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目覚めの炎 19

「あの場所で、君は君のご両親と離れて過ごすことはできない」


 だからこそ、最も辛いであろう現実を突きつける。

 王都へ出る、ならば必然、彼は家系にまつわる様々な因縁や軋轢に身を晒すことになる。それはリフルが今まで遠ざけてきたことであり、フラッガが彼を守るつもりで隔離してきたものでもあった。

 シーラセネクの忘れ形見。対魔戦争に大きく貢献した二人の血を受けながら、その才覚の無さ故に生き残れてしまった跡継ぎ。その名はどうあっても、王宮(あのばしょ)でリフルを苦しめることになるだろう。


「両親のことについて向き合おうとするのは良いことだと思う。だが、知ると辛いことも、きっと多いぞ」

「……それは、はい」


 そのことは誰より、リフル自身も恐れていた。思い出の確かでない両親と、彼らが生前紡いだであろう数多の縁、恩義、怨恨。それらのほとんど一切を知らぬままで、そういうことが当たり前に飛び交うような場所に飛び込むのだ。


「分かってるつもりで、分かってないかもしれないですけど」


 だが、今まで避けてきた分の負債を想像すれば、それくらいの困難がなければ釣り合わないだろう。何より、そうまでしてでも近づきたいと、初めて感じられているのだから。


「色々ひっくるめた全部を確かめるためにも、今は知りたいんです」


 決意は固い。フラッガにも、止める理由はもうなかった。


「分かった。君も連れていくことにしよう」

「……っ、はい!」


 そう言って、とりあえず今は体を休めろと最後に伝えてから、フラッガは部屋を去っていった。

 言われた通りベッドに身を横たえながら、自身の内に新たな旅路への興奮と不安がぐるぐるとうねっているのを感じる。そうして幼子のように想像に夢中になっていると、部屋の机の方からあの声が響いた。


『アンタ、ほんとに王都までいくわけ?』

「─────! あ、えっと、魔王様!」


 飛び起きて机の方を見やると、やはりあの本がそこに置かれている。そういえば今の自分には魔王との切れぬ縁があるという事を失念していたとリフルは焦る。

 王都ともなれば軍事や政、人間が共同体を運営するための様々な情報と、魔族と戦う為の力が結集する。そんな場所に魔族を、まして敵方の大将格を連れ込むなど、問題にならぬはずがない。


「いや、その、行きたいは行きたいですけど、あんまり長くいるつもりじゃないというか……、えっと……!」


 どうにかしてこの本を置いていけないものかと手を考えるが、一向に浮かばないまま芯のない言葉だけが間に合わせに放られる。あの暴威を首都で振るわれてはたまったものではないし、個人的にも両親どころではなくなるだろう。だが、ただ置き去っただけでは恐らく追いついてきてしまうこの本を、どうやって。何かに縛り付けるか、それとも埋めてしまうか、いっそ火に投げ込んでしまえば。


『……別に、滅ぼしたりなんかしないわよ』

「あの……、あれ?」


 呆れたような口調で、ロアはそう言った。


『"魔力がないから肉体を維持できない"って言ったじゃない。それに、ちょっとこっちの事情も厄介だって分かったから、人間の主都に行くのは賛成』


 そういう場所なら奴等も易々と手は出せない、自分にも得があるとロアは語った。懸念していたよりも大人しい態度を示されてリフルは呆気にとられるが、それでもぬぐい切れぬ不安は残る。なので、見透かされているならいっそ、と開き直りつつ魔王に意向を伺う。


「いや、でも、ダメですよ……! 壊されはしなくても、他にも色々、なんか機密とか!」

『どうせ本のままじゃ大した事できないって亜竜の時に分かったでしょう。不安ならむしろ、勝手されないよう抱えてなさいよ?』


 それも、そうか。そういうものだろうかと残る疑問もあるが、これ以上意見を重ねるのも堂々巡りな気がして、リフルは言葉を飲み込んだ。魔王がそう言い切る以上、信じる他ないというのが彼に許された唯一の選択肢だった。


『ねえそれより、リフル』

「え? はい」


 状況にリフルが気を揉んでいると、ロアが彼の不安を他所に尋ねてくる。その声色が、少しだけ変わったように聞こえた。


『アンタの腕の()()、大丈夫なの?』


 そう言って、何かを気遣うように、あるいは真理を見定めるように問いかける。リフルは何のことかいまひとつ分からなかったが、腕と言われたので傷の心配でもされているのかと理解して答えた。


「ああ、まあ多分問題ないですよ……? ちゃんと治るみたいですし」

『……そう。なら、いいわ』


 何か歯切れの悪いように話題は打ち切られたが、意図の読めぬリフルにそれ以上追求することもできなかった。

 ロアは本の状態のまま、周囲の魔力を知覚して捉えている。それは、今の彼女にとって眼や鼻のような感覚器だ。

 ジッと、リフルの左腕に意識を向けてその様子を観察し直すと、やはり包帯に覆われたその下に、ぼんやりと浮かび上がるモノが視える。

 亜竜の火炎を飲み込むためにロアの仕組んだ魔術式。役目を終えたはずのそれが何故か痣のように残って()()()()()()()()事に、今はロアだけが気づいていた。

読んでいただきありがとうございます!!!!!!!

作者が中学ぐらいの頃から考えてた設定を寄せ集め、一度別サイトに投稿してエタった作品を骨子に、今回やっとこういった形になりました。設定や創作人物らのためにもどうにか書き切りたい。


感想が来ると、作者が「クリスマスプレゼントを開ける海外のホームビデオ」ばりに喜びます!!!!!!!

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