表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

第三目 溶けないバター

なかなか進まないよ。

「うん。わかってる。」


「うん。それも大丈夫。」


「うん。じゃあ。」


「あっ。花江さん。」


「その。心配してくれてありがとうございます。」


「はい。じゃあまた。」


プッ…


「ふぅ。」


花江さんは僕の生活についての一通りの心配をしたあと、

最後に

「いってらっしゃい」と言って電話を切った。


彼女は母の姉で花江さん。たらい回しの自分を唯一救い上げてくれた人だ。

あの人が来た時はびっくりした。

いきなり家に入って来たと思ったら僕の手をとって、

「じゃあ行くから!」

といって僕を連れて行こうとした。

呆気にとられている親戚を押し退けるようにして、助手席に僕を乗っけた後で


「アンタ…目が綺麗だね。」


と優しい笑顔でいってくれた。

それから5年程は花江さんのお世話になったが、大学の為にこっちに引っ越すことにした。

そして3ヶ月、僕は一人暮らしをしている。

食パンをトースターにいれ、冷蔵庫から牛乳を取り出す。

グラスに注いだモノをテーブルまで運び、冷蔵庫からバターを出しに戻った。



花江さんとの5年はギクシャクしながらも、

とても温もりに満ちていた。

しかし冷たい仕打ちに慣れきっていた僕は、彼女の優しさが次第に怖く思えてきた。



冷蔵庫からバターをとりだす。

バターは冷たい中でしか形を維持できない。

優しさは怖い。

裏切られるのは痛い。


結局僕は花江さんに全てを話すことは出来ないままここに移った。

でも大丈夫。


「一人で大丈夫。」



「ホントに?」


「あぁ!僕は一人で…」



…寒気がした。


今のは誰が喋った?

いやそんなことよりも、返事を返してしまった。


まずい。


まずいマズイまズいマずイ。

気づかれてしまった。

僕が聞こえるということに。

知られてしまった。僕が彼らを知っているということに。

「ゴクッ。」


唾を飲み下して呼吸を整える。


気づかれた以上振り向くしかない。

左目に意識を集中させ覚悟を決める。


そして僕はゆっくりと後ろを振り返った。




「ミツケタ。」



そこには一匹の猫がテーブルに座って牛乳を飲んでいた。

黒色の毛並に藍色の着物を着て、両手の肉きゅうでコップを抱えている。

そして口元には牛乳で出来た白い髭がしっかり残っていた。


…いや油断しては行けない。

もしかしたら、

これは相手の油断を誘う為の仮の姿かも知れない。

こんなヤツほど牙を剥く。

もしかしたら口から毒を吐くのかも。


「…ゲフッ!…」



ゲップと共に牛乳がキラキラと空中に散った。



僕は……




安堵した

3話まで進みました。

読んで下さっている方。

本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ