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試練【4】


 あれは核がない。

 ならば核を与えれば良い。


「わあっ!」

「いきなり爆発したよ!?」

「っ! ワイズ、リズ! 階段に来て!」

「きゃ! わあっ!? っ、む、むり! 近付けない!」


 ワイズとリズの足下が爆発し始める。

 スモークゴーレムが霧状になり、二人の足下を狙って爆発を起こしているのだ。


「!」


 しかもそれだけではなく、スモークゴーレムがワイズたちを攻撃すると、吹き溜りに『悪いもの』が溜まり始める。

 あれは、まずい。

 あのままではまた瘴気になる。


「どうしよう……! 敵の姿が見えないと、弓矢で攻撃なんて出来ない!」

「任せて!」

「エリン!?」

「ワイズ! リズ! 手を繋いでジャンプして!」


 エリンが叫ぶ。

 ワイズとリズがハッとして、なんとか距離を詰めた。

 その間も、まるで姉妹を引き離さんとするように足下が爆発し続ける。

 小規模、姉妹が身体強化しているとはいえ……あの連続攻撃は体力が削られてしまう。

 ミクルは魔法陣を展開していて、助けられる状況ではない。


(瘴気を、抑える……吸収して、魔石に……変える……もう、少し……!)


 同時に複数の魔法を使う。

 無理ではない。

 だが、瘴気を無属性魔力に変換して更に魔石へと生成するのは集中力もさる事ながら、特殊な『凝縮』が必要。


「リズ! 今!」

「お姉ちゃん!」


 その時、ワイズとリズが互いに向かって手を伸ばしながらジャンプする。

 エリンがその瞬間を狙って球体の結界を捻り出す。


「「!」」

「やった! あれなら爆発から二人を守れるわ! エリン、すごい!」

「上手く、いった……!」



 球体結界はここに来た時に教えた魔法の一つ。

 早速実戦で使えるとは、エリンの光属性の才能が、遺憾なく発揮されている。

 しかし安心は出来ない。

 二人が浮かんだ球体結界に守られた為か、霧散していたスモークゴーレムは姿を現す。


(今だ!)


 魔石が物質と化した。

 と、同時に複数の魔法陣を組み立てる。

 一箇所を重ね合わせてリンクさせ、あの空間を固定。

 スモークゴーレムの体を霧散しないよう、魔力でコーティング。

 作り上げた魔石をスモークゴーレムの体内に転移させて、核とするように『接続』させる。


(瘴気発生後、全ての瘴気を毒素分解後、核へと吸収、凝縮。霧散停止。物理攻撃への耐性を無効化……ちっ、無理……なら、耐性減、魔法耐性を減、魔石への魔力流動、凝縮……よし、これで『吹き溜り』から得た魔力を全て魔石に流せる。……っ!)


 限界だ。

 ここまでやってスモークゴーレムが自ら動き始める。

 もっと弱体化させる事が出来ると思ったのに、それよりも前に『吹き溜り』から魔力を一気に吸い上げて巨大化していく。


(読まれていた!? オディプスさんは、おれが、こうするの、分かっていた……!? ……っ……!)


 あれはオディプスの作った人工のモンスター。

 ミクルの戦略を読んでいなければ、モンスターがミクルの魔法拘束を破る事は不可能だろう。

 事前に組み込まれていた、と考えるのが自然。

 しかし、ミクルが施した『霧散防止』や『瘴気の魔石化』に対する無効化は行われていない。

 つまり、倒し方としては「それでいいんじゃない?」と言いたいのだろう。

 まさに前部お見通し、と言わんばかり。

 悔しいが、『吹き溜り』からの魔力供給や『物理攻撃耐性減』『魔法耐性減』などは阻まれた。

 この状態のスモークゴーレムを『五人で協力した戦略』で倒せ、という事。


(でも、『吹き溜り』からの魔力供給がある限り……スモークゴーレムは、強く、なり続ける……!)


 エリンの結界が割れる。

 上手く着地したワイズとリズが、自身に強化魔法を再び施して剣に魔力を通す。


「ミクル、今どうなってるの!?」

「霧散、しなくした!」

「本当!? つまりもう逃げ隠れ出来なくなってるのね!? よーし! 袋叩きにしてやるわよ! リズ!」

「うん! お姉ちゃん!」


 もうやる気満々のワイズ。

 白い炎を剣に纏わせ、スモークゴーレムの腕を目掛けて斬りかかる。


「私たちも援護しよう、エリン!」

「うん」

「……おれも……!」


 ミクルも、ワイズとリズがスモークゴーレムから離れたところを魔法で攻撃する。

 霧散化出来なくなったスモークゴーレムは、姿形が視認出来るようになった分攻撃は当てやすい。

 しかし、頭上の赤い棒は先程からほとんど削れていなかった。

 あれがスモークゴーレムの体力的なものの現れである事は、先程の二体で分かっている。

 それがほとんど変化しない。

 ワイズが右に回り込み、素早く五連撃を入れた時ですら、削れたのは数センチ程度。


「なんなのこいつ、硬すぎる……!」

「あれじゃワイズとリズの体力が保たないわ……! っ、私がデカいのを入れる! みんな、時間稼ぎをお願い!」

「「「分かった!」」」


 ユエンズがミクルの教えた魔法技を使う態勢に入る。


「遍くもの。海、空、風、土、石、炎、熱、命。無から有へ、有から無へ。めぐり、めぐる。種から木へ。木から葉へ。葉から花へ。花から実。実から種へ……そこに宿る息吹よ、我らに宿て、神秘の力を貸し与えよ! フル・ハイ・ル・オールアップ! 大いなる魔力よ、根源よ。人の持つ可能性、本来の力を引き出せ! 全身強化(オールヒートアップ)!」

「! ミクル……ありがとう!」

「まだ、上げる……」

「え?」


 恐らくこれだけの強化でもあのスモークゴーレムは倒れない。

 だから──


筋力強化(マッスルアップ)貫通力上昇(ペネトゥリーアップ)威力上昇(パワードアップ)的中率上昇(クリティカルアップ)技力上昇(スキルアップ)……!」

「ひゃ、わ、わっ、わ!」

「ユエンズ、集中して!」

「は、はい!」

攻撃力上昇(アタックアップ)破壊力上昇(デストロイアップ)魔力上昇(マジックアップ)自動回復(オートヒール)……」

「あ、あ、上げすぎじゃない〜!?」

巨大化(ギガント)!」

「ひゃああああぁぁ!?」


 彼女自身が持っている弓矢の大きさは変わらないが、彼女の前方に現れたそれは魔力の塊。

 ワイズとリズもそれには驚いて口を開ける。


「エリン、やつを固定して!」

「えええっ! ど、どうやるの〜!?」

「あいつの左右と、後ろに、結界を張るの!」

「わ、分かったけど、で、出来なかったらごめーん!」

「おれも、手伝う……!」


 スモークゴーレムの体を包むように結界を作り、逃げられないようにする。

 その上で、魔力を貯めたユエンズの弓矢がスモークゴーレムへと向けられた。

 これで外すはずがない状況。


(これでも、倒れなかったら……)


 その時の戦略も考え始める。

 しかし、出来ればこれで終わって欲しい。

 これで倒せなかったら、正直ミクルもどうやって倒せばいいのか分からなかった。


(これで、倒れろ──!)


「聖なる風よ、悪しきものを貫け! シルフ・ウィンドアロー!」



 特大の魔力がたっぷり込められた矢が放たれる。

 動けないスモークゴーレムのど真ん中にヒットしたその矢が、轟音と輝きを放ちながらその身を抉っていく。


 ……はずだった。


「嘘でしょ……!」

「はわわ〜……!」


 前衛の姉妹が驚愕の声を上げる。

 舞い上がった砂埃と光の残滓が薄れる中、スモークゴーレムの頭上に横たわる赤棒は半分程──残っていた。


(半分……しか……)


 あれで、半分。

 今も『吹き溜り』から魔力を得ているスモークゴーレム。

 霧状の体は、ユエンズの技を受けて僅かに霧散している。

 しかし、『霧散化停止』によりゆっくり体の再生が始まっているところだった。


「…………も、っう、一回……っ!」

「ダメだ!」

「ユエンズ、無理しちゃダメよ!」

「っ……」


 今の技はユエンズの体内魔力をかなり消費している。

 この世界の人間は自身の体内魔力を消費して魔法を使うからだ。

 ミクルが自然魔力を集めて強化を重ね掛けしたが、またすぐに同じように撃てるものではない。

 無理すれば体が動かなくなり、体の魔力が足りなくなって眠ってしまう。

 こんな場所で寝てしまうなど危険極まりない。

 エリンがしゃがみ込んだユエンズを支える。


「くっ……!」

「なら、お姉ちゃん! アタシが……!」

「二人とも! 距離をとって! 動くよ!」

「「!」」


 まだ体の中心部は穴が空いたままだ。

 だがその状況のままでも気体であるスモークゴーレムは難なく動ける。

 両腕を持ち上げ、勢いよく振り下ろす。

 姉妹が避ける。

 怪我はないが、スモークゴーレムの腕がえぐった床の破片が二人を追撃した。


「っ! 癒しの光よ、かの者たちに慈悲を! ヒーリングルーム!」


 エリンがすかさず二人の怪我を癒す。

 しかし、前衛として動き回る姉妹の体力は削られていく。

 ユエンズの最大強化した弓矢でも、あれしか削る事が出来なかった。

 となれば、次はミクルが中級の魔法を更に強化してぶつけるしかないだろう。


(でも……)


 今、こうしている間も部屋の四方にある『吹き溜り』から魔力を取り込むスモークゴーレム。

 ミクルが自然魔力魔力と『吹き溜り』からの魔力を集めても、あのスモークゴーレムを破壊するに至るかどうか。

 もっと強い力が必要なのではないのか?

 厄介なのはやはりあの『吹き溜り』だ。

 あの膨大な魔力の『吹き溜り』が四ヶ所もある為、自然魔力もあちらに取り込まれ続けている。


(オディプスさん、『吹き溜り』、作ったの、か? どうやって、作るんだ、あんな……もの……)


 全く以って普通ではない。

 幼馴染たちではないが、本当にまるで『魔王』──……。


「………………」


 魔力の『吹き溜り』を、作った?

 作ったのだろう、この建物を作ったのもの人だ。

 逆に考えて、『吹き溜り』が()()()


(『吹き溜り』すら、人工物……だと、したら……)


 ぼんやりとしていた、あらゆるものが再構築されていく。

 バラバラだったもの。

 まだ繋がっていなかった点と点。


「…………」


 声が、出なくなる。

 愕然とした。

 それまでの考えでさえ、おぞましいと思っていたのに。


(オディプスさんは、おれに、これを……伝えようとしたの、かな……)


 世界がとても遠く感じる。

 魔の道を究めた者が、そんな結末を迎えるとしても……君は進む?

 そう問い掛けているのだろうか。



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