試練【3】
(ダメだ、気を取られるな。集中しろ……体の中に溜める魔力は、おれ、オディプスさんと違って、凡人レベル……多くない……から、使い果たして、倒れたら困る)
体の中の魔力は使い果たせば動けなくなるものだと言う。
だからオディプスの世界の人間は自然魔力に依存するのだ。
この世界も自然魔力が豊富なので、体の中の魔力に頼るよりは自然魔力に頼った方がいいと言われた。
もしくは──魔石。
(……そうか、魔石……下の奴と戦う時に、コツコツ作っておいた魔石を使おう。……でもあんまり使いすぎたら、また作るの大変……うーん?)
ようやく魔石の作り方に粗が少なくなってきたところだ。
これからもっと凝縮し、大きな魔石作りにチャレンジしていきたいと思う。
「!」
体の中に魔力が満ちる。
よし、と立ち上がると、広間の戦いはそろそろ終わろうとしていた。
リズがかき回し、ワイズが隙を見て攻撃を繰り返し、ユエンズが決定打を打つ。
その戦い方にミクルの教えた身体強化や武器魔法が加わり、ワイズ達の戦い方が少しだけ変化していた。
それは主に、エリンの補助と防御魔法。
それによりリズはより素早く、ワイズはより大きく強い攻撃が出せるようになった。
ミクルがいない間、コンビネーションも上がっている。
(やっぱり、ワイズ達は、すごい……。もう、覚えて使いこなしてる……)
オディプスに学んだものは四つの工程が必要だ。
それらをもう、あれほど使いこなしているとは……。
もっと時間がかかると思っていたが、杞憂だったらしい。
「これでとどめよ! 食らえ! 新技! 紅蓮の炎よ、我が剣に宿りて燃やし尽くせ! フレイムソード!」
ワイズが剣に真紅の炎を灯す。
急速に大きくなった炎は、あっという間にワイズの身長を超す。
それを、振り下ろした!
『!』
断末魔もなく、スモークゴーレムは霧散する。
頭の赤い棒が消えると同時に、下へ続く階段への扉も開いた。
いえーい、と手を叩くワイズとリズ。
怪我もなく、余裕と言わんばかり。
「ふう、思ったより時間はかかったわね……」
「でも、誰も怪我してないわよ! エリンとユエンズのサポート完璧だったからじゃない!?」
「うんうん! お姉ちゃんとワタシも一気に強くなったんじゃない? って感じ! 魔法って使い方を変えただけでこんなに強くなれるんだね〜!」
主にオディプスの作った強化魔法がすごいのであって、この世界の強化魔法がヘボすぎたのだが。
それは、あえて言わない。
この世界の魔法は自然魔力にほとんど頼らないやり方。
自然魔力を取り入れるようにしただけにすぎないのだ。
「ミクルも、もう体は大丈夫なの?」
「うん。元々、怪我、して、ないし」
ユエンズは相変わらず心配性。
その心配は階段を降りた後、遺憾なく発揮して欲しい。
もちろんそれはそれで可哀想なので、休んでいる間に考えた作戦を歩きながら四人に伝えた。
上手くいくかは分からない。
しかし、なんの対策もせず勝てる敵ではないのだ。
「ミクルがそこまで言うなんて……」
「気を抜かずに挑みましょう! 特にワイズとリズは、すぐ調子に乗るんだから、気を付けるのよ!」
「「は、はーい」」
階段への扉を潜る。
瞬時におふざけ空気は凍り付いた。
瘴気が渦巻いていたのだ。
「ちょっ」
エリンが咄嗟に口を覆う。
その反応は正しい。
もちろん、ここまで立ち上っているわけではないが、しかしそれでも、これは凶悪だ。
想像以上にやってくれる。
「…………っ」
部屋の四方には『吹き溜り』がある。
なるほど、それによってこの層のスモークゴーレムはどんどん強さを増していたのか。
納得である。
しかし、そうなると別な問題が出てくるわけだ。
「ど、どうするのこれ! 瘴気出てるよ!?」
「無理だよこれぇ! 瘴気吸ったら病気になるんでしょ〜!?」
「ミクル……」
「マジありえなくない? ミクルの師匠、吹き溜りまで作れるの?」
「…………」
そう、近付けない。
エリンやミクルの結界はその場所に作るもの。
人間に纏わせるものではない。
(纏わせる結界を作る? ど、どんな原理で? 光属性と、耐毒、耐病、解毒……いや、それプラス身体強化も使わなきゃいけないから……それに、それを組み立てる間にもスモークゴーレムは強くなってる、し……)
うーん、と頭を悩ませた結果、ポン、と手を叩く。
「魔石、作る……!」
「「「「は?」」」」
そうだ、魔石にすれば良いのだ。
そもそも吹き溜りとはあまり良くない魔力の溜まり場。
そのあまり良くないものが疫病の素……瘴気となって立ち込めている。
そのあまり良くないものを固めてしまえばいい。
「ちょっと、待ってて……すぐに……作る……」
指先に魔力を集め、魔法陣を描く。
魔石を作るようになり、日々研究してきた……効率の良い、そしてより大きく魔力の濃縮された魔石を──!
(瘴気の毒素を抽出、魔力に変換、無属性の、ただの魔力にする……それを、魔石に生成……!)
なんて事はない。
ミクルがこれまで観測所で生活してきた中で、培った事を実践すれば良いだけだった。
汚物を魔力に。
魔力を生活に必要な物に。
──魔石に。
「! 瘴気が!」
「ミクル、本当に大丈夫なの!?」
エリンとユエンズの声。
それもそうだろう、ミクルの展開させた魔法陣に吸い込まれていくのは瘴気だ。
しかし、それらは魔法陣を通過すると毒素が分解されて『ただの魔力』になる。
全てのものは魔力に変える事が出来るし、逆も然り。
問題は吹き溜り。
魔力の流れが出来ていて、瘴気を取り除く事しか出来ない。
(なんて、濃厚で、重圧……これが、吹き溜り……)
この世界の魔力は『魔王クリシドール』によって疫病を多分に含む。
それ自体は、ほとんど嘘に等しい。
だが吹き溜りには瘴気やエヤミモンスターになるような、疫病の素が集まりやすいのだ。
そしてその吹き溜りはミクルが思っていた以上に、強い魔力の塊。
ぐるぐるうねり、手が出せない。
(吹き溜りは、放置……!)
そこからスモークゴーレムが魔力を得ていそうだが、回転に弾かれて吹き溜りそのものは放置するしかなかった。
まずはあのスモークゴーレムと戦える舞台を整える。
それが、最優先だ。
「…………瘴気が消えていく!」
「本当だ!」
立ち込めていた瘴気を根こそぎ吸収。
魔石へと変換生成。
「おわり」
ぽと、とミクルの手元に落ちてきたのは無色透明な魔石。
やはり無属性の魔石にすると、あまり大きく、そして凝縮も出来ない。
「は? はぁ!?」
驚いた声を上げたのはユエンズ。
なにもないところから魔石が出てきたのが、余程信じられないのだろう。
「なにそれ! なにそれ!?」
「魔石。部屋の中の瘴気の、毒素、分解して、魔力に、した……。そこから、その魔力を凝縮して、魔石に、変換した……」
「そ、そそそそんな事……!?」
驚いてあたふたするワイズたちの認識では、魔石はエヤミモンスターを倒して、初めて得られる物。
無から何かを生み出すという発想すらないだろう。
だが、それをのんびり説明する時間が惜しい。
魔石を浮かせ、それをそのまま魔法陣へと転用する。
「遍くもの。海、空、風、土、石、炎、熱、命。無から有へ、有から無へ。めぐり、めぐる。種から木へ。木から葉へ。葉から花へ。花から実。実から種へ……そこに宿る息吹よ、我らに宿て、神秘の力を貸し与えよ! フル・ハイ・ル・オールアップ!」
ミクルが使える『全員』の身体能力、精神、魔力強化、耐異常状態の魔法。
しかも魔石の効果で増し増しだ。
煙相手でも攻撃が通るよう魔力付加した攻撃力。
あらゆる攻撃を耐えうる防御力。
全員がリズ並みに素早く動けるように俊敏値も底上げされている。
更に急所を見抜ける眼。
精神的に疲れないよう心のダメージに対する耐性も伸ばした。
異常状態は全て無効化。
魔法を使いやすくする為に、自然魔力を集めやすくする効果も付加した。
全員のステータスは五倍近くになっているだろう。
「なに、これ、すごい……体が……力が溢れて……ふわふわする!」
「今ならあんな奴も倒せそうだね! お姉ちゃん!」
「確かに……これなら……! すごいわ、ミクル……!」
「うん、魔法も、いくらでも使えそう……」
「油断、出来ない。でも、さっきの作戦……」
ミクルが告げると、ワイズとリズがニヤ、と笑う。
顔を見合わせた姉妹は「心配不要」と言わんばかり。
二人は剣を引き抜くと、頷き合って階段を駆け下りる。
「行くよ! リズ!」
「うん! お姉ちゃん!」
「「炎の鳥の翼よ! 我が剣に宿れ! ソードクロス・ファイヤーバード!」」
息の合った先制攻撃。
スモークゴーレムは、その攻撃を合図として動き出した。
ワイズとリズの共同攻撃は……煙のモンスターをすり抜ける。
「やっぱり効かない……!?」
「いや、赤い棒、少し削れた! ……で、でも……!」
舌打ちしたくなる。
ミクルの側に残ったユエンズたちも、そのあまりの赤棒の長さ、削れた量に愕然とした。
上の二体はまさに『練習』。
恐ろしいのはこれからだ。
「ワイズ! リズ! 一度下がって!」
ユエンズが正しく状況を理解して叫ぶ。
スモークゴーレムは、その名の通り煙なのだ。
ふっ、と空気中に消え去り、姿を完全に消してしまう。
厄介な事に赤棒も見えなくなった。
「っ! ミクル! どうしよう!」
「鑑定……!」
まず煙の成分を調べる。
ただの水蒸気ならば、火属性の高温魔法で蒸発させればいい。
(やっぱり……濃度の高い魔力……! 火どころか、あらゆる物理攻撃も、通用し、ない……!)
あれは、超凝縮された魔力の粒。
一粒一粒を、それを上回る魔力で相殺するしかない。
今は霧散して形を消している。
(……消えるほど細かいものを、集める……!)








