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それは呪いの指輪です。~年下王子はお断り!~  作者: ヴィルヘルミナ


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二人の狂人、偽りの夢を語る。

「ふん。私の血をそれなりに受け継いだようだな。ユベール」

 夫人の口から零れた声は完全に男。何故と疑問に思う間もなく、美しい夫人の姿は溶け、豪奢なドレスは魔術師のローブへと変化して、淡い茶色の髪、金茶色の瞳のユベールに似た美貌の男が現れた。


「お前の血が入ってるなんて汚らわしいけどな! 母さん放置して何やってんだよ!」

 ユベールが本気で怒っているのが伝わってくる。そういえば、父親が嫌いだと毎日母親から聞かされていたと言っていた。

「暮らしに不自由しない十分な金は渡していたはずだが?」

「金じゃねーよ!」


「ユベール君。少々お時間を頂きますが、我々の話を聞いていただけますかな?」

 今にも父親に魔法で攻撃しそうなユベールに向かって、バルニエ公爵は温和な笑顔で語りかけた。高位貴族とは思えない優しい口調でありながら、その場を支配する圧倒的な説得力を持つ声。王族とは異なる空気感が漂う。


「話は聞くから、魅了魔法を使うのをやめろ」

 歯噛みをしながらも、ユベールは腕を組んで息を吐く。

(バルニエ公爵の不思議な雰囲気は、魔法で作られていたのか)

 魅了魔法と聞いて成程と納得するものがある。バルニエ公爵が魔法を使える程の強い魔力があるとは聞いたことがないから、隠していたのだろう。


「ありがとう、ユベール君。では遠慮なく」

 微笑んだバルニエ公爵から、温和な空気が消え去った。替わりに醸し出すのは冷徹で傲慢な空気感。

(凄まじい敵意を感じる。この敵意を隠すための魅了魔法?)

 皮膚がビリビリと痛む程の敵意は、過去に王女を害しようとした暴漢たちが発したものよりもはるかに強い。


「紹介が遅れましたな。彼は我が妻アンリエットの異母兄。国一番の魔術師ギュスターヴです。長きにわたり、共に一つの目標に向かって歩んで参りました」

 魔術師ギュスターヴという名を聞いても、全く知らなかった。彼は何故、バルニエ公爵夫人に化けていたのか。


「我々が少年の頃、この国を魔法王国として栄えさせるという夢を持っておりました。日々、魔法を学び、鍛錬を重ね、我々は努力を続けました」


「そんな中、年々、強力な魔力を持つ者が減っていることに我々は疑問を覚えた。当時の王族たちは、我々の魔力量よりも下。それでも自己研鑽することもなく、魔力を強めてくれる精霊と積極的に交流することもない。創世の女神だけを信仰し、向上心が見られない」

 笑顔のバルニエ公爵と対照的に、ギュスターヴはその美貌を不平不満で歪ませ、吐き捨てるように語る。


「精霊との直接対話と魔力の取引を模索していた我々は、岩に変えられ封印されていた精霊を発見しました。ありとあらゆる手段で調べたところ、どうやらこの国が過剰に恐れる魔物であると判明しました」


「人を喰らい、魔物と化した精霊。手懐ければ、この国の守護鳥として使えるのではないかと試行錯誤するうち、何故か封印が解けた。時間制限があったのか、封印した者の力が消えたのかは不明だが、目覚めた魔物に餌を与えて命令を遂行させることに成功した」


「この国の王族が代々恐れてきた魔物が手中にあることは、我々の行動に勇気を与えました。王を殺し、若い王子の後ろ盾となって、女神信仰を廃止する。魔物を守護とする偉大なる魔法王国への道筋が見えた、と」

 女神信仰を廃止しても、人々の魔力が強くなることはないと他の魔術師たちは言っている。それが本当かどうかはわからなくても、自らの願望の為に人を殺すことは許せない。 


「ある日我々は、厳重な警備と守護の隙をつき、王の暗殺を成し遂げました。……ところが、だ」

 バルニエ公爵の口調と表情が変わった。憎悪を滲ませ、あらゆる者を見下すような傲慢な声が空気を震わせる。


「確かに殺したはずなのに、翌日、王は公式の場へと現れた」

 王と世継ぎの命を護る代替魔法のことを思い出した。王が生きているということは、誰かが身代わりになったということ。先代の第三王子が犠牲になったというあの件か。


「驚いた我々は、何度も王を殺した。時には第一王子も。それなのに、翌日には復活する。影武者かと疑ったが、何度確認しても本人だった」

 何度もと聞いて、寒気がした。その回数だけ死んだ人物がいるはず。


「我々は諦めず、王を殺し続けた。すると、突然我が妻アンリエットが死んだ。王と同じように」

 頭に叩き込んだ貴族名簿から情報を拾い上げる。バルニエ公爵夫人は、降嫁した先々代の第四王女の娘。確かに王族の血を継いではいるとはいえ、その繋りは遠すぎる。それだけの人数が犠牲になったのかと、バルニエ公爵に対する怒りがさらに湧いてきた。


「翌日、王は復活したが、アンリエットは目覚めなかった。何故だ? その理由を探すとすぐに見つかった。……王と世継ぎの王子には、代替魔法が用意されている! たとえ命を落としても、替わりに王族の誰かが命を捧げる!」


「全く馬鹿馬鹿しい話だ。王というだけで、命の代替が許される。何度死んでも、誰かが代わりに死ぬ。貴様ら王族に、どのような価値があるというのだ? 他者の命を身替わりにできる特権とは何だ?」

「美しく尊い、至高の宝玉、我が異母妹アンリエットは、王の身替わりとなって死んだ。何故だ? 何故、アンリエットを選んだ?」

 その追及の言葉は王子に向けられている。何故と聞かれても、王子自身も身代わりになる立場。答えられるはずがない。


「それは単なる逆恨みというヤツですね」

 さらりと平然とした顔でドニが言ってのけた。

「偵察なら使わなくても良いかと思いましたが、公爵にバレてますし、使わせて頂きますね」

 憤怒の形相で睨みつけるバルニエ公爵とギュスターヴを前にしながら、何事も無かったかのようにドニは懐から小さな木箱を取り出した。


 木箱の中には、青い液体が閉じ込められた卵の形をした透明な水晶が入っている。

「それは、〝女神の種〟? 大きさが……」

「はい。神官長に託されました。大きさは可変なんですよ。〝女神の種〟は、この世界の真実を映す鏡でもあると言われています」

 王子がすぐに正体を言い当てたものの、両手に乗る大きさではなく、小さな卵の大きさ。ドニが両手で〝女神の種〟を掲げると元の大きさへと戻り、白い光線が魔物に向かって放たれた。


「……あれは……!」

 その光が魔物の姿を露にしたらしく、ドニやユベール達の表情が驚愕へと変わった。


「貴様らにも見えるようになったか。この国が恐れてきた魔物が目覚めてから三十年。我々は餌を与えて育ててきた。既存の備えや武力では、到底止められぬぞ。この縛りから完全解放した魔物は、すべての生物を飲み込み、植物を枯らし、建物を破壊する」

 

「逆恨み。ああ、そうだな。偉大なる魔法王国の夢は我が異母妹アンリエットが死んだ時に終わった。我々は、復讐の為にこの国を滅ぼす事だけを望んでいる」

「我が最愛の妻アンリエットを殺した罪を、この世界のすべてで贖え!」

 男二人の陶酔した表情と声はおぞましく、ただひたすらに気持ちが悪い。


 愛する者を亡くしたからといって、何の関係もない者たちを犠牲にして良い理由にはならない。私の中で二人を斬る覚悟が決まった。

 二人が笑い声をあげて姿勢を正し、まだ話は続くのかと身構えると、公爵が背後の魔物に向かって叫んだ。


「精霊ヴェルズハ! 我らを(くら)い、世界を滅ぼせ!」

 バルニエ公爵の命令を聞いた魔物は、その巨大なくちばしで二人をつまみ上げ、あっという間に飲み込んだ。その名は、禁書に書かれていた名前だと思い出す。


「はっ。馬っ鹿じゃねーの! 自分で魔物の餌になるなんてな!」

 異常な状況の中、沈黙を破ったのは怒りに満ちたユベールだった。水色の光が魔術師の杖へと変化する。


 魔物が天に向かって奇怪な声を上げると、魔物の足元に広がる森が瞬時に枯れ果てた。公爵と魔術師を取り込んでも変わらず動きが鈍いとはいえ、移動されると国土が荒れ地になることは明白。

 

「対象の姿が視認できました。これより結界魔法を発動させます」

 ジュリオの手にも紫色に光る魔術師の杖が現れ、紫と水色の魔力光が魔物の周囲を囲む網を一瞬で織り上げた。網は地上から空まで伸びている。


「ルシアン様、この化け物を倒していいのですかな?」

 巨大過ぎる魔物の前でも、父と辺境伯の余裕の態度は変わらない。むしろ喜々としている。


「ああ。皆でこの化け物を倒そう! エクトルとブノワは、ドニの護衛を頼む! ジュリオとユベールは結界に注力! ガヴィは二人の護衛を頼む! ジュディットは、魔物の力が消耗するまで待機してくれ!」

 王子の指示の元、それぞれが走り出していく。待機と言われた私は、その場で魔物を見上げる。


 エクトルとブノワは剣を抜き、〝女神の種〟を掲げる神官ドニの前で構える。二人の全身は緊張に満ちていて、いつもの軽口は出てこない。


「俺たちの護衛は不要だ! とっとと倒してくれ!」

「己の身は己で護ります!」

 結界魔法を維持する二人の前に立とうとしたガヴィはユベールとジュリオに拒否された。


「ルシアン様! 私にも参戦の許可を!」

「わかった。ガヴィも参加してくれ!」


 最初の一撃は切りたつ岩を使って跳躍した辺境伯の戦斧。右翼の根元を狙った攻撃は重く、山のような巨体がぶれて右翼がだらりと垂れ下がり、断たれた骨が見えている。二撃目は魔物の体を駆けのぼった父の剣技。山を斬ったという伝説を持つ父の剣は、魔物の首を一振りで斬り裂き、魔物の巨大な頭が轟音を立てて地面に落ちた。噴き出す血が周囲に雨の如く降り注ぐ。


「……すげえ……」

「伝説は本当だったんだな……」

「気を抜くな! 魔物はまだ生きてる! 死んじゃいねえ!」

 エクトルとブノワの感嘆の声に、ユベールが警告を発する。


 地に落ちた魔物の首は溶けて黒い泥になり、魔物の体から新たな頭が生えてきた。戦斧で断たれた骨が嫌な音を立てて繋がり、魔物の体は復活を遂げた。


「魔力量は減っている! 必ず倒せる!」

 叫びながら跳躍した王子の剣技もすさまじいものだった。剣に赤く光る魔力をまとわせ、左翼の根元を斬り落とし、胴体を抉る。


「行くか、相棒!」

 〝暗影の剣(シャドウ・ブレイド)〟を抜いたティエリーも切りたつ岩を蹴って跳躍し、その斬撃は右翼を斬り裂いていく。魔法剣の一撃は魔物の再生速度を遅らせた。


 ガヴィは帽子に飾られた羽根を抜いて空に投げ、竪琴をかき鳴らす。羽根は緑色の光をまとい、回転する刃となって魔物の体を斬り裂いていく。


 五人の攻撃は優劣つけ難い威力を持って魔物の巨体を切り刻む。攻撃直後に再生しても、その攻撃は緩む事無く続いている。少しずつではあっても、着実に魔物の魔力が削られていくことを感じる。


「おい、ジュディット! ペンダントを使え!」

「は? 何をするつもり?」

 唐突なユベールの命令に思考が遮られた。


「魔物がデカすぎて、結界魔法を維持する魔力が足りねえ。全部は無理だろうが、そいつで吸い取ってこい!」

「無茶を言うわね!」

 迷う時間も惜しい。わかったという言葉の替わりに魔物に向かって走り出す。地を蹴って、神力の白い翼で空へと駆け上がり、魔物の死角となる背中へと向かう。


「肌でなくていい! 表面で構わん!」

 近づくとさらに醜悪な光景が広がっていた。魔物の体は乾いた人間だけでなく、狼や熊といった、大型の獣も取り込んでいて、人間と獣たちが一斉に叫び咆哮を上げる。


「……これは……」

 恐怖よりも、ぞわりと背中を走る嫌悪感。バルニエ公爵と魔術師ギュスターヴが育てた魔物は、醜悪過ぎておぞましい。


 服の隠し(ポケット)に入れていたペンダントを左手で掴んで握りしめる。

(表面と言っても……直接触れる必要がある……)

 全体的な動きは緩やかに見えてでも、魔物の表面は常にざわつき蠢いている。攻撃を受け続ける魔物の体は衝撃で絶えず振動していた。


「動きを止める! 長くはもたねえ! 皆は一旦攻撃を止めてくれ!」

 杖を握りしめ、額に汗を浮かべるユベールの叫びは切羽詰まったものだった。それぞれの攻撃による衝撃も止み、完全に静止した狼の頭にペンダントを押し当てる。


「水の精霊よ、我が手に力を!」

 呪文を聞いたペンダントが脈打ち、何かが流れ込んでくる感覚を手の中で感じる。魔力を吸い取っていることを示すかのように、干からびた表面がさらに干からびて、乾いた音が波紋のように広がっていく。


 魔物の大きさが一回り小さくなったと感じた時、ペンダントへの魔力の流入がぴたりと止まった。

「ジュディット! 限界だ! 離れろ!」

 ペンダントへ気が向いていて、ユベールの警告への反応が遅れた。自由を取り戻した狼の牙が左手に噛みつこうとした途端、狼の頭が破裂して吹き飛んだ。


「何?」

 炎の色に光り輝くのは〝王子妃の指輪〟。おそらくは指輪が私を護ってくれたと理解して、感謝をしながらその場を離れてユベールの元へと飛ぶ。


「有効に使いなさいよ!」

「もちろん!」

 ペンダントをユベールに手渡し、魔物を見上げる。王子たちの攻撃が再開し、確実に魔物を切り刻み、魔力を削っている。


 私が攻撃するのは魔物がもっと弱ってから。王子の指示を頭では理解していても、気持ちは焦る。どうにかして、巨大な頭を一撃で落とすことはできないかと、先ほど見た父の剣技を思い返す。


(父の魔力はそれほど強くないし、魔力は使用していなかった。父に比べて非力な私は、王子のように神力を剣に乗せるのが現実的か)

 考え込む私は、隙だらけだった。


「ジュディット! 逃げろ!」

 ユベールの警告もむなしく、突然足元に現れた黒い穴に私は吸い込まれた。

次回、複数話同時更新です。

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