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LittleApple 前編

今回は京華ちゃんの過去編で、京華ちゃんの視点です。

 文化祭も終わり、秋も深まる頃。私達は当然のように親しくなっていた。


 昼休み私の隣に林檎、向かい側に正司郎が座り弁当を広げる。


 正司郎とは役員の打ち合わせや話し合いも兼ねて一緒に弁当を食べていたが、そこにごく自然に林檎が加わったのだ。


 林檎は以前から密かに「美人」と注目されていたが、文化祭の活躍により、今ではすっかり有名になっていた。


 しかし、本人はそんな状況とはつゆ知らず。


 以前と変わりなく、のほほんと弁当を食べている。


 気づいたとしても、のほほんとしてる所は変わらないだろうけど。


 そんな林檎が可愛くて、ついちょっかいをかけたくなる。


「林檎がリンゴ喰ってる」


「共食いじゃないもん!」


「…自分で言うなよ」


 呆れて様子で、でも的確に突っ込む正司郎を見て私は思わず笑った。


 だが林檎は自分が笑われたと思ったらしく。


「京華の意地悪」と言ってむくれてしまう。


  


 口にも顔にも態度にも決して出さないが、どんな立場になっても変わらない林檎が、私は大好きだ。


 


 あの時からずっと林檎に憧れていた。


 



 私は小学四年生で母親に無理矢理児童劇団に入れさせられた。


 私の入った劇団は割と有名な劇団に所属しており、主に育成を目的としていた。


 名前が有名だったので入ってくる者は絶えなかったが、練習は厳しく辞める者も少なくはなかった。


 そして、組織には必ずヒエラルキーが存在する。

 

 その劇団も例外ではなかった。


 主役がヒエラルキーのトップ、次に重要人物、一番下は脇役。


 公演が無い時は、それまで演じてきた役柄が経験値として計算される。つまり一度、主役を演じた子供はその後もそれなりの地位を約束されている。

 

 自然とグループができる。主人公とその取り巻き。脇役は脇役同士。


 幸い、イジメは無かった。否、そんな暇なんてなかった。

 

 けれど、明らかに目線が口調が違う。


 自分は貴族にでもなったかのような振る舞い。


 それでも誰も文句を言わなかった。言う前に辞めてしまうからだ。


 私はそんな空間が大嫌いだった。


 


「先生が来たぞ」


 白髪混じりの眼鏡をかけた中年オヤジ。私はこの男が嫌いだった。


「みんなチャンスは平等だぞ」


  演出家の雨宮 礼一(あめみや れいいち)「平等」が口癖のこの男を私はどうしても好きになれなかった。


 


 そんな大嫌いな環境で二年過ごした私はとてもひねくれていた。


 あと一年で解放される。


 小学六年生になった私はいつもそう言い聞かせていた。


 ここの劇団は規模が大きく、小学生の部(四年生から)と中学生の部で分かれている。


 小学六年生までが母親との約束だったので、あと一年我慢すれば私は自由になれる。


 私は耐えることに徹した。


 しかし、こんな劇団でも私の楽しみがあった。


 練習が終わり、迎えが来るのを待つ間。私は事務室に向かう。


「お疲れさま、京華ちゃん」


 事務室に招き入れてくれるのは若いお兄さん。


 私は、けいちゃんと呼んでいる。年齢は二十歳。私の一番上の兄と二つ違い。


 けいちゃんと初めて会ったのは小学四年の秋。


 外で迎えを待っていたら「寒いでしょう」と言って事務室に入れてココアを飲ませてくれた。


 それ以来、練習が終わってはここに来るようになった。


「はい、どうぞ」


 私はソファーに座り、けいちゃんが入れてくれたココアを受け取る。


「ありがとう」


 今は木枯らしが吹く秋なのでホットココア。


 けいちゃんは私に笑いかけ、自分のデスクのパソコンに向かう。


 いつもこんな感じだった。


 私が聞いてと言わない限り会話はしなし、けいちゃんはあまり自分の話をしない。


 でも私はこの静かな空間が好きだった。


「京華ちゃん」


 しかし、その日は違った。


「ここの劇団知ってる?」


 けいちゃんは一枚のパンフレットを私に渡した。


 そこは前から噂になっていた劇団だった。小さな劇団だけどすごい子がいると。


「うん、知ってるよ。噂になってるし」


「実はチケットがあるんだ。友達と行かない?」


「……友達いないし」


 劇に興味のある友達がいなかった。劇団内なんてもっての他、弱肉強食だから友達なんていない。


 でもすごく見たかった。


「…そうだ!けいちゃん一緒に行こう」


「僕はいいけど…」


「やった」


 喜んでいる所に事務室のドアが開いた。


「京華?」


「いー兄」


 迎えにきた制服姿の一番上の兄がけいちゃんにペコリと頭を下げて近づいてきた。


「ねぇ、いー兄。今度けいちゃんとコレ見に行くの」


 私はいー兄にパンフレットを渡す。


「へ〜、そうなのか。他に誰か行くのか?」


「ううん、私とけいちゃんの二人」


「…そう。俺も行きたいな。憬胡(けいご)さんチケットありますか?」


「まだあるけど…いいのかい?受験生なのに」


「少しくらい息抜きしないと」


 私は、いー兄が見に行くと聞いて内心驚いた。


 劇に興味あるような様子はいままで無かったからだ。


 帰り道、その事を聞くといー兄はただ笑って「何事も用心しておかないとね」と訳わからないことを言っただけだった。



いー兄は妹ラブです。

どんな野郎でも妹と二人きりにはさせません。

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