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魔力文字【後編】


「では今から魔力文字の使い方を教えよう」

「……(コクコク)」

「光の魔力の応用と思われるかもしれないが、これは特に属性が定まっているわけではない」

「!」

「必要なのは純粋な『魔力』のみ。量は一定量。大した量は不要だ。魔力とは元々人の目には光って見えるものでね、その特性を応用して指先で魔力を集め、このように指先の形に維持して……」

「!」

「分かったかい?」

「すごい……。で、でも、どうして杖で、描いてない、のに、指先だけ、で……文字が、か、描ける、ですか」


 地面に描かれた丸い円。

 見上げると、やはりどこか楽しそう。


「逆に聞くが、君はなんで杖でなければ魔法陣は描けないと思っているんだい?」

「え、え……」

「僕はそれには、さっき君が持ってきてくれたこの魔石が関係していると思っている」

「!」


 差し出されたのは先程のエヤミモンスターが落とした魔石。

 これが、魔法陣を描くのと関わりがある?

 じっと見付めるとクスリと笑われた。


「この世界の魔石は先程も言った通り『高純度の魔力凝縮結晶体』だ。これを砕いて武器に使用すると、この結晶の力で今僕がやった魔力文字のようなものが簡単に書ける」

「!」

「しかし、きっと使用し続ければ劣化なり消費なりされて消えてしまうんじゃないのかい?」

「……!(コクコク)」


 頷く。

 その通りだ。

 魔石結晶不使用の武器はもちろん存在する。

 剣や、槍や、弓などの物理攻撃で十分戦えるものだ。

 だが杖はそうはいかない。

 杖だけは必ず魔石結晶が使われている。

 杖で魔法陣を描くからだ。

 こちらは粉末化したものではなく結晶そのものが杖に埋め込まれている事が多い。

 しかし、魔石は魔法陣を描き続けると縮んでいき、最後は消滅する。

 これについては、誰も理由が分からなかった。


「まあ、当たり前だね。これは高純度の凝縮された魔力が固形物になっただけのものだから。使えばなくなる」

「…………」


 そういう理由だったのか、と納得した。

 魔石は消耗品。

 オディプスに魔石を手渡され、この魔石が水色なのを見付めてふと……。


「そ、そらなら、魔石、に……属性、があるの……は……」

「まあ、先程のモンスターを見るにモンスター属性に引っ張られた魔力が凝縮したのだろう。それでその魔石は『水属性』なんだ。杖に使用する場合、水属性の魔法と相性がすごぶるいいだろうね」

「…………」

「まあ、つまりだ。魔力文字は魔力で描く。そして、魔法陣とは魔力文字で描く。となれば、なにも魔石に頼らなくとも『凝縮』『固定』を覚えれば誰でも魔力文字を扱えるという事だ。分かるかな?」

「は、はい」


 その瞬間、胸が確かに高鳴った。

 魔力で文字が描ける。

 そして、それで魔法陣を描ければ……杖は必要ない。

 現段階で杖も買う金もないミクルにとってはとてもありがたい事だ。

 同時に急いた気持ちにもなる。

 早くワイズたちを追い掛けたい。

 けれど……追い掛ける為に瞬歩を使えるようにならねばならない。

 それなら、自分が今しなければならないのは魔力文字を覚える事。


「魔力とは何か、という、大変にシンプルな疑問については後日にしよう。君も少し心が焦れているようだし、ゆっくり教える機会があればその時に」

「は、はい」

「では魔力文字についてだ。魔力文字は属性が付加する前、あるいは後の魔力を『収集』『凝縮』『固定』して使用する。これは魔法の基礎でもある。使えないようでは話にならない」

「…………」

「恐らく君たちが使う杖はすでに『収集』『凝縮』『固定』された魔力の塊である、この魔石を用いて魔法を使うのだろう。僕の使う魔法についても興味があるなら今度教えてあげる」

「は、はい」


 ぜひ、と頷く。

 でもそれは、四人に追い付いた後で構わない。

 とにかく今は、瞬歩を覚えたい。


「…………えと、あの……と、いう事は、魔法って、おれ、たち……かなり、手を抜いて、使って、た、という、事……でしょうか……」

「そうだね」


 さらりと肯定されてしまった。

 微妙にショックを受けるミクル。


「念じれば使えるようなものだと思っていたのなら大間違いだ。この肯定の為にはまず、使用する魔法に必要な『魔力量』も確保しなければならないのだから」

「……ま、魔力量」

「そう。僕の世界では集められる魔力には自動的に『属性』が付加されるが、恐らくこの世界ではそれがないのだろう。だから魔力は自由に集められる。自由に集められる魔力を僕の世界では『自然魔力』と呼ぶ」

「……し、自然魔力」

「自然に溶けて存在する魔力の事だ。それ以外には魔石に封じられた魔力、そして、自身の体内に溜め込まれる『体内魔力』だね」

「……た、体内魔力……」

「人間の場合体内に溜め込める魔力量が極端に少ない。ので、そのほとんどは自然魔力に頼る事になる。まずは自然に存在する魔力を『収集』、集めるところからだ。魔道士見習いとして魔法に携わってきたなら恐らく難しくはないだろう。やってごらん」

「は、はい……」


 辺りの魔力を感じ取り、それを集める。

 確かに、それは魔法を使うなら基礎だ。

 指先に集中して、魔力を集める。

 するとすぐに魔力が弾け飛びそうになった。


(こて、い……!)


 それを阻むように念じる。

 しかし、オディプスに「凝縮の過程を忘れているよ。もう一度最初から」と言われてしまう。

 ハッとする。

 いつの間にか、目を閉じていた。


「悪くはないね。もう一度」

「は、はい」


 目を閉じる。

 すると、目を開くように言われた。

 見上げると「収集した魔力量を感じ取れるのなら話は別だが、視認した方が凝縮の過程に移りやすいだろう」と指摘される。

 確かにその通りだろう。

 今度は目を開けたまま、集中する。


(あつ、まれ……)


 周囲が渦巻く。

 透明な渦が指先に集中していくと、指先から光が溢れ出す。


「凝縮して、もっと」

「……」


 これが『凝縮』。

 なるほど、凝縮する事で魔力は光を放つようになる。


「そのまま固定」

「…………」


 集めるのを停止して、魔力が散らばらないように個体する。

 これが、固定。


「うん、上手い。これで魔法陣を描く。ちなみに、詠唱はこの『収集』を主な目的としているのは知っている?」

「…………し、しら、なかった……」

「本当? ふーん? まあいい、瞬歩の魔法陣はこう。あまり大きくなくていい。空間固定系の意味を持つ文字と、移動時の身体への負荷を無効化する文字、それから、魔力を循環させこれらの文字を一つに統合し制御する……」

「…………」


 描き方を教わり、丸い円の中にそれらの意味合いがある絵や文字を追加していく。

 これらを円で囲む事で、文字の効果を外へ逃さず固定化出来る。

 そして、魔力の循環機能も同時に果たすのだという。

 必要な魔力量は移動距離と使用者の体格などにもよるらしいが、それらは自動計算機能を魔法陣に組み込む事で術者がわざわざ計算する必要を省く。


(…………すご、すぎて……)


 呆気にとられる。

 もう、本当にレベルが違う。


「うん、上手く描けている。この魔法陣は一度覚えれば魔法陣は自然に形となって描けるようになる。自動習得機能を組み込んであるからね。数回使って覚えれば、あとは詠唱に魔法陣の形成も組み込まれるから簡単だよ」

「そ、そ、そんな事……で、出来る、の⁉︎」

「もちろん。そうでなければ魔法は小難しくて衰退するだろう? この程度の簡単な魔法ならば、詠唱に描き方も組み込んでしまうのは難しくもないしね」

「…………」

「さあ、使ってごらん。とりあえずあの辺りまで」

「!」


 魔法陣を維持するのは難しくはない。

 しかし、あまりにも長時間使わずに維持するとさすがに精神的にも負担だった。

 教わった詠唱は短いので、とにかく実践してみる。

 指差されたのは先程スライムが出現した場所の付近。


「あ、か、風よ、汝の力を我に貸し与えよ」


 ヒュウ、と風がミクルの体を包み込む。

 景色が動く。

 そう、景色の方が動いた。

 そんな感覚。


「!」

「上手い上手い。まあ、魔法の中では初級中の初級。簡単だろう?」

「…………」


 気が付けば木の根元ではなく、街道の真ん中に立っていた。

 そして、真横に瞬間移動でもしてきたようにオディプスが現れる。

 効果が継続する間は、何度でもこの瞬間移動のような魔法が使えるらしい。


「さあ、行こうか。急ぐんだろう?」

「は、はっ……はい!」



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