第十目 黒雨
まだ書けるさ。きっと…。感想などが欲しいです。できたらお願いします。頑張れます。
「寒いな。」
雨音がパシャパシャと俺の意識をノックする。
黒い雨だ。墨より黒い何かが雨に混じっているようだ。
狂っているのは雨の色だけではなかった。
暗い空には目が1つ。
吹きすさぶ風に地面から生えた腕がたなびいていた。
ああ、これは悪夢に違いない。
幼い頃はよく見たな。
今日もみた。
目の前には誰かが立っている。誰なんだろう? 女のようだが、視界が黒く霞んでよくわからない。邪魔な雨だ。
豪雨の中に立ち尽くしつつ、目を凝らす。
無数の腕の草原に女はじっと立ったまま。肌の色が真っ白なのが、何故か恐い。髪は黒くて長いため、表情すら見ることが出来ない。
「(何なんだろう。何だかあの女、ものすごくヤバイ感じがする。)」
今まで出会ったヤツのなかで、きっとコイツはダントツでヤバい。
体が動くのならいますぐ逃げだしたい。
あの女はヤバい
あの女はヤバい
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
「かぁなぁめ……」
女の口が開いた。
口から漏れた、禍々しい空気が目に見える。
目覚めろ。目覚めろ。早く目覚めないと…死ぬ。
「ヒト…デ…アラズンバ、コロシ…テイイ…ノカエ?」
そっと髪の毛を掬い上げる女。
最悪だと思ったのは、その目が真っ黒だった事。
きっと俺は助からない。
「早く!目覚めろ~~~~~~!」
ソファから飛び上がった火ノ目は、どうやら悪夢が終わった事に気付いた。
意識がはっきりしてくると、汗で体がベッタリとなり息もかなり荒いことがわかる。
「良かった。助かった。」
時計から計算するとどうやら一時間近くも寝ていたようだ。
カタッ
部屋の人影にびくついたが、それは廊下の方からやって来た麗奈だった。
火ノ目が渡したワンピースを着て、手には何故か蛍光灯を持っている。
「火ノ目さん!大丈夫ですか!?又三郎さ~ん!火ノ目さんが起きました。」
「おお。今いく~!」
麗奈が又三郎を呼ぶと、廊下の方から返事がかえってくる。二人で何かをしていたらしい。
火ノ目は自分に何が起こったのかを麗奈に尋ねることにした。
「あのっ、麗奈さん。僕は?」
「あっ、あのですね。お風呂から上がったら火ノ目さんが倒れていて、凄く驚きました。又三郎さんに聞いても、多分大丈夫としか言ってくれないし。」
「(あの後ぶっ倒れたのか。)」
「とりあえず、火ノ目さんをソファに運んでから、私たちは今日の準備をしていました。」
「準備?」
「ええ。又三郎さんに言われて、私は蛍光灯を換えて…あっ、又三郎さん。」
リビングに入ってきた又三郎が、ピョンとソファの上に飛び乗った。左手には、スーパーで買った塩を握っている。
「起きたか?火ノ目。」
「又三郎。」
「痛みも何もないようならば問題ない。切札はお主の物になった。使い方については後で教えてやる。」
「又三郎さん。蛍光灯は全て新しいのに取り換えました。」
「おお!ご苦労様。じゃあ、次はバットに取りかかるかの。」
「麗奈さんが僕を運んでくれたんですか?」
よくわからない会話の隙間をぬって火ノ目が質問する。
「はい。私が運びましたよ。」
「麗奈はな。以外に力持ちじゃぞ。」
やせ形の火ノ目とはいえ、女性にはかなり重かったはずだ。
「お屋敷では、力仕事が多かったですから。お掃除とかよりは大工仕事の方が得意なんです。」笑顔で作られた力コブが麗奈の腕力を物語っていた。
「お主が倒れておる間に、ワシらで敵への準備を進めておいたんじゃ。起きたのならお主も手伝え。」
「襲撃は、今日あるのか?」
「明日ならば、もっと準備が出来るがな。おそらくは今日だろう。」
重い頭を抱えながら作業に取りかかろうとすると、突然麗奈が跳ねた。
「あっ。火ノ目さんお腹空いてませんか?あの後、サンドイッチ作ったんですよ。今持ってきますね。」
「ありがとう。じゃあ、待ってるよ。」
麗奈がキッチンに行ったのを確認して、火ノ目は又三郎に夢の内容を話す。
「変な夢を見てた。」
「黒い雨が降っていたろ?」
「!」
「奴の世界が見えただけだろう。特に問題はない。」
「黒雨ってなんなんだ?」
「女を見らんかったか?それが黒雨じゃ。ワシの昔の相棒で、凶力な妖よ。」
「明らかにヤバい奴だったけど、安全なのか?」
「ああ、普段は封印されているからな。分かったと思うが、奴自身は危険極まりない。」
キッチンの方から麗奈が帰ってきたので火ノ目は話を切り上げた。
黒雨への疑問も尽きぬが、麗奈に心配を掛ける事も避けたい。
「火ノ目さん。お待たせしました。」
トレイを受け取ると、火ノ目はそれを膝の上におき、遅い昼食を取る。
「いだだき……ます?」
麗奈が作ったというサンドイッチは不気味に崩れ、尖った野菜が食パンを突き破っている。
「あれ?(俺、下準備してたよね)」
「麗奈はな。以外と料理が下手くそだ。」
「…ごめんなさい。」
真っ赤になってうつ向いている麗奈に苦笑いを浮かべつつ、火ノ目はサンドイッチに手を伸ばすのだった。