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Loved Apple 後編

 寝て起きて、朝を迎える。


 やはり人間はそこまで単純ではなかった。


 俺はいつもの俺に戻ってなかった。


 しかし落ち込んでいようが、呆れていようがそれでも学校に行く。


 それが、学生の宿命。


 


  教室に着く、一歩手前。俺は、また渡り廊下まで拉致られた。


 今回は特に驚かない。目の前に林檎が居ようと。

 

「今度はなんの相談でしょう、お姫様」


 いつもは使わない言葉が出てくる。当たり前か、俺はいつもの俺じゃない。


「司郎ありがとう」


 林檎はスッキリした顔をしていた。


 なぜ俺が感謝される。それはつまり…そうゆう事なのですかねぇ。


 ……は〜ぁ。


「司郎に相談のってもらって、ちゃんと素直な気持ちが言えて…」


 つまり、私はハッピーラッピーでそれは俺のおかげとか言われちゃう訳ですか俺。


 やっぱり本人の口から聞くのは相当なダメージですかねぇ。てか今更。むしろ自業自得か。


「それで私、ちゃんと…」


 素敵な先輩とハッピースクールライフ。うん、青春だねぇ。


 


 


「断る事ができました!」


 


 


「えっ」


 


 ちょっと待て!今日はいつもの俺じゃない。もしかして今のは俺が作り出した都合のいい妄想なのか!


「告白された時、先輩すっごくいい人だったから、どうやって断ったらいいか分かんなかったの」


 へ〜、ふ〜ん、そう。


「それで司郎に言われた通り、素直に言葉にしたら『困らせちゃってごめんね』って笑ってくれて。先輩のこと傷つけなくて本当によかった」


 つまり、最初から付き合うつもり無かったと。


「ありがとう、司郎」


 


 ナンダヨソレ!!


 


 その時、都合良く鐘が鳴る。


 …なんかハメられた気分。


「司郎、行こう」


「…ああ」


 


 授業を受けるにつれ、頭が整理され、段々と冷静さを取り戻していく。


 その頭でわかったことはだだ一つ。


 


 絶対京華に笑われる。



 屋上か、図書館か、…教室だけはやめて欲しいなぁ。


 しかし、特に京華に呼び出される雰囲気もなく、


 林檎の前でゲラゲラ笑われることもなく、


 時間はあっという間に過ぎた。


 


 帰り支度をしていると、俺の前に京華が立った。後ろには林檎がいる。


「司郎、暇だな」


 上から目線、加えて言い切り、決めつけな言い方。


 拒否権は無いと目が言っている。


 幸い今日は予定がない。


「暇だよ」


「じゃあ、ついて来い」


 行き先を知らされぬまま俺は京華と林檎の後に付いて行った。


 着いた場所はどこにでもあるような喫茶店。


 店に入ると京華は慣れた様子で席を探し、奥の四人がけの円卓に行けと命令する。


「林檎はココアで司郎はブラック?」


「ああ」


 そういうと京華は荷物を椅子に降ろし、カウンターへ行く。


 注文でもしに行ったのだろう。京華はすぐに戻ってきた。


 林檎がこの喫茶店の話をし出した。


 ここは京華と林檎の知り合いの店らしい。楽しそうに話をする林檎に京華は調子を合わせて笑う。


 


 それがまた恐ろしかった。


 なんで本題を切り出さないんですか京華さん! 


 しばらくするとコーヒーが運ばれ、それぞれ一口つける。


 そして突然、京華が口を開く。


「さて司郎君。私が君をここに呼んだ理由がわかるかい?」


 わざとらしい京華の口調。あきらかに楽しんでる。


「なにか話があるんだろ」


 クスリと京華が笑う。


「林檎には言ったけど、二人が付き合ってるって噂流したから」


 


 ……What?  なに?


 


「二人って…」


「もちろん司郎と林檎」


 


 ……ピーン!


 


「なんで!!」


 なにもひらめきません!


 意味わかんねぇ。つーか林檎はそれでいいのか!


「まぁまぁ落ち着けって。これは林檎のための悪い男が寄ってこない対策。文化祭で知名度上がったし必要でしょ」


 なんだ、俺は噛ませ犬みたいなもんですか。


「それに林檎も断る時、彼氏いるからのほうが断りやすいでしょ」


「それはその方がいいんだけど。司郎迷惑なんじゃない?」


「迷惑じゃないから、気にしなくていいけど」


「もし好きな人ができたら別れたって噂流せばいいし。たかが噂でしょ。本当に付き合う訳じゃないんだから気楽に考えてよ」


 ははははは……。あきらかに仕掛けてる。


 これなら教室で笑われた方がマシだった。


 


「私もうそろそろ帰らないと」


 林檎は小銭を置いて席を立つ。


 もうそんな時間か。外はもう薄暗くなっていた。


「送るよ」


 言った後で後悔した。


 横を見ると京華がニヤニヤ笑っている。


 だが、言ったからには引き返せない。俺も小銭を置いて席を立つ。


「私はもう少しここにいるから。ねぇ林檎。そこの雑誌取って」


「どの雑誌?」


「林檎が面白いと思う奴」


 林檎は俺達から離れラックの前で腕を組む。


「嘘もつき続ければ真実になるって言うよね」


「半殺し状態にしやがって」


「生殺しよりいいじゃん♪」


 


 今更だが思い知る。


 


 


 京華には勝てない。


 


「はい、京華。司郎帰ろう」


「ああ」


 林檎が先を歩く。俺も林檎に続くように歩き出す。


 


 自分でもそんな事をなんで言ったのかよくわからない。


 俺の声はとても小さかった。


 京華の顔を見て言った訳じゃないから聞こえてたかどうかもわからない。


 


 


「ありがとう」


 


 


 カランカランとドアの鐘が鳴り、俺達は出ていった。


 



 


「どういたしまして」


 


 


 俺は知らない。そう言って京華がクスリと笑ったことを。



えっと、これで「林檎ちゃん告白されるの巻き」は終わりです。

ん?そんなタイトルじゃなかったって??

「Loved Apple」直訳すると大好きなリンゴ。Lovedには愛されているという意味があるので私的には「愛される林檎」という意味です。

そんな訳で林檎ちゃんが告白され、司郎君にはしっかり翻弄されてもらいました。

司郎君のヘタレっぷりが書けて満足です。


さて、次は「LittleApple」に登場した憬胡からの視点で書きたいと思います。

それでは。

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