お題2:「誰かに会いたいと思うなんていつぶりだろうか」で始まり「腹が立ったから、脇腹をつついてやった」で終わります。
「誰かに会いたいと思うなんていつぶりだろうか」
幼い頃は家族や村の住人達に守られて、温もりと優しい空気に包まれて、頭を撫でられる心地好い感触が僕は大好きだった。
懐かしいその感触は気付いたら、あっという間に消えてなくなってしまった。
きっと、これは夢の中なのだろう。
もう二度と会うことのないであろう人々が、普通の日常を暮らしている。
数年前にモンスターの襲撃により壊滅したフォースコロニーが、僕たちの生まれ故郷だ。
かって、子供だったリーナと僕は、毎日のように泥だらけになって遊んでいた。
今とあまり変わらないが、お転婆だった僕は、境界線を出てみようとリーナを誘った。臆病者なリーナはいつものごとく涙目で
「アリア姉ちゃん危ないからやめておこうよ」
とか言っている。結局は服の裾を握って着いてくるのだけれど。
そして、村の境界線を出た僕たちを待っていたのは、餌を探してさ迷っていたトロールだった。
先に見つける事が出来たのは、ある意味不幸だったのかもしれない。
恐怖の中そっと、逃げようとした、その時、バキッと音がなった。
トロールが此方を見て歯を剥き出しにして嗤い、
獲物を見つけた顔で吠えながら走りだした。
逃げる途中リーナが転び、庇うために戻る。
トロールの持つこん棒が振り上げられる。
そこからは正確には覚えてない。
こん棒を手の平で受け止めて握りつぶして、慌てるトロールの膝を触ったのは覚えている。
気付いたら、僕の両手が血塗れで倒れているトロールの頭と片足が無くなってる。
周りを見渡すと遠くに足のようなものが落ちている。
リーナがギャンギャン泣いてる。怖かったね。もう大丈夫だよっとリーナを抱き締めてやる。暖かい体温に安心した僕の視界がホワイトアウトしていく……
………
狭い閉じ込められた暗闇の中で、アリアは目覚めた。
あれ?おかしいぞ。仲間がいない。
確かリーナがギャンギャン泣いてた筈だ。
いや、夢と現実がきっと混ざってる。落ち着けっと頭を振る。
辛うじてカンテラの灯りが周囲の光景を浮かばせる。
バックパック一個が、僕の近くに置いてある。
……置いて行かれたのか?っと頭に一瞬よぎる…
……馬鹿なっリーナは、僕を絶対に裏切らない。
置いてくことなんて無い。
少しパニックになりかけた頭で考える。
冷静にならねば……
何処かに何か書いておいている筈。
周囲を探すと、バックパックの下敷きになっていた羊皮紙に
取り敢えず囮になり、敵を遠ざける事。
死ぬ気はない事し、考えがある事が書いてあった。
先に目覚めたら、注意しつつ出口に向かって欲しいとも。
成功したら、一度ここに戻るつもりとも。
心臓の音が大きくなり、一瞬眩暈がして、額に手を当てる。
冷静になれ。ここでパニックになったら、全部意味がなくなる。
バックパックの中身を調べる。数日分の食料がまだ残っているのを確認。
1日だけ、待機することにする。
少しだけ戻って来れるのか不安になる。
正直、僕からするとリーナはできの悪い弟分だ。
生意気で、泣き虫で、むかつく、可愛げの無い態度。
でも、失うのは、嫌である。
そんな事を考えていると、ガチャっと言う音を立てて
扉が開く。
緊張が走る。何故ならば入ってくるのが仲間とは限らないから。
扉からヒョコッっとリーナの顔が出てくる。
全身泥まみれのリーナは、「アリアまだ居たのか。ただいま」っと笑って言った。
緊張した僕は思わず力が抜ける。
「ただいまじゃ無いよ。この馬鹿がっ」
そして、その笑顔を見て安心したのと共に何故か凄く
腹が立ったから、脇腹をつついてやった。