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Loved Apple 前編

林檎アレルギーのその後。今回は司郎君の視点です。


 十一月の初め、秋が遠のき始めた頃。


 俺は昼休みに突然屋上に呼び出された。


 話なら弁当食べてる時に言えばいいのに、とさっきまで教室で一緒に弁当を食べていたことを思い出す。


 目の前で「司郎、屋上に来い」と言い捨てて教室を去った京華。


 その場にいた林檎と俺は訳がわからず首を捻った。


「とりあえず行った方がいいんじゃない」と林檎に押され弁当を片付け、教室を出て屋上に向かっている訳だが。


 この寒い中屋上の呼び出すあいつの神経がわからないと不服に思いながらも、冷える階段を大人しく上っている自分が情けない。


 屋上のドアを開けると当然のように京華がいた。


 今更、普段かかってるはずの鍵がどうして開いている、なんて不思議に思わない。


 京華が屋上に呼び出したからには、屋上は開いているんだ。


 外は日差しのおかげで、思っていたよりは寒くない。


「遅い!」


 京華らしい一言を俺は無視した。


「話ってなんだよ」


 屋上の呼び出すほど深刻な話を予想していた。


 しかし京華の口調は思いの外、軽かった。


「司郎さぁ、何してんの?」


「はぁ?」


 一体なんのことですか。


「わかりきった事だけど、一応確認しておく。お前、林檎のこと好きだよな」


 もちろん京華が言ってるのは食べ物のリンゴじゃない。


 それで俺も今さら「なんで知ってるんだ」とかいうリアクションもしない。


「好きだよ。友達としてじゃない」


 まぁ、バレてるだろうとは思っていたけど。


 それで屋上か。


 教室には林檎がいるし、廊下や他の所では誰が聞いてるかわからない。


 …つまり、京華なりの配慮ということだろう。


「じゃあ何でなにも行動しない訳」


 そう。俺はこれといって林檎にアプローチしていない。


 それより、むしろ、かなり「友達」として過ごしている。


 他の男子が敵意を向けない程自然に。俺的にはすごく満足しているのに、京華はそれが気に喰わないらしい。


「まぁ、告白しても振られるってわかるから」


「はぁ?なに言ってんの。そんなもんわかる訳ねーだろ」


 京華も林檎並みに真っ直ぐな所あるしなぁ。


 濁しても面倒な事になるので正直に理由を述べる。


「もし俺が林檎に告白したとする。林檎は真面目だから真剣に二、三日くらい考えるだろ。その結果「今まで通り友達でいよう」って振られるけど。林檎は意識するから前のように友達にも戻れない」


「…まぁ、そうなる確率が高いか」


 林檎の性格と反応からして確率ではなく絶対なのだが、それは反感をかうので心にとめておく。


「わかったか?俺が友達でいる理由」


「取りあえず、納得はできた」と京華は口にするが、実際は素直に納得できていないだろうと俺は推測する。


 だって京華もそれなりに真っ直ぐだから。


 あと五分で午後の授業が始まる。


「用が済んだなら教室戻るな」


 俺は京華に背を向けた。京華は俺の背中に言い放った。


 


「でも司郎。そんな事言ってたら誰かに取られても文句言えないよ」


 


 その言葉に足を止める訳でもなく、そのまま屋上を後にした。


 

 日常とは何気なく過ぎていくことを言うのだなと、俺は放課後の図書館でひとり黄昏れていた。 


 特になにかをしに来た訳じゃない。


 ただ静かな所に居たかった。


 それがなぜ図書館だったのか、どうしてその時間だったのか。


 俺はこの後、己の運命というものを知る。


 


 陽当たりのいい窓際へと移動する。


 特に理由はない。


 身体が自然と動いた、そんな感じだ。


 


 ふと見上げた窓の外。


 目の前にある黄色いイチョウが一枚、一枚と散ってゆく。


 そのイチョウを目が自然と追いかけた。


 


 見なければよかった。


 舞うイチョウの先に林檎と知らない男子生徒が見えた。


 そこは裏門の近くで人通りも少ない。


 よく見ると二人の間に少し距離がある。


 上から見てもわかるほどガチガチに緊張した林檎。


 


 …まぁ、つまり……そういうことだ。


 


 閉館の声がかかるまで、俺はその場に突っ立ていた。


 


 帰り道、ふと京華の言葉が蘇る。


「でも司郎。そんな事言ってたら誰かに取られても文句言えないよ」


 本当だよなぁ。いつもより秋風が染みた。


 


 翌日、落ち込んだりとかそれなりに影響が出るだろうと思っていた俺は意外にもいつもの俺だった。


 特に吹っ切れた訳でもない、俺は何も変えようとしてないし、むしろ変わっていない。


 なのに俺はいつもの俺だった。


 寝て起きたらいつも通り。


 人間は思っているより単純なのかもしれない。俺はいつものように学校へ行った。


 教室に着いて早々、俺は拉致された。人気のない渡り廊下に。


 


 え〜と、これはどういうことでしょう。


 目の前に顔を真っ赤にした女の子がいます。


 


 俺は目の前の現実がすんなりと受け入れられなかった。


 


 


 なんで、なんでお前なんだ… 林檎!!


 


 予想外過ぎることに俺の頭はついていけなかった。


 



「どうしたんだ林檎?」


 その一言がすんなりと出たのは奇跡に近かった。


 林檎の様子はあからさまにおかしい、顔は真っ赤だし、朝から俺を拉致するし。


 林檎はおずおずと話しにくそうに話を切り出した。


「えっと…司郎に相談っていうか…話を聞いて欲しくて」


 俺に相談…?なんだろう。俺は「わかった」と頷いた。


「実は昨日、告白されたんだけど…」


 イチョウの下、距離のある林檎ともう一人。


 


 


「私、どうしたらいい?」


 


 


 


 


 


 …なぜ俺に聞く。


 


「ちょっと待った。なんでその話を俺に?普通京華だろ」


「だって、京華に話したら絶対に笑うもん」


 それで俺…。


 つーか俺でいいのか林檎。


 てか突っ込む所そこか俺。


 と自分に突っ込みを入れてみる。


 もちろん口には出さず。


 


 その時、すごくいいタイミングだった。俺はその場で神に感謝しそううなったくらいだ。


 


 校舎中に鐘の音が渡った。


 


「その話は飯の時か放課後な」


「うん、そうだね」


 チャイムのおかげで少なからず心構えというか、覚悟する時間ができた。昼休みは京華と飯を食べるので話は自動的に放課後になった。

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