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それは呪いの指輪です。~年下王子はお断り!~  作者: ヴィルヘルミナ


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国を呪う魔物、二人の剣で倒される。

 魔物との戦いの場に戻ると、四人は戦い続けていた。いくら戦闘訓練を積んでいるからといっても、相当な疲労が滲んでいるのが遠目からでもわかる。


(まさか、もうすぐ夜が明ける?)

 暗闇の中で体感時間が狂っていたのか、白い満月は姿を消し、夜空の端が明るくなりはじめていた。

 

「王子、朝日で魔物が粉々に散らばります。粉は次の満月で膨大な数の魔鳥に変化して国土を襲うそうです」

「それは誰から?」

「私を連れ去ったバルニエ公爵と魔術師ギュスターヴです。二人には女神の裁きが執行されました」


 詳細を説明している時間はない。焦る私の顔を見た王子は頷いた。

「そうか。じゃあ、夜が明ける前に魔物を倒そう。僕は魔物の心臓を突く。ジュディットは、首を落として」

 あまりにも簡単なことのように言われて自分の耳を疑う。


「お、王子?」

「大丈夫だよ。四人が魔物の魔力をかなり削ってくれた。これなら、僕たち二人で倒せるはずだ」

 断言されると、そんな気がしてくるから不思議。魔物の大きさは最初に見た時の半分になっていて、それでも王城より大きい。

 

「魔物の心臓の位置をご存じなのですか?」

「〝烈風の剣(ゲイル・ブレイド)〟が教えてくれてるよ」

 王子もティエリーも、魔法剣と心が通じているように見えて少々悔しい。


「行ける?」

「はい!」

 迷う時間はなかった。体は軽く、調子は万全。


「皆! これから僕たちで止めを刺す! 最後の攻撃で引いてくれ!」

 それを聞いた四人は、それぞれが最大限の攻撃を与え、魔物の大きさはさらに削られた。


「ジュディット、行こう!」

 王子は剣を手に走り出し、私は地面を蹴って白い神力の翼で空へと駆け上る。

開錠(アン・ロック)。〝華嵐のストーム・ブレイド〟!」

 現れた剣は、強く白い光をまとっていた。女神の加護に感謝して、王子の指示を待つ。


 魔物へと到達した王子の叫びが聞こえた。

「我が剣は、烈風と共に!」

 空気が震え、突如発生した強い風が吹き荒れる。離れていても、剣の歓喜が伝わってくる。解放された喜びと、倒すべき敵がいることの喜びを肌で感じる。

 

 赤と金の炎をまとう王子の剣が魔物の胸を盛大に抉り、露になった心臓を突くと、巨体が大きく波打つように跳ね上がった。


「行きます!」

 父から教わった技を思い出しながら、剣を振りあげる。自分よりも大きな敵を斬る時は、実際の剣の長さは無視。空間を、世界そのものを斬って分断すると教わった。


(必ず斬れる。私は〝華嵐の剣(あなた)〟の力を信じている!)


 手本は父の剣技。降り下ろす剣は神力を帯びて、斬った空間が魔物の体を分断していく。私の一撃で、魔物の首が体から離れて音を立てて地面に落ち、白く光って消えて行く。


 切断された部分から上がった白い炎が魔物の体を包み、あっという間に魔物を跡形もなく燃やし尽くした。


「……敵性魔力の完全消失を確認しました」

「俺の索敵結果も同じだ。魔物は消滅した」

 ジュリオとユベールから声が上がる。


「念の為、〝女神の種〟による浄化を行いますね」

 ドニが祈ると、その手にある水晶から、七色に輝く白い光が周囲へと広がった。夜は明け、朝日がその光を世界へと広げていく。


(女神の光が、体を癒している?)

 白い光が汗や泥で汚れていた服や体を浄化して、体力が充実するのを感じる。それは全員が感じたようで、疲労の色が顔から消え去った。


「皆、ありがとう。皆のおかげで我が国が恐れていた魔物を、今日ここで倒すことができた」

 王子の勝利宣言で結界魔法が解かれ、爽やかな朝の空気が流れ込んでくる。


「お、終わった……」

「マジで死ぬかと思った……」

 エクトルとブノワが真っ先にへたりこんだ。体力が戻っていても、長時間の緊張が気力を削っていたのだろう。


「久しぶりに思う存分楽しめたな」

「ああ、良い運動になったな。我が騎士たちも連れてくればよかった」

 父と辺境伯の笑顔は満ち足りていて、何とも言えない暑苦しさを発している。


「初戦にしては楽しく遊べたね」

「凄まじい威力でしたよ。これまでの体験を聞かせてもらえませんか?」

 魔法剣にティエリーとガヴィが話しかけている。そのうち、魔法剣の物語が聞けるのだろうか。というよりも、ガヴィまで剣の声が聞こえるならうらやましい。


「ジュディット、バルニエ公爵と魔術師ギュスターヴの話を聞かせてもらえるかな?」

 王子の問い掛けに、私は彼ら二人の計画と、女神の裁きについて話した。


「そうか。……ありがとう、我が国の危機はジュディットのおかげで回避できた」

 王女と王子が愛した国を護ることができて、本当に良かったと思う。一緒に戦えることが、心から楽しいと思えた。


「……ユベール、ジュディットが嵌めている指輪を外すことを依頼したいけど、いいかな?」

 目を伏せながら、しょんぼりとした王子の口から出てきた言葉に私とユベールは驚いた。


「……ジュディットとユベールは……恋人同士だよね?」

「は? 誰がこの少女趣味の変態と?」

「あ? 何でこんな暴力女と?」

 私とユベールの声が重なった。


「誰が暴力女よ!」

「誰が少女趣味だ!」

 お互いに向き合って、また二人の声が重なる。


「えーっと……ジュディットはユベールのペンダントをずっと大事にしてたよね?」

 戸惑う王子の言葉への返答に詰まった。王子の魔力を枯渇させる為に持っていたとは絶対に言えない。


「これは、俺の店の売れ残りです。魔法実験し過ぎて、呪具になりそうだったのを神力を持つこいつに押し付けただけです」

「は? 呪具? 聞いてないわよ!」

 ユベールの手に現れたペンダントを見て、そんな危険な物だったのかと血の気が引いていく。もしも王子に使っていたとしたら。

 

「ロザリーヌ様が俺の姉貴が書いた物語が好きだったって言ったら、物語に出てくるこのペンダントが欲しいって言っただろ? だから渡してやったんじゃねーか」

 ユベールが顔色一つ変えずにさらりと嘘を吐いているのがわかった。どう返答すればいいのかと悩む間もなく、ユベールは話題を変えた。


「あ、そうだ。俺の姉貴にお前の物語書くように言ってやるよ。艱難辛苦を乗り越えて、王子と一緒に魔物を倒した王子妃ってな。俺の姉貴の本は滅茶苦茶売れてる。隣国でも売れてるからな。あっという間に広がるぞ」

「な、な、な、何を言っているの?」

 いきなりすぎて言葉が出てこない。この男は何を言っているのか。


「王子妃になる運命をしっかりと固めてやろうという、俺の親切じゃねーか。伝説になれば、誰も文句なんて言わねーよ」

 にやにや。そんな顔でユベールが見下ろしてくる。ムカつく。王子の目の前でなければ、殴り倒したい。


「成程。では、私も吟遊詩人として、王子妃の伝説の物語を広めましょう。何しろ直接見せて頂いておりますからね」

 人の良さそうな顔をして涼やかに微笑むのはガヴィ。なんとなく、この顔は何かを企んでいるような気がする。


「俺たちも城の皆に広めないとな!」

「伝説の生き証人ってやつか! すげえ!」

 ブノワとエクトルも、何故か盛り上がっている。


「よかったー。ユベールが恋人じゃなくて! 諦めなきゃって迷ってたんだ!」

 王子と私を微笑ましく見守る周囲が混沌過ぎて、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる王子を避ける気力も起きない。


「ところでルシアン様。先ほど使用されていた魔法剣は?」

「〝烈風の剣〟だよ。この指輪に封印してる」

 完全にペンダントの話題は消え、ユベールは自分の興味を優先し始めた。王子は私が聖具にした指輪に剣を封印することにしたらしい。

 

「見せて頂けませんか? お願いします」

 距離感無しに詰め寄ってくるユベールに王子が引いているのがわかる。ユベールの目は知的好奇心で輝いていて、いつか見た光景を思い出して苦笑する。


「開錠。〝烈風の剣〟」

 王子の腕の中から私は解放され、剣を持った王子の手がユベールに完全に捕まった。

「……ここに使われている術式は失われた古代魔法王国のもの……千年以上前のものです。すばらしい……!」

「ユ、ユベール! 近い近い!」

 まさに舐めるようにという表現がぴったりなユベールを前に、悲鳴に近い声を上げる王子が可愛くて頬が緩む。戦いの最中に見せる凛々しさも素敵だけれど、可愛い金色の子犬は抱きしめたくなる。


「……失礼しました。岩で封印されていた剣は消えたと思っていましたが、王子が持っていらっしゃったのですね」

「昔、魔術師〝輝ける者(シェイン)〟が岩を割って剣を持ち去ろうとしたんだけど、探していた剣と違うからって、偶然その場にいた僕にくれたんだ。……最初、僕が断ったら、条件付きで僕の中に封印するって言われて、僕は受け取ることにした」


「魔術師シェインって、千年を生きる大魔法使いじゃないですか!」

 話を聞いていたエクトルが驚きの声を上げた。


「どなたですか?」

「遥か遠くヴァランデール王国にいるという魔術師です。人の身でありながら、千年以上生きていると聞いています」

 私の疑問に、ジュリオが答えてくれた。千歳の老人を想像しようとしたのに、何故か長い白髪に赤い瞳の三十歳前後の女顔の美形が頭に浮かぶ。会ったことも見たこともないというのに。


「封印解放条件をお聞きしてもいいですか?」

 ガヴィも興味があるらしい。きっとこの話も物語になるのだろう。


「えーっと、二人の愛の力ってことかな?」

「……王子、それは恥ずかしいですからやめてください」

 ほわほわとした王子の笑顔に脱力してしまう。とはいえ、口付けが条件だったというのも恥ずかしい。


「皆さん、ここで立ち話も何ですから、どこか酒場にでも行きませんか?」

 やけにうきうきとした顔で神官ドニが言い出した。

「神官って、酒禁止じゃなかったか?」

「禁止ではないですよ。ただ、王城周りの酒場では上品にしか飲めませんからね。たまには思いっきり飲んでみたいと思いまして」

 その言葉に真っ先に反応した辺境伯と父の笑顔を見ると、嫌な予感しかしなかった。ドニが無事に神殿へ帰れることを願うのみ。


「じゃ、皆でお酒飲みに行こう。僕も大人だからね」

 笑顔の王子に手を引かれ、私は歩き出した。

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