの間にか大人の表情をするようになっていた。

 妹のように思っていた京華ちゃん。そう思いたかった。


 真っ黒なブラックコーヒー。


 俺よりも京華ちゃんの方が大人だ。


 強く、真っ直ぐ見上げる姿勢がとても好きだ。自分もそうなりたいといつも思ってた。

 支えてるつもりが支えられてた訳だ。


 俺…気づくの遅っ。

 こんなに近くにいて何を見てきたんだか。



「ぼやぼやしてると奪われますよ」

「まっマスター!!」



次は京華ちゃんの視点で。

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