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それは呪いの指輪です。~年下王子はお断り!~  作者: ヴィルヘルミナ


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国を大事に思う人々、その違いを考える。

 私が二冊目の本を読み終えて閉じると、王子が分厚い本を閉じて大きく息を吐いた。何故か怒りを鎮めるような雰囲気を感じて、王子の顔を見る。

「ごめん、ジュディット。僕はこの魔法陣の製作者に怒ってる。先代の王、僕の祖父が即刻焚書にした理由がわかったよ。これは死者を復活させる魔法じゃない」

「違うのですか?」

 興味を引く書名で、異なる内容を読ませる本だったのか。ただ、それだけで即刻焚書になるとは思えなかった。紙の製法が外国からもたらされ、人の手で書き写す写本から、版木による印刷へと製本技法が変化して、今では平民でも簡素な本を持つことが可能になった。その歴史は数百年に及ぶもので、本の出版が盛んに行われる中、焼却処分された書物があることを初めて聞いた。


「違う。これは正体不明の何かを召喚して生贄を捧げる意図を持つ魔法陣だ。書かれている研究内容と魔法陣の質が全く違うから、著者ではない誰かが魔法陣を書き替えた可能性が高い」


「生贄を求めるのなら、召喚するのは魔物でしょうか?」

「名はヴェルズバともウェルズハとも読めるけど、魔物かどうかはわからない。もしも精霊だとしたら……。精霊は人を殺すと穢れて狂ってしまう。一度狂った精霊は人を殺し続けて元には戻れないから、誰かが止める必要がある」

 人を殺して狂った精霊の話は、吟遊詩人の歌で聞いたことがある。その場でしっかりと聞いていた訳ではなく、王女の感想で内容を知った。


 精霊に命じて人を殺してはいけない。精霊に人が死ぬようにと願ってもいけない。狂った精霊は、やがて国を滅ぼしてしまう。そんな教訓めいた話だった。


「……そのような本を無防備に置いていて大丈夫なのでしょうか」

 普通の本に混ぜ込むことで重要性を隠しているのかと気軽に考えていた自分を殴りたい。これはあまりにも危険すぎる。


「それは大丈夫じゃないかな。この儀式の手順の所に『これは試した全員が死に、死者は砂塵になった研究中の魔法陣』と手書きで書かれてる。自分が死ぬだけならまだしも、蘇らせたい相手も消えてしまうのなら試すのも躊躇すると思うよ。それに魔法が無効になる図形が目立たないように加えてある。魔術を深く学んだ者なら理解できるし、素人なら発動せずに終わる」

 王子の言葉の中、不穏な思考を感じ取ってしまった。『自分が死ぬだけなら』とは、命と引き換えに目的が達する事を是とする考え。騎士や臣下ならともかく、主君がこの思考では頭が痛い。


 苦言を呈しようとしたものの、王子を殺そうとした私が言えることではないと思いとどまる。安易に死を覚悟する王子の考えを改めさせる言葉は思い浮かばないし、これは諦めて、王子の命を護ることに専念した方が楽だろう。


「バルニエ公爵の魔物を倒したら、次はこっちかな」

「……その際には必ずお声を掛けて下さい」

 王子なら一人で正体不明の魔物に挑みかねないと思う。一転して上機嫌で笑う金色の子犬を前に、私は苦笑するしかなかった。


      ◆


 魔術師ニコラの回復術によって、王子の傷も体調も早々に回復した。夜会の片づけはまだ続いており、正規の晩餐会ではなく私的な夕食会が行われた。


 辺境伯夫妻、王子と父と私、ニコラとシビル、ジュリオとティエリー、ガヴィがテーブルに着き、皆が気楽な服装で会話を楽しみ食事を取る。王族と貴族と平民が和やかに食卓を囲む光景を興味深く観察していると、それぞれが気を使っているのがわかる。相手のことを思いやること。それがこの夕食会を居心地の良いものにしている。


「夜会の後、徹底的に掃除と補修をしておけば、年末年始に領民の手を煩わせずに済みますからな。使用人たちにも休みが出せるというものです」

 王城で見る冷徹さとは全く異なる優しい顔で辺境伯が笑っている。辺境警備の騎士や兵士は減らせなくても、使用人たちは交代で休みが取れるらしい。


「王都では難しいな。年末年始の王城での祭りを楽しみにしている国民が多過ぎる」

 そう話す父も貴族ではなく、家族に見せる笑顔。久々に見る顔が懐かしい。


「皆が楽しんでもらってるなら良かったよ。王の挨拶の時間が短すぎるんじゃないかって、父と兄がいつも悩んでたんだ」

「そういえば、いつも短かったですわね。先代の王も。何か理由がおありですの?」

 王子の言葉に、辺境伯夫人が反応した。


「王と第一王子は神殿で夜通しの祭祀があるんだ。開始時刻は絶対に動かせないけど挨拶するべき人々は多くて、どうしても必要最低限の挨拶になる。本当にあっという間だよね」

 ここ数年の年末年始を思い返すと、王と第一王子の顔を見た覚えが無かった。十歳になってからの王女は国外からの賓客との挨拶や歓談で多忙を極め、食事を取る時間すら削って、着替えの最中に軽食や菓子を摘まむだけ。新年の鐘の音を皆で聞き、朝日が昇る前に身支度を整え、夜通し祝いで騒いでいた国民に挨拶をする。少女の身では過酷と思える予定をこなしつつ、年末年始の祝祭の賑わいを喜ぶ優しい笑顔を思い出す。 


「遥か彼方の国の話ですが、若き王が清貧を掲げて女神様への祭祀を中止して、酷い目にあったという話が伝わっておりますよ」

「それは怖いな。どんな目にあったのかな?」

 ガヴィの言葉に、すぐに王子が反応した。女神信仰を緩めた際に、一体何が起きたのか興味はある。


「国の半分で雨が降り続き、あとの半分では雨が一切降らなくなって湖と川が干上がったそうです。作物が全く取れず、国民を救う為に国庫から莫大な支出が必要になった、と。女神がお怒りになったと慌てて盛大な祭祀を行って、次の年は豊作に恵まれたそうですよ」

「女神の怒りも恐ろしいが、清貧というのは王にやられると庶民は困るな」

 ガヴィの話を聞いたニコラが、そう言って肩をすくめた。


「何故ですか?」

「作物は人の生き死にに関わるが、備蓄もあるし、最悪、外国から買う手段もある。贅沢品と呼ばれるドレスや宝飾品、高価な物というのは、職人たちの長年の技術の積み重ねで出来てるんだ。王が買わなくなったら、貴族も買い控えるだろ? 誰も買わなくなったら、作ることもなくなる。職人が弟子を雇って育てることも出来なくなる。技術の継承は何年も、下手すりゃ一生掛かるから、一度途絶えた技術を復活させるのは難しいし、その材料を作っている者に金も流れなくなる。贅沢は過ぎると困るが、ほどほどに金を流してもらわんと、国から技術が失われることになりかねん」

 ニコラの言葉ではっとした。母や私が好むドレスも、様々な職人たちの技術で出来上がっている。剣や武具も同じ。買えるだけの財を持つ者が支えなければ、技術ごと失うことになるのか。


「僕たち王族は、女神様への祭祀もしっかりやるし、過度な倹約はやらないから心配しなくていいよ。貴族も国民も、皆が豊かになっていけるように考えてる。ロドリグもそうだろう?」

 王子は辺境伯の名を親しみを込めて呼んだ。一瞬、驚いたような顔をした辺境伯は、人懐っこい笑顔で返す。

「はい。我が国の技術力を発展させ、富を生む為に夜会を開催しております」


 王族と高位貴族が国の発展を願い行動していることに敬意が増す。一方で、魔法大国の建国を目指すバルニエ公爵への疑問が沸いた。バルニエ公爵は、本当に国を大事に思っているのだろうか。魔力や神力を持たない平民のことは考えていないように思える。国は王族と貴族だけで出来てはいない。多くの国民が支えてくれているという観点が抜けてはいないだろうか。


 和やかな会話が続く中、私はそんな疑問を心の中で考えていた。

 

       ◆


 翌朝、私たちは辺境伯の見送りを断り、ひっそりと馬に乗って出発した。王子と私、ジュリオとティエリー。旅先案内人としてガヴィの五名。シビルが女一人の私を気遣って侍女替わりに同行を申し出てくれたものの、丁重に断った。


 父からは『力のある神官と魔術師を拾って後から追いかける。相手は我が国が長年恐れてきた魔物だ。一度で倒そうとは思うな』と念押しされた。 


 時間を超えて見せられた禍々しく巨大な魔物の姿を思い出すと、未だに恐ろしさは感じる。ただ、〝烈風の剣(ゲイル・ブレイド)〟を持って独り戦っていた男の姿が私に勇気を与えてくれている。今の私の手には〝華嵐の剣(ストームブレイド)〟がある。


(私は王子を護り、必ず勝利を捧げる)

 騎士の誓いを胸に秘め、私は馬を走らせた。

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