第四目 又三郎
火ノ目視点だったのを少し変えてみました。
火ノ目は皿の上にトーストを置くと、バターを塗ってそれを食べ始めた。
向かいの席に座っている猫の事は気にかかるが、早く仕度をせねば学校に遅れてしまう。
「ワシの名は又三郎という。お主を捜しておった。」
そう言って猫は残りの牛乳をゴクゴクと飲み干した。
「なんで?」
パンをかじりながら、火ノ目は問いかける。
害のない奴であることは先程わかったが、何故自分の前に現れたのかははっきりしておきたい。
今までこの部屋の中に奴らが入って来た事はなかった。
知り合いの坊主に札を貰い玄関と窓際に貼っているからだ。
入れない所に入ってきた以上、いわゆる低級なモノではないはずだ。
「頼まれた。お前の母上に。」
「母さんが!?」
母親に頼まれたと聞き、火ノ目は立ち上がる。
この猫は母を知っている。
「牛乳。つげ。」
「……」
期待して損した。
こんなマヌケな奴に話を聞いても仕方ない。
冷蔵庫に戻って牛乳を取り出し、
猫のコップに牛乳を注いでやった。
牛乳をみる猫の丸い目がキラキラと光る。
「…これ飲んだら帰れな。」
「帰る所がない。それにやることがある。」
「何なんだよやることって。母さんに頼まれた事か?」
「そうだ。20年前に雪江と契約した。お主を守ると。」
「僕を?」
「あぁ。お主をだ。」
「何で今ごろなんだ?契約してから20年も経っているぞ。」
「忘れちゃってた。」
「いきなし可愛くなるな!」
「危なかった。この20年の間にうっかりお主が死んでいたら、ワシは契約不履行で消えるとこだった。」
そういって猫は額に拭う仕草をする。
火ノ目は呆れてモノも言えなかった。
「(母さんはなんでこんなのと契約したのか。)」
「まぁいい。僕は学校に行くから。
オマエと遊んでる暇はない。」
「オマエじゃない。又三郎だ。」
「…わかったよ。又三郎。
僕は学校に行く。準備をするから終わるまで邪魔しないでくれ。」
「わかった。」
又三郎をリビングに残して、火ノ目は学校に行く準備を始めた。
会話をしていた制でいつも家を出る時間をとっくに過ぎている。
急がなければ行けない。
「(そういえば、人と話すの久しぶりだったな。まぁアイツは妖怪だけど。)」
歯磨きをして、髭を剃り、
それが済むと次は部屋に戻って服を着替え、眼帯を付ける。
最後にカバンに必要な教材が揃っている事を確認して、
火ノ目は部屋を出る。
リビングには何もいない。
「帰ったのか?」
眼帯を外して確認しようとすると真下で声がした。
「何でそんなもの付ける?」
下を見ると、
又三郎がこちらを見上げていた。
身長は火ノ目の腰の辺り。
クリクリとした丸い目はさっきまでと違い、
何か人の心を貫くような視線を、
火ノ目の左目に集中させている。
「何でそんなものを付ける。」
又三郎がもう一度問いかける。心なしか声にも力がこもっていた。
「何でって…こうしなきゃ色々と危ないからだよ。」
「そんなことで身が守れるのか?あんまり変わらんだろ。」
「そ、そんなこと…」
断言できなかったのは理由があったから。
眼帯を着けても奇妙なことから完全に縁を切れるわけではなかった。
火ノ目は奴らの声を聞くことが出来るからだ。
「認めたくないのか?」
「!」
「ワシらを見たくない。認めたくない。」
「…(そうじゃない)」
「見える様になった自分を。その為に負った罪も。」
「認めたくないのか?」
「…(違う。)」
「ニゲテイル。」
「違うっ!!」
思いが叫びとなってほとばしる。
「そうか…違うならいいんだがな。」
又三郎はそう言うと自分の使ったコップを流し台に持っていった。
「僕は……学校に行く」
そう言うと火ノ目は逃げるように玄関を飛び出した。
読んで下さっている方々。
今日もありがとうございます。
4話目にして、やっと又三郎を登場させることが出来ました。
よかった。
うむ。