いつから?ってそりゃ大人になったから。
久しぶりの再会。それからの流れは早かった。
小学校が同じだった二個上の先輩。異性ということで思春期を迎えると関わりは減ったけど、それでも小学校低学年の頃毎日のように一緒に帰ってた繋がりはそう簡単に切れることはなかった。
「こうやって君と一緒に飲むの、なんか新鮮だよ」
先輩が生ビールのジョッキを傾けながら私に言う。
「そうですね……。なんか、敬語かタメ口でいいのかわかんなくて困る」
「ああ、全然タメ口でいいよ。小さい頃からの仲だし」
私が知っていた先輩は黒のランドセルを背負うと言うよりは背負われてるような子どもで、二個上なのに私の同級生より小さかった。
でもいま目の前にいるのはガタイが良くて、指も腕も太い"男の子"じゃない"男"。
さりげなく上目遣いをして、さりげなく体を触って、さりげなく奢ってもらって……、そして店を出た。
先輩が男の子じゃない時点で私の動きはテンプレート。
「この後、どうしますか?」
酔っ払った振りで少しふらついて、彼の腕に抱きつく。
「お酒、弱いんだね」
その大きな右手で私の頭を撫でる。左手は振り解く気もなく抱きつかれたまま。
「このままだと心配で君一人で帰せないから家まで送るよ。」
「ほんとですか?ありがとうございます」
いくら小学校が一緒だったとは言え、ただの男。ましてや学年も違う先輩。
いつも通りの流れを完璧に作って甘える。
「でも俺、酔い足りないかも。コンビニでお酒買っていい?君には水買うから。」
そう言ってすぐ近くのコンビニで7%のお酒と水を買ってきた。
プシュと炭酸が抜ける音がして、彼はすぐそれを飲む。
それを横目に私は貰った水を飲む。既に体から抜けきったアルコールと、新しい水分。余計頭が冴えていくけど、少し気付かないことにした。
駅から私の家までは徒歩10分。
街灯も少なければ、人通りもない深夜00:00。
先輩の手に持つ缶チューハイだけがピチャピチャと音を立てる。
「そう言えば、引っ越したんだね。」
「ああ、私、一人暮らし始めたんです。」
「そう言うことか。」
未だ腕は組んだまま。
「そのお酒、美味しい?」
「ああ、これ?うん、それなりに。」
飲みたい。そう言うと彼は少し驚きながら笑った。
「一口だけだぞ」
彼は缶チューハイを渡してこようとしたけれど、私の右手は彼の腕にあるし左手には水を持っている。
「あ、水持つから頂戴。」
腕離しなよ、とは言われない。お互いわかってるのだ、これを離したら次繋ぐタイミングと言い訳がないことを。
「やだ。先輩が飲ませて。」
頭を彼の肩に擦り付ける。彼は缶を口に近づける。
「それじゃあうまく飲めないよ。」
彼の目を見て言う。わがままだなあ、どうすればいいのさって困ったように彼は笑う。
「お家、ついちゃったよ。」
家の目の前に着いて尚、離さない腕。
「お酒飲みなおす?」
彼が言う。
「口移しじゃないと飲めないもん」
私が言う。
家の鍵を開けて彼を招き入れて、そしてそのまま口でお酒を飲ませてもらう。
「うん、それなりに美味しいですね。」
彼から飲ませて貰ったお酒の味は本当はもうよく分からなかったけど笑った。
「君、いつからそんな子になったの」
もう一度キスをしながら、玄関の壁に押し付けられながら彼は言った。
しまった。まだ少し"男の子"だったんだ。