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少年は向かい風を進む23

 ロアはクルステラから視線を外す。そのままあらぬ方向を見つめ、彼方にあるであろう己の城に思いを飛ばす。


「私が君に協力を求める意味は、これで分かったろう? 今の魔族領域では過去に例を見ない何かが起きている。これは人類にとっても、君にとっても危惧すべき状況だ」

「人は魔族を滅ぼす為、私は人を滅ぼす為、それで手を組めって?」


 机から腰を上げ、言葉を吐き捨てながら離れていく。背中だけで示されるその態度は、到底有り得ないという分断と憤慨を思わせた。


「それは最終目標だ。その過程で、私たちは有意義に協力できる」


 ロアが拒絶するのも当然だ。しかし、クルステラはあくまで利害が重なる間だけはここでの諍いを控えたいと提案してきた。

 現状、ロアもまともに戦える状態にない。それこそここで拒んでクルステラに王国へ売られてしまえばほとんど詰みとなるだろう。尤も、ただで死んでやる気はないが。

 なんにせよ、気に入らなくとも悪い選択ではない。


「仮に色々上手くいったとして、私はいずれお前たちに牙を剥く。誰に手を貸すかは分かってるんでしょうね?」

「もちろん! その時は、また討つさ」


 大仰な理想はなく、歩みの先の平和は簡単には訪れない。

 どうせお互い様だ。ならば、最初からはっきりそうだと断言された方が分かりやすくていい。


「……上等」


 それだけ残して魔王の身体はかき消えた。光の粒がほどけ、空気に散る。話は終わったという事だろう。


「クルステラさーん! ちょっといいですかー!?」


 拡張された空間の方からリフルが小走りに駆け寄ってくる。

 クルステラは一息大きく吐き出し、魔王と対峙していた緊張を解いた。向かってくる彼は教本をいくつか抱えている。軽く手を振ってこちらにくるようにと応じた。


「……あれ、魔王様出てきてました?」

「ああ、ちょっと世間話をね?」


 既に実体化は解いたが、契約の縁で名残りが分かるらしい。

 今の彼は知らなくてもよいことだ。クルステラは適当に濁しながらリフルの用を問うた。そうして魔術に関してのやり取りをしていると、部屋に彼が訪れる。


「おや、入りたまえ!」

「失礼します。今後の遺跡調査についてお聞きしたいことが─────、チッ」


 はいって来るや否や、リフルがクルステラに師事している光景を見て露骨に愛想を悪くしたのはグレイヴェートだ。真っ直ぐに、明確に何らかの敵意を持った目で睨まれて、リフルも少したじろいでしまう。


「その話ならちょうどいい報告書があるんだ! ちょちょいとくすねてきたから厳重にしまってあってね! 急いで取ってくるけど手間がかかるなあ!」


 出来れば嘘であってほしい部分もあったが、クルステラはわざとらしいことを告げながら書棚の方へさっさとはけていく。明らかに余計な気の回し方だ。

 あの人はなんなんだ、そんなつもりで掃いた溜息の調子が二人揃ってしまい、お互いに目を向ける。


「……お前、わりかし無事なんだな」

「あ、えっと、はい。おかげさまで……」


 結構強い言葉を浴びせたあげく、そういう場だったとはいえ手ずからボロボロにした相手だ。それも結局負けているのもあって、グレイヴェートとしても変な気まずさがある。


「そういえば、名前。なんていったか」

「え? えっと、リフルです。リフル・シーラセネク」

「そうか、なら、これからそう呼ぶ」


 あれだけぶつけ合った視線を交わすのが、今は妙にもどかしい。考えないようにしようとするせいで、余計に意識が回る。そんな葛藤が理由かは分からないが、グレイヴェートはリフルを通り過ぎ、背中越しに話しかける。


「あ、じゃあ僕も……、"グレイヴェートさん"?」

「敬称はよせ! ……制限があったとはいえ、俺は俺の決めたことで負けたんだ。止めないなら侮辱と捉えるぞ!」


 自分に筋を通そうとするその声は凛々しい。

 どうあれ負けは負けで、認めさせられたのはグレイヴェートの方だ。ならば、それ相応の変化というものが必要なのだろう。


「じゃ、じゃあグレイ!」

「何故そうなる!?」


 流石にこれは思わず振り向いた。

 実力故に日頃から周囲と距離を置かれ、家族からは格式を求められる。それが不快に感じたことはないが、そんな環境で彼を"グレイ"と愛称で呼ぶ者はクルステラくらいだ。

 要するに、呼ばれ慣れていない。


「あれ、ダメだった……?」

「良いわけがないだろう! 俺はお前を王室特務兵(どうりょう)としては認めてやるが! そこまで気を許したつもりはない!」


 声を荒げるグレイヴェートにてんやわんやのリフル。そんな騒ぎを遠巻きに眺めながら、クルステラは何か懐かしいものを見るような眼をしていた。


「先生! やはり彼に先生が時間を割くのは手間というものです! 学院にでも放り込んでやればいい!」

「なっ、何言ってるのグレイヴェート!」


 揉める二人を前に、相変わらずクルステラは他人事のように笑っている。そんな態度をとるものだから、より真面目に聞かせねばと二人の勢いも過熱していってしまうのだ。


「聞いてますか先生!?」

「ちょ、クルステラさん!」

読んでいただきあざました!!!!!

頑張ります。

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