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第五目 ヒトにあらずんば (前編)

ちょっとした回想シーンにしようと思ってたのに今までで最長になってしまいました。

自転車に乗りながら火ノ目は、先程又三郎に言われた事を考えていた。


「逃げてるのかな?」


左目の眼帯は火ノ目の左目の力を封じ、妖が見えないように作られている。これは8年前に知り合った坊主に頼み、特別に作って貰った物だった。

この眼帯によって、左目を閉じる事で自分に降りかかる災いを減らす事は出来る。

しかしそれが完全でないことは自分でもわかっていた。

何しろ声が聞こえてしまう。

それに左目を閉じても避けられない悪夢が、確かにこの世にはあった。


「………」




12歳の時に、親戚の息子の中学生が、部屋の隅っこで、独り事を言ってるのを見つけた。


「なぁ。頼むよ。なぁ頼むよ。」


と彼は仕切りに呟いている。

火ノ目は彼のことがとても嫌いであった (彼はモデルガンで火ノ目を撃つのが好きだった。)ので放って置こうかとも思ったのだが、だが、何やら嫌な予感がしたのでコッソリ彼に近づいてみた。


数秒後、火ノ目はその事をとても後悔することになる。


「ナニガ望ミナンダイ?」


人の声ではなかった。

人の声からは、そんな悪寒を感じる事はない。


息子は異形のモノと話しているのだ。


つまりこの部屋の中に一匹いるということになる。


火ノ目は部屋の何処にヤツがいるのか、左目で確認しようかとも思った。

しかし頭の一部がその自殺行為を全力で止めていた。

「(左目を使ってはいけない)」


何故いけないのかは解らなかった、火ノ目は確信を持って左目を開けなかった。




「なぁ。頼むよ。アイツがいなけりゃ俺が志望校の推薦貰えるんだ。

アイツを落としてくれよ。」


息子はどうやら学校のクラスメイトの失脚を願っているようだった。


今日まで、あの息子が人外のモノの声を聞けるとは、火ノ目は一度も聞いたことがなかった。


それまでも火ノ目の話を聞いた親戚家族は、

奴らの話をする火ノ目に無言の軽蔑を与えたし、

当の息子も火ノ目を蔑んで笑っていた。

もしかしたら普通の人間にも奴らの声が届くことがあるのだろうか。


「イイヨ。ソレデ何ヲクレル?」


気味の悪い声が響く。

2年前、火ノ目自身が聞いた声もこんな感じであった。

口調は違うがこちらの影をすくう感じには覚えがある。

罪悪感が火ノ目の心を軽く刺した。


「は?どういうことだ?」



「契約スルノサ。オマエノ望ミト、ワタシノ、望ミ。交換サ。」


「そうなのか?じゃあな。」


息子は肩を組んで考え始めた。

彼の目が何か邪悪なモノを帯びていることに火ノ目は気づいた。



「そうだっ!アイツをやるよ。家で親戚の子供を預かってるんだけど、アイツ陰気臭くて嫌いなんだ。

アイツを好きにしたらいい!な?いいだろ?」


背筋に寒気だけでなく怒りが込み上がった。

「人でなし!」と罵りたくて堪らなくなった。

しかしここで出ていくわけにもいかない。

やむを得ず拳を握り、堪える。

すると不気味な声は不機嫌そうに答えた。


「ソレハダメダ!ソレハ、オマエノ物デナイ。オマエノ持ッテイル物、出来ル事カラ選ブノダ!」


人外のモノの怒りに息子はビクッと肩を揺らすとオドオドと答える。


「お、俺の物か。金とか、あっモデルガンはどうだ。」


「…」


「だっ、駄目か?」



暫く沈黙が続いた。



息子は挙動不審に妖の答えを待っていた。

そんなに恐ろしいのならば、何故ヤツの声に応じたのか。

そんなに推薦が欲しいのだろうか?


今の彼ならば、昔なぜ自分が暗闇を恐れたのか理解できるのだろうか?


火ノ目は緊張しながらも、そんなことを考えていた。


「ヒヒッ。ワカッタ。」


意地悪く笑った妖は息子に新しく提案を始めた。


「手ヲ貸セ。」


「なんにだ?」


「ワタシノ望ミヲ果タス為ニ、オマエの手ガ必要ナンダ。

ワタシニ手ヲ貸セ。一度ダケデイイ。」


「それでアイツを落としてくれるのか?」


「ソウダ。」


「わかった。俺は一度だけアンタに手を貸す。それでいいんだな。」


「ヒヒッ。契約成立ダ。



妖怪の声がしなくなった後、火ノ目は逃げるように、且つ音を立てないように、自分の部屋である物置に戻った。

息子達のやり取りは悪夢のような時間であったが、

良くないことが起きることだけは確かだった。

その晩、火ノ目は食事も取らず部屋に引きこもった。

なかなか寝付けなかった




次の日、火ノ目は眠い目を擦りながら、居間で朝食を取っていた。


テレビのニュースでは中学生が自殺したという報道をやっている。


「(自殺か…)」考えたことはあった。


居間の隅っこの席で自分だけ、

わざと買ってきたとしか思えない、

固くてなんの味もしないパンを与えられている。

ここでの生活など、カケラも幸せとは思えない。


しかし死んで奴らのもとに行くことの方がずっと恐ろしい。


そんな絶望に浸っていると、息子の母親がやって来て喋りだした。


「飛び降り自殺だなんて……アラッ。この子!○○ちゃんのクラスメートの子じゃない!?」


思考が現実に引き戻される。

昨日感じた嫌な感じがシクシクと胃を引き締める。


「(クラスメート?飛び降り……)」


昨日あのバカ息子は何といった?


確か……




『落としてくれよ。』


『イイヨ。』


ガバッ!


思わず火ノ目は立ち上がった。立ち上がらずにはいられなかった。


親戚家族が汚物を見るような目でコチラを見る。

しかし息子だけはテレビに釘付けで表情が解らない。


契約が実行された。



息子の望みどおり、クラスメートは落とされた。



ただし高層ビルの最上階からだが……


遂に火ノ目は我慢出来なくなった。


テレビを見ている息子に向かって声を張り上げる。


「どうするんだよ!!おまっ、お前の制で人がっ!」


「死んだ。」までは言えなかった。


家族の前ということもあったが、何より罪悪感が心を引き裂くのは、この息子のはずなのだから

それは火ノ目が8年前に経験した痛み。


そう。彼が火ノ目と同じだったならばまだ救いがあったのだが……


振り返った彼の顔は笑っていた。


火ノ目の心の全てが嫌悪を覚える程の醜い醜い笑み。


それはまるで奴らと寸分も変わらぬ笑み 。

火ノ目は吐き気を催してその場に、へたりこんだ。


「(コイツ…本気で満足している。信じられない。これで良かったとでもいうのか?)」


しかし悪夢は終わらない。


「○○ちゃん。良かったじゃないの!?これで推薦もらえるわね。ママ嬉しいわ。」


よかった?


これの何処が良かったと言えるのだろうか?


「うん。ありがとうママ。そうだパパ!約束通り合格祝い。なんかくれるんだよね。」


「そうだな。旅行にするか? それとも新しく出たモデルガンがいいか?」


「う〜ん。そうだなぁ。」


火ノ目は座り込んだまま呆然と三人を見つめていた。


「(人の不幸で平然と飯が食えるのか。)」


火ノ目の目には確かに三匹の妖が映っていた。


しかしそれは閉じた左目ではなく、まだ生きているはずの右目に映っていたのだった。




下り坂にさしかかり風が顔を撫でる。


「左目を閉じても意味はないのだろうか?

人でさえ妖の様に醜い。

右目にさえも奴らが映るこの世界を、僕は認めたくないだけなのではないだろうか。」


「逃げている…か。」


右目も左目もおぞましいモノを映すこの世界。

だがホントに全てが醜かったのだろうか。


花江さんはどうだった?


鏡に映る母親は?


そして又三郎とかいうヘンチクリンな猫は?


「プッ!」


又三郎のゲップ姿を思い出して火ノ目は思わず吹き出してしまった。


何だか笑うことも久しぶりな気がした。



その時だった。


突如として自転車の前に誰かが飛び出してきた。


「(ヤバイ!!)」

ブレーキを掛けながら自転車がどうにか飛び出した人に当たらないように体制を捻る。

そのかいあってか車体はその人からそれたが、その反動は火ノ目の体を空高く打ち上げた。


ガシャーン!!


「これは、死ぬかも……」


生きてきたなかで初めてのアングルで世界をみた火ノ目は、

「(死んだら奴らの所に行くのかな。

出来れば母さんの所が……)


と思いを馳せたのだった。

読んで下さっている方々。

今日もありがとうございます。


アクセスが100を超えたので嬉しくなって、アクセスランキングをみてみたら、ファンタジーの一位って6000なんですね。フフフ。


親戚息子の契約の話は次話で落ちを付ける予定です。(バレバレな気もしますが。)

どうぞよろしくお願いします(._.)

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