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お題4:「花なんか別に好きじゃなかった」で始まり「焼きすぎたパンは、苦いのにやたら美味しかった」で終わります。

 「花なんか別に好きじゃなかった」


今日は、メアリーの誕生日。彼女は渡した花を地面に叩きつけて、そして涙目で言った……


 俺の名前はブロイ、パンの店 モーニンググローと言えば、この界隈では有名な店であり、俺の家だ。修行中の俺は、あまり焼かせてもらえないけれど。


いつか、皆が美味しくて思わず笑ってしまうようなパンを焼きたいと思ってる。


 メアリーの大好きな月光草を誕生日に花束にして送ろうと、俺は月光草を採取するために森に入ったんだ。


森の奥のちょと開けた所、月の光が届くような場所の岩場に月光草は生えている。


その生命力は、岩の割れ目に生えた時は、岩を割って生えてくる程強いのだ。


 ちょくちょく摘みに来ているが、今回は低い位置に月光草は生えておらず、数メートル上に生えていた。俺は、体にロープを巻き付け、上から月光草を採ることにする。


大丈夫、慣れている行程だ。

 ちょっとだけ、いつもより遠い。指先が掠める位だ、もう少し……もう少しで届く……指が月光草に届き、何とか採取した瞬間……「……あっ」俺は、落ちた。


 岩場から、ぶら下がった影がゆらゆらと揺れて見える。

意識を失っているのか身じろぎもしない

少しして、パラパラ降ってくる小石が頭に当たって、その物体は、動き始める。


「痛たっ…… そか落ちたのか。腕は右は大丈夫。左は…… 痛っ!動かせないか…… 足は…… 両方とも痛いけど動く。ウェッ…… 脇腹の骨が痛い。月光草は…… 掴んだままか、何とか懐に……」


 ブロイは見える範囲で周りをみる。完全にぶら下がった状態。

足は届かない。片腕では体が持ち上げられない。これだけ揺れていると…… ロープもつだろうか……


 「こりゃあ、まいった。気絶してれば良かったよ……誰か来てくれないかな…… しかし、ちょっと寒く感じるな……」


と震える。


 狼の遠吠えが聞こえたと思ったら、あっという間に下に集まってきた。唸り声を上げて、時々飛び付いてくる。幸い俺までは届かないけどこれでは眠れない。


 俺、朝まで持つかなぁっと他人事のように考えつつ、カラカラになった喉を潤すために水を一口飲んだ。



《無明都市》

 今日俺が受けた救出依頼は、緊急性が高い物だった。昨日森に入った少年がまだ帰っていないと言う物だった。もし、動けなくなって居れば動物に襲われるかもしれない。


 「取り敢えず必要なモノは揃った。パン屋と、メアリーの話だと恐らく月光草の群生地になっている岩場だ。森中数百m位の位置にあるらしい。まずそこに向かおう。」


「わかった。じゃあ、僕が先頭を行くからリーナは着いてきて。」


俺は、頷くと直ぐになたで道を切り開いて進んでいくアリアを後ろから追いかけた。


現地に到着した時に、近場から狼の唸り声が聞こえた。

狼5頭の小さな群れが岩場から釣り下がっている物を狙って唸り声をあげている。


 俺は、アリアに合図を出すとショートボウを構えた。

アリアは、ガントレットに搭載された投石ユニットを構える。目配せをして、同時に弾丸を発射した。

 

 狼が振り向いた瞬間一頭が爆散し、もう一頭の目を矢が貫く同時にアリアが、ガントレットのコックを引きながら突撃する。


「うおりゃぁ」気合いを入れた叫びと共に、鉄塊のような籠手の肘が展開し、ゴオォォォっと轟音と炎を上げて狼に迫る。狼は、岩場に叩きつけられグシャッと音がして潰れる。アリアが返り血で染まる。


そのまま振り向き様に鉄塊を振る。後ろから飛び掛かった狼が弾き飛ばされる。


 リーナシアは岩場を裏から登っていた。


「……くそっ重い」


ぶら下がってる救出対象を引き上げる。


「冷えすぎてる。左腕が折れてるか……」毛布をかけ、左腕を固定する。他の傷は取り敢えず……肋骨折れてそうだな。布を折れてる側に宛てて固定する。


 そうこうしてる間に下での戦闘が終わる。返り血を浴びたアリアが満面の笑みで手を振っている。うん、怖い。思わず苦笑いをしてしまう。


背負子を造り、救出対象を背負う。


「帰りも頼んだ。俺は、暴れられないから宜しくな」


そうして、何事もなくアリアと俺は無明都市に戻る事が出来たのだった。


 救出されて都市に戻った俺は、朦朧とした意識の中一輪だけ採取出来た月光草をメアリーに手渡した。


メアリーは


「花なんか別に好きじゃなかった」


彼女は渡した花を地面に叩きつけて、そして涙目で言った……。


「バカっ!花の為にブロイを失なう所だった。あなたが無事で笑顔である事が大事なの!無理をして死んだらどうするのよ!」


と言って泣き出してしまった。


あぁ、こういうとき俺は、どうすれば良いか判らない。悩んだまま意識を手放してしまった。


数ヵ月が経ち傷が治り、親方に頭を下げてパンを焼かせてもらった。

焼き上がったパンはお世辞にも上出来とは言えず、焼きすぎて、黒く固いパンになってしまった。


 俺は、メアリーの所に少し焼きすぎて焦げたパンを持って向かう。

中央広場のベンチで待ち合わせだ。


「あの時はごめん、心配かけちまったよな。今現在俺が出来る精一杯のお詫びだよ。」


と言ってメアリーに手紙とパンの入った篭を渡す。メアリーは、微笑んで受け取り


「仕方ない人ね。良いわ、一緒に食べましょ?」


と言ってパンを二人で分ける。そうして食べたパンは、

「焼きすぎたパンは、苦いのにやたら美味しかった」のだった。

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