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少年は向かい風を進む6

 リフルたちがそんなやり取りをしている中に、城の衛兵が一人近づいてきた。どうやら魔獣の件の報告に関して、フラッガに用があるらしい。


「申し訳ありません。予定がいくらか繰り上がっておりまして、お早めにこちらまで来ていただきたいのですが」

「そうか、わかった」


 了承の言葉を返してから、フラッガは少しリフルの方へ向いて言葉を続ける。


「彼に案内をつけられないだろうか。城内にまだ慣れていないんだ」

「あいにくですが、今は人手が空いているかどうか……」


 魔獣騒ぎの影響は王宮にも出ているようだ。異常事態に各所が動き回っている慌ただしさは末端の兵士にまで及んでおり、人員の確保は難しいらしい。

 こればかりは仕方ないとフラッガも状況を呑み込んだのか、すぐに行くと衛兵に伝えて、リフルに向き直った。


「悪いが、君を案内できる人間がいないらしい。魔術師殿の執務室は分かるか?」

「いや、どうでしょう……。もしかしたら城内の景色で思い出すかもしれませんけど……」

「そうか、そうだな……」


 フラッガ破城を見上げ、いくつかそびえる尖塔の一つを指す。


「参考になるか分からんが、あの辺りだ」

「なるほど……、無茶ですね……」


 外側からあの辺りと言われても、流石にわかるわけはない。リフルも思わず疑問に満ちた返答を返してしまった。変なことを言った自覚があるのか、フラッガも調子を取り戻すように咳払いをする。


「……ひとまず上階まで行けば、そこの衛兵が案内してくれるかもしれん。上れ」

「ええと……、止められたりはしないでしょうか?」

「本来なら難しいところだが……、あの方に限ってはそういう大雑把な来客が多いんだ。慣れた衛兵に見つかることを祈るといい」

「やっぱり無茶ですね……」


 とはいえ、悩んでいても状況は変わらないし、なにより少し離れたところの衛兵が若干ピりついた空気を放ちながらフラッガを待っている。

 元はと言えば無理に同行を申し出たのは自分だと思い直し、リフルは慣れぬ城内での単独行動に覚悟を決める。


「僕、頑張ってみます……!」

「よし。最悪な事態になりかけたら私の名前を出せ。少なくとも、罪人として捕らえられることはない」

「……頑張ります!」


 最後の最後まで不穏な助言しかもらえなかったが、愚痴をこぼしても仕方がない。

 ようやく踏み出した一歩なのだ。これくらいむしろ良い苦労になるだろうと考えるようにして、リフルはこれから踏み込む雄々しき城を見上げた。


 *****


「通せんな」

「ですよね」


 城内高層の一角で、リフルは衛兵に止められていた。

 リフルの当初の想像に反して、ここまでは驚くほど順調だった。初めこそおっかなびっくりで歩き回っていたものの、兵士から何かを怪しまれることはない。堂々としていればそれでやり過ごせたし、たまに遭遇する用心深そうな衛兵も胸元の銀色を認めるとすぐに警戒を解いた。

 しかし、上るにつれて兵の気配も変わってくる。一般人や不届き者を追い返すための警備から、徐々に「相応しい者」だけを通すための警備へと変わっているのを、リフルも何となく空気の違いで感じていた。そしてこの階に来ていよいよ、自分が止められる側になったかもしれないということを、衛兵の視線の鋭さで悟ったのだ。


「そもそもここまで来ること自体問題になりかねんだろう、君」

「えっ!? あっ、いや、そうですよね……!」


 リフルを見下ろす衛兵の彼は、まだ若いように見える。幾度もすれ違ったフルプレートの鎧をやはりきちんと着用し、自らの責任に従事せんと強張った顔つきを向けている。


「一応、その……、全く要件が無いというわけでもないんですが……」

「『虹の魔術師』に面会人が来る、という話なら、私は聞いていないぞ」


 フラッガは「あの人の無茶ぶりに慣れている衛兵」と言っていた。そういう点では、若さと責任感を備える熱意にあふれた彼は、その真逆なのだろう。


「いやでも、本当に呼ばれてるんですって!」

「ならこの階の人間には通達があってもよいはずだ。そうでなくても、今あの方は特に忙しい。人に会う余裕ができるとも思えんが」


 言っていることが正しいのはほとんど衛兵の方だ。ただでさえ城内での勝手が分からないリフルではこれ以上返す言葉を見つけられない。

 もはや観念したと判断したのか、衛兵が腕をつかみ引っ張って連れて行こうとする。流石に本職の軍人の腕力では、リフルに抵抗できる余裕はなかった。


「ちょ、ちょっと待ってくださいって! 本当なんですってば!」

「信じるに値しない理由ならさっき説明したはずだ。抵抗しすぎるとこの後が不利だぞ」

「えっ、僕どうなるんですか!?」

「まさか説教くらうだけで解放されるとでも思っているか?」


 理由も規定もよく分からないが、なにやら大事にされてしまいそうなことだけははっきり理解できた。これは流石にまずいと感じたリフルは、フラッガから教わっていたことを実践する。


「ぼ、僕にそう伝えたのはフラッガ・グラディウスさんです!」


 そう声を上げた瞬間、強引に引っ張る衛兵の腕が力を緩めた。

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