放たれた子どもたち
街中の雑踏、人々が行き来している。
その中に身なりは良いが肩をいからして歩く中年男性。
突如、頭を抱えて叫びだす。
「痛い!うわあぁ・・・。」
操り人形の糸が切れたかのように倒れる中年男性。
うつぶせに倒れ、鼻から体液が吹き出している。
ざわつく周囲。近くにいた女性が中年男性の手首を触る。
「救急車呼んで下さい!私は看護師です!」
側にいた若い男性がスマホで通報する。
「千佐子ちゃん、脈は?」
看護師の同僚が声をかける。千佐子と呼ばれた女性は首を振る。残念そうに。
「突然死にしては早すぎるわ、身体が冷たくなるのが」
千佐子はうつぶせで、死んでると思われる中年男性の背中を触っている。同僚も触る。
「これ・・・、安置所クラスじゃないの、何故?」
救急車のサイレンが段々近づいてくる。
周囲は目を反らして去っていく。都会の心。
反対側車線に停車中だった車、黒いミニバンが走り出す。
後部座席には手錠と拘束服を身にまとい顔にも周囲が見えないような布を被った人物が座っている、いや、緊縛されている。
隣に座る人生に疲れたような中年男が禁煙パイポをくわえて呟く。
「実験は成功か。まずまずだな。見えたかい?奴の表情が?」
緊縛された人物がくぐもった声で言う、
「表情は見えない。命のともし火を感じた。次は?」
「まぁ焦んなくていい、時間はある」
パイポ男は吐き出すように言いきる。
車は永田町に向かっているようだ。