初恋
この作品は第19回坊っちゃん文学賞応募作品です。
少女は最近、急にきれいになった。すらりとした体つき、透き通るような白い肌。花の蕾が露を含んだような美しさであった。
ある日曜日、少女は高校の先輩に誘われて、一緒に遊園地に行った。初めてのデートだった。彼は秀才で、スポーツもできて、みんなの憧れの的だった。
遊園地で二人は楽しく遊び回った。その遊園地には前にも来たことがあったが、デートで来るとこんなに楽しいのかと思った。遊び疲れて二人ベンチに腰かけてジュースを飲んだ。少女は思い切って聞いてみた。
「先輩、どうして私を誘ってくれたんですか。」
「どうしてって、君、俺のタイプなんだよ。」
「ふーん。」少女はそう言って、自分がどういうタイプなのか考えてみた。背は高い方、痩せてて、色が白くて・・・とそこまで考えて、ふと先輩の顔を見ると、どこかあらぬ方を見ている。少女もその方を見てみると、同じぐらいの年頃の女の子たちが数人、おしゃべりしながらアイスクリームを食べている。その内の一人が際立って美しい。すらりとした体つき、透き通るような白い肌。少女ははっと気がついた。<わたしと同じタイプだ。>
少女は先輩の顔を見た。何の表情もない。ただ黙って女の子たちを見ている。
やがて女の子たちがどこかへ行ってしまった。先輩は「さあ、もう帰ろうか。」と言った。二人は遊園地を出た。
その夜、少女はベッドに寝転んでぼんやり考え事をしていた。外では野良猫がオワーと妙な鳴き声をたてている。かと思うと急に喧嘩が始まり、ギャー、フーという声がする。いつもならうるさいとしか思わないが、今日は何か得体の知れない気味悪さを感じる。少女は思った。
<普段はかわいい猫だって発情すればあんな嫌な声を出す。喧嘩までする。人間だって同じことだ。せいぜい表に出さないようにしているだけなんだ。>
それから何週間か過ぎた。先輩からはもう声はかからなかった。
ある日曜日、少女は街に買い物に出かけた。すると先輩が誰かと手を組んで歩いているのを見た。あの女の子だ。少女は、ぞっとして、とっさに目を伏せて通り過ぎた。何か汚いものを見たような気がした。少女は買い物を途中やめにして、家に逃げ帰った。
家には誰もいない。少女は家族に顔を合わさずに済んでほっとした。少女は自分の部屋に入って、ベッドの上に寝転んだ。どうしてもあの二人の姿が目に浮かぶ。
<あの二人は腕を組んで歩いていた。それだけだ。珍しくもない。どこにでもある光景。それを自分はなんで汚いなんて感じるんだろう。私はやきもちを焼いてるんだろうか。でも先輩と私は一度遊園地に行っただけで、彼氏と言えるほどの仲じゃない。分らない。分からないけど、苦しい。なぜこんなに苦しいんだろう。
これからも他の男の子が私をデートに誘ってくれるかも知れない。でもそれは私がその子の好みのタイプだからだ。だから他にもっといい子がいれば、そっちへ行ってしまうに違いない。行かなかったとしてもいつ行くか分からない。行ってしまえば私に何ができるだろう。あの猫のように泣きわめくか、でなければそれをじっと我慢するか・・・>
少女はこの日を境にして段々とものを言わなくなった。笑うことも稀になった。肌からは艶が消え、目からは光が失しなわれた。
それでも十分美しかったが、花の蕾が露を含んだようなあの美しさは、二度と戻ってこなかった。




